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粗挽きペッパーのパンチが効いた、香ばしくソテーされた厚切りパンチェッタさんの前菜も。
程よく冷やされた、みずみずしいトマトソースとバジルが、暑さに負けがちな食欲を増進させるパスタも。
焼きたてもっちりのフォカッチャ、とろけるピザバージョンもプレーンも。
よく知らないながら、なんだか本格的なことだけは俺にも察せる、ほろ苦甘いティラミスと爽やかなジェラートの小粋な盛り合わせも。
ふわふわのミルクをこんもり被ったカプチーノも。
全部、ぜーんぶとっても美味しかったけれども。
たくさんの細かく刻まれた野菜が入った、生姜風味のスープをひとくちいただいた時、ものすごく身体の底から安心した。
安心して、何故か泣きそうになった。
目頭も鼻の奥もツンと熱くなった。
ていねいに作られた、温かいお料理は人の心を揺り動かすって、改めて想った。
きっと大切に扱われたお野菜、ひとつひとつの行程をとてもていねいに、心をこめて作られたことが、最初のひとくちで伝わってきた。
スープってすごい。
お料理の集大成というか、俺もこんな一皿が作れるようになりたいな。
「そーいや旭と陽大って仲いーよな。何話してたんだよ」
「昴の悪口」
「マジかー酷い、颯人クン…俺のことは遊びだったの?」
「ふ、お馬鹿さんだな昴…後でたっぷり可愛がってやるってーか、パン美味ーい」
「だろ?」
お料理の美味しさもさることながら、御2方の仲よしさんトークにも、ずいぶん和やかな気持ちになった。
いつもじゃれ合ってばかりいらっしゃる。
不思議な小芝居というか、コントのような雰囲気で、話題はすぐ飛び飛びになって脱線しては、顔を見合わせて笑っていらっしゃる。
それがすごく自然で、旭先輩が「友達だから」と即答なさった意味を端々に感じて、微笑ましい。
同時に、俺はすごく不純で。
いいなぁって、友情への憧れと、複雑な好意からの羨ましさを感じていた。
想いが成就しなくていいから、旭先輩みたいに気安くお話できたら、信頼していただけたらいいのになぁって、どうしても想ってしまう。
親友とまでいかなくても、隣に立てたらいいのにって。
1後輩の分際で、厚かましいことこの上ない。
一緒にごはんを食べているだけでも、すごいことなのに。
「「「ごちそうさまでした」」」
こうして短かったような長かったような、やっぱり短かったトキメキタイム終了。
きれいなお料理たちは、とびきりお洒落なのにどこか優しくて、お腹も心もすっかり満たされた。
イケメンさんに囲まれながら、お片づけもスピーディーに終了。
御2方はほんとうに何でもテキパキこなされるなぁ。
「そう言えば、今更で恐縮ながら…他の皆さまはどうなさったのですか」
食後は満場一致で焙じ茶に決定し(イタリアーンからジャポニズムへ!とは先輩方談)、お茶を入れながら、ほんとうはずっと気になっていたことをやっと口にした。
柾先輩は湯のみを受け取りながら(受け取っていただかなくても結構なんですが…指が触れ…)、何でもないように仰った。
「あー、何かバタバタしてる。取り敢えず各自落ち着いてから来るんじゃね」
「そう…ですか…」
各自落ち着いてから?
柾先輩の急な発表の後、呆然と目を見張っておられた、生徒会の皆さんのお顔が想い浮かんだ。
俺の所為で、いろいろなことに追われていらっしゃるのだろうか。
美味しかった食事から一転、現実に引き戻される。
今頃、号外が配られていて。
親衛隊の皆さま方も混乱されて。
学校中も驚きいっぱいで。
その号外だって所古先輩と十左近先輩の労力の賜物で。
ああ、きっと先生方だって大変に違いない。
どうしよう。
視線が落ちた俺の頭に、ぽんっと大きな手が乗ったのがわかった。
「俺が招いた事態だけどさ。この先もう人前で視線下げんな。いや、今は良い。俺や旭や武士道とか、メンツ選べっつーか。んな不安そうな顔してたら、そこに付け入る奴が絶対出て来る」
旭先輩の手じゃない。
旭先輩は俺の後ろで、焙じ茶を美味しそうにすすって「極楽、極楽」と呟いていらっしゃるから。
「陽大の武器は笑顔だろ。新しい物事に不安は付きもんだけど、てめぇにできねえ事は起こらない。泣き言も愚痴も全部聞くし、今回の事は陽大に相当言い分あるし?話はちゃんとする。だからお前はいつも笑ってな」
柾先輩が肝に銘じていることなのかな。
ふと、そう想いながら、引き攣る口角を自覚しつつ何とか頷いた。
2014.3.1(sat)23-57筆 [ 555/761 ][*prev] [next#]
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