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 そうかと想ったら、にこっと笑いかけられた。
 俺の気の所為だったのかな。
 「そうそー俺、お母さんにお土産あるんだよねーはい、バスケ部専用自販の『爽やか麦茶600』」
 「え…わぁ、爽やかなパッケージですねぇ。ありがとうございます」
 手渡されたペットボトルはよく冷えていて、夏の暑さで喉がカラカラになっていたことを想い出し、ひとことお断りしてからいただいた。
 「おいしい…」

 夏はやっぱり麦茶ですなぁ。
 ごくごく飲めてしまう。
 それにこの麦茶、さすが十八学園仕様&バスケ部さん独占だけあって、軽やかでとおっても爽やかな飲み口だ。
 ううむ、まだまだ侮り難し奥の深さ、十八学園の物販さん。
 もしや、商品の入れ替えも多かったりして?!
 季節ごとの変化も多岐に渡りそうだなぁ、制覇できるだろうか。

 まじまじと麦茶を見つめながら、ひとり思案にふけっていたら、ぽんっと頭の上に大きな手が乗っかったのがわかった。
 「お母さんもいよいよ生徒会入りだねー」
 視線を向けたら、やっぱり気の所為じゃない、旭先輩はいつも一定のテンションを保っておられる様子と異なり、静かな笑みを浮かべておられた。
 何となく落ち着かない心持ちになった。

 「いよいよ…とは…?」
 生徒会室に当たり前のようにいながら(だってお弁当シフトでお邪魔していたから、馴染みがないわけじゃないのです)、実に不甲斐ない話だけれど。
 できればそのことには触れないで欲しかったなぁって、眉尻が下がっていくのが自分でもわかった。
 そんな情けない俺を知ってから知らずか、ぽんぽんっと軽く頭を撫でて、旭先輩の手は離れていった。

 「俺はお母さんは生徒会だろーなーって想ってたからね」
 「え?」
 「いずれ何らかの組織に属するだろーなって。3大勢力だか何だか知んねーけど、目立ってるヤツら以外にも、予想してたヤツは少なくないよー?だって危ないじゃん。いくら武士道と仲良くても、弁当シフトで各会と親交深めても、お母さん単独で渡っていける学園じゃないからねーマジ変な話だけど」
 「…俺は、それだけ悪目立ちしてる、ということでしょうか…」

 ますますトーンの落ちる俺を、きょとんと見た後、旭先輩は笑って首を振った。
 「物事は良いように考えよーお母さん。今はパニックで考えらんないかも知んないけど覚えておいて。やっぱり世の中、笑ったもの勝ちじゃん。勝てる試合も勝てなくなるから、落ち込むのも大事だけど、それでも最後の気力振りしぼって笑おー!ま、俺とか昴の前でいちいち無理してカラ元気出さなくてもいーけどね」
 カラリと言い切って、ご自身も麦茶のペットボトルを開けておられる。

 「俺はねーお母さんはバスケ部にもらおっかなーってマジ考えてたんだよね。マネージャー居ないしさ、夏休みん時もマジ助かったし。『俺ら』なら十分、お母さんと保ちつ保たれつっつの?楽しくやっていけるかなーって。3大勢力とか面倒じゃん。お母さんはあんまり目立ちたくないみたいだしさー。けど、昴のゴリ押しきちゃったねー」
 「ご、ごり!」
 「ははっ、そうゴリ。ま、昴の側が1番安全圏かな。嫌が応にも目立つし、暫くいろいろ言われるだろーけど。楽しんでよ。滅茶苦茶に見えるし、悪人顔だけど、良いヤツだからね、あいつ」

 旭先輩の眼差しが、一際やわらかくなった。
 いつもふざけてばかりいる先輩が、こんなふうに微笑う、大切に想っていらっしゃる親友さんに、俺は余計な想いいれがあるんですよなんて。
 絶対に言えないと想いながら、じくりと痛む心の奥を制するように、聞いてみたかったことを口にした。
 「…旭先輩と柾先輩って、ほんとうにお仲がよろしいですよねぇ…」
 「うん。友達だからねー」

 さらっと即答なさった。
 何の迷いもなく、俺の語尾に被せるように、けれど落ち着いて短く仰った。
 ほんとうの信頼感、切っても切れない強い絆を感じて、何故か鳥肌が立った。
 きっと柾先輩に聞いても同じ反応なんだろうな。
 いや、違う反応であっても、また立場が逆でも、旭先輩も柾先輩も何も気になさらないのではないか。
 御2方の間には、利害も馴れ合いもないように見受けられた。

 「んー、お母さんには言っておこうかなー?」
 「なんでしょう?」
 ぎくりと跳ねる心臓を、隠すように胸を押さえた。
 いずれこの想いは消すから、旭先輩から忠告や拒否はお伺いしたくない。
 まだもう少し待って欲しいって、身を竦める俺に、旭先輩はにこにこと笑っている。
 「昴さー誤解されてんだよね。学園中から」
 「え…?」

 「お母さんも想ってるだろーけど。完璧に見えるでしょー?ま、アノ顔でアノ身体だし文武両道だし、結果出す場面ではトップに立つけど。あいつだって俺らと同じ、扶養されてる高校生のガキで、まだまだこれからなんだよねー。飄々としてっけど、ああ見えて結構悩んでるしボロボロんなってんだよ、実は」
 今度は違う意味で、胸が痛んだ。
 友達の旭先輩の言葉だからこそ、より現実に感じた。

 「でもちょっとでも隙見せたら、この学園ではヤバいじゃん。実際、心身共に鍛えててハンパねーから強いし。だからって悩みのない完全無欠ロボットじゃねーのよ。昴にも当たり前に血が通ってる、人間だからね。あいつだって今まで何度も失敗してるし、判断ミスだって少なからずあった。けど、最良の結果の陰に隠れて、あいつの苦悩には誰も気づいてねーの。大人の先生方だって読めないぐらい、あいつが頑張んのが悪いけどさー」

 温かい瞳が、俺をまっすぐ見つめた。
 ちょっと柾先輩に似てるなって、親友だからかなって想った。
 「昴をよろしくね、陽大くん」
 俺が言うのも変だけどと、おかしそうに笑っておられる。
 「言う事やる事、滅茶苦茶に見えるかも知んねーし、間違う事もあるけど。昴は学園を少しでも良くしたいって、どうにかしたいって頑張ってる。1度でも懐に入れた人間は裏切らないから。あいつの事、信じていーからね」

 こんな大事な言葉を、俺などが聞いていていいのか。
 「俺は何があっても、昴と陽大くんの味方だからねー。あ、そうそう、だから俺のことも信じてねー」
 ただ、優しい眼差しから目を逸らせなかった。



 2014.2.25(tue)23:09筆


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