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 いきなり背後から目を塞がれて、びっくりしたけれど。
 この感覚、覚えていますよ。
 これはそう、1学期の体育祭の頃、チーム練習の度に忍び寄って来られた…
 「旭先輩ですね…?!」
 すかさず目を覆っている両手を掴み、ばっと後ろを振り返ったら。
 「「半分ハズレー」」
 なんと!!

 「声は俺でしたー」
 「手は俺でしたー」
 旭先輩と柾先輩がいらっしゃったではありませんか。
 まるで優月さんと満月さんの如き、ピタリと息の合ったコンビネーション。
 いや、今更ながら御2方の仲よしさんぶりに目を奪われている場合ではございません。
 「「あれ、固まってら」」
 固まるに決まっておりますとも。

 こんな近くに、すぐ触れる場所に柾先輩って、いや俺!!
 ててっ手、手!!
 固まってる場合じゃない、手を離さないとっ!!
 「いーなー昴、お母さんに手ぇ握ってもらってー」
 「いーでしょー!颯人くんも繋いでもらったら?」
 「うん!お母さん、俺も手ぇ繋ぐー片っぽ俺ー」
 「陽大、真ん中なー」

 いえいえいえいえ!!
 この状態はなんでしょうか?
 何故、右に柾先輩、左に旭先輩な両手に花状態と言うか、どうして手を繋いでいるのか意味がわかりません。
 不意打ちの上、予想外すぎて、俺はただ固まっているだけ。
 御2方とも手があったかいと言うか、柾先輩はお熱がある勢いと言うか、御2方とも手が男らしくておっきいって言うか、柾先輩はまさか喧嘩しすぎのゴツゴツ感?と言うか!!

 身体の右半身だけ、異常に凝り固まっていくのがわかった。
 柾先輩も旭先輩も、会話やスキンシップやらコミュニケーションが多い。
 すぐ頭や肩や腕に触れたり、ハイタッチ系は数えきれない程だ。
 じゃれつき度合いは、秀平たちや武士道を凌駕するかも知れない。
 あの子たちは出会ったばかりの頃、俺が人見知りするということもあって、すこし距離があった。
 言葉をたくさん交わしながら、ゆっくり甘えたさんになっていったっけ。

 気まずさを懐かしい想い出にすり替えながら。
 手を繋いだまま、御2方に引っ張られるように生徒会室へ向かった。
 もし、もしも。
 俺が柾先輩のことを、ただの1後輩視点じゃなくて、特別に想っているって知られてしまったら。
 こんなふうに、じゃれ合いの一環と言うか、ふざけて手を繋ぐことにも、ひどく意識してしまっていることがバレたら。

 どうなってしまうんだろう。
 婚約者さんがいらっしゃることを知って、でも自覚したばかりの気持ちを捨てられず、別にどうこうなりたいわけじゃないけれど、あんなに長い夏休みがあったのに、まだ勝手に想い続けているって知られたら。
 この手は、すぐ振り払われてしまうのかな。
 先輩の親友の旭先輩からも、疎ましく想われてしまうのかな。

 もう2度と、こんなふうに手を繋いで歩くどころか、会話もスキンシップも一切なくなって、埋めようがない距離が空いてしまうのだろうか。

 ゾッとした。
 分厚い、越えられない壁が、身近に触れている今も、この手と手の間にしっかり存在している。
 このじゃれ合いは、とても儚くて脆いものだ。
 すぐに壊れてしまう。
 だって先輩と俺には、秀平たちや武士道と築いてきたような、友情や温かい関係性がまったくない。

 何故か目をかけていただいている、ただの先輩後輩に過ぎない。
 先輩が何を想って生徒会に推してくださったのか、真意はわからないけれど。
 俺が一方的に想っているだけだ。
 それだけが確かな事実で、1度この邪な心が知れたが最後、もう2度と柾先輩とお話するどころか、視線が合うことすら叶わないのではないか。
 「「とーちゃーく」」

 いつの間にかたどり着いた室内、手を引かれるままソファーに座りながら、改めてこの想いは消さなければならないんだと知った。
 「ん?何か陽大、顔色悪くね。頬は火照ってるけど体温低いし、寒ぃの?」
 「昴が体温高すぎんでしょー。でもマジ、お母さん大丈夫?具合悪ぃの?」
 「…大丈夫でございます…っ?!」
 「ん―――…熱は無えみてえだけど」

 ぐっと項を引き寄せられたと想ったら、おでこtoおでこ。
 ほんの鼻先にある、恐ろしいレベルで整ったお顔に、凛々しい眼差しに、全身の血が沸き立つのは一瞬だった。
 「んなっ、なっ、何をなさるのですか―――っ!!」
 想わずどーんと、両手で突き放してしまったのはやむを得ないことですとも。
 俺なんか、俺なんか、今1番先輩にとって危険人物なんですからねっ!!



 2014.2.22(sat)22:17筆


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