17.あたたかい光


 呆然としたまま、業田先生に指示を受けた通り、生徒会室がある建物へ向かった。
 当然ながら、俺のカードでは入室できない。
 恐る恐る強張った指を伸ばして、呼び鈴を押してみたけれど、応答はなかった。
 建物自体、人気がなく静まり返っている。
 そう言えば、無気力ながら早足で歩いて来たからか、学校内も人気が少ないと言うか、道中で誰とすれ違ったかも覚えていないなぁ。
 
 怪我の功名ってやつだろうか。
 いいや、違うような気がする。
 ふうっとため息を吐いて、ドアに少しだけもたれかかるように背を預けた。
 空はまだ夏のまま、こんなにも明るいのに。
 お日さまもあんなに照っているのに。
 なんだか上を向くのが辛くて、色鮮やかな世界から目を逸らした。

 生徒会どころか、学校全体から、ついに愛想をつかれてしまった。
 そんな静けさに包まれている。
 建物自体からも閉め出されているような。
 足元に転がっていた、ちいさな小石を蹴って芝生に落とそうとして、躊躇った。
 石だからって、もの言わない自然のものだからって、蹴りたくないなぁなんて想ってしまった。

 よくよく見れば、蟻があちこちにいて、せっせと働いている。
 今年もきっと残暑厳しいだろう。
 秋冬も暖かいかも知れない。
 けれどそんな先のことはどうあれ、ちいさな命は今できることに懸命だった。
 俺の不注意で、僅かでも動けば踏みつぶしてしまうかも知れない、そんな目先の危険のことなど、くよくよ考えないのだろう。

 冬まで生きているかどうかわからない、だけど今を生きるために頑張って働いている。
 俺はこうして自分のことだけで手いっぱいで、何かある度すぐ立ち止まっては途方に暮れているというのに。
 情けないなぁ。
 どこへでも行ける筈なのに。
 その気になれば何だってできる筈が、学校のことで落ちこんでしまうなんて、この先どうなることやら。

 ちょっと可笑しく想えてきたところで、新学期スタートに向けて、気合いを入れてピカピカに磨いたローファーが目に入った。
 『靴はいつもキレイにして大事にするのよ。汚れた靴を履いて出かけるなんてダメ。 キレイな靴だと、周りの人も自分も気持ちが良いでしょう。それにね、ショックなことがあった時、落ち込んだ時って上を向けないじゃない?でも下を向いた時に、ピカピカに磨いた靴が目に入ったら、ちょっと元気になれるから』

 母さんの言う通りだなぁ。
 手入れできてない靴だったら、もっともっと落ちこんでたかも知れない。
 大丈夫だって、心の底から静かな確信が湧いてきた。
 まだ大丈夫、まだ頑張れる。
 そもそも、生徒会のことに関しては何ひとつ頑張れてない、始まってもいない。
 俺は俺のできることを、2学期もひとつひとつ頑張っていこう。

 もう決まってしまったことだもの。
 チャレンジしてみて、自他共に無理があるなら辞退することも許していただける筈だ―――?!

 「だ〜〜〜れだっ」



 2014.2.21(fri)22:50筆


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