16. 化粧オバケの本音 by 心太(5)


 一平先輩のご機嫌が悪い。
 すこぶる悪い。
 ランチは先輩の大好きな、十八学園が誇る本格的イタリアンレストラン(ショッピングモール内で気侭に営業中!)にオーダーして運んでもらったのに。
 パンツェッタのせのバジルサラダに石釜焼きピザ、海老のトマトクリームリゾット、バケツ一杯食べれると豪語するティラミスとカプチーノっていう、ちょっと夏バテにはキツいっスって内容だ。

 それを喰らい尽くして(俺は先輩の半分ぐらいでやっとだった)尚、ぶすっとしたまんまって、もう手ぇつけらんねーんだけど。
 あと数時間もすれば、全親衛隊のトップミーティングが始まる。
 さっき通知してやっと、俺と先輩の携帯が落ち着いた。
 学園内だけで回線パンクすんじゃねーのっつーぐらい上も下も大騒ぎで、こんな時、親衛隊はどうすんのかって先ず注目される。

 常ならば、例えそれまで不機嫌でも、美味いメシさえ食えば何とか浮上して、どっちかっつーとパニックを愉しむ余裕すら見せる一平先輩が、カプチーノ3杯目突入しても渋い顔のままダンマリって。
 俺にはどうしようもない。
 昴に振り回されるのは、今に始まった話じゃない。
 想い返して指折り数えてもキリがない程、振り回されるのが当たり前の学園生活だ。
 
 俺らだけじゃない、裏の3大勢力はおろか、理事長や業田先生にすら一言も相談せず、ヤツは暴走する。
 いい加減慣れてる。
 俺らは毎回毎回、後始末をどうするか、速やかに事を収束する為に動くプロフェッショナルだ、最早。
 莉人の面倒だけ見てりゃ良い筈の俺まで、ヤツも一平先輩も巻き込んでくださるものだから、何とか奔走して落ち着かせて来た、今までは。

 今回ばかりはお手上げだ。
 流石にもう、俺は知らんって匙を投げたい。
 本日限りで辞めさせていただきますって、親衛隊も学園からも逃げてぇよ。
 莉人が残んのはヤバいな。
 首に縄つけてでも引きずって、一緒に辞めるしかないか。
 いや、んな強引なマネしなくても、あいつも喜んでスキップ混じりで学園から飛び出すかもな。

 考えたら面白い。
 アノ澄ました王子様仮面の莉人が、浮かれくさってスキップとか、マジウケるー!
 って、ウケてる場合じゃねぇっつの。
 現実逃避したい。
 しかし逃げようものなら、昴も一平先輩も地獄の底の底であろうとどこまでも追いかけて来そうで、面倒くさい。
 そう、面倒くさいから逃げなかったんだよな、今までは。

 怒りだか何だかで震える手で、携帯を握り締める様に掴んでいたら、メキっと不吉な音がしてやべーやべーと力を抜いた。
 画面には能天気メールが2通並んでる。
 『親衛隊のフォローよろしく☆(^∀^)ノ昴☆』じゃねーんだよ、なんだよ星マークうぜーなこんちくしょおおお!
 『俺も現状、よくわかっていない。莉人』じゃねーんだよ、珍しくパニくんなよ王子様よお、こっちはんな事聞きたかねーんだよ指示くれ指示!!

 「………取り敢えず」
 ワナワナ震える手で、携帯の代わりに一平先輩愛用のゆるキャラぬいぐるみ、低反発仕様の「くまぷぅ」を握りつぶしていたら。
 同じ内容のメールが届いているんだろう、携帯の画面を眺めながら、眉間にものっそい皺寄せたままで、一平先輩が呟いた。
 「…はい」
 かつてなく緊張しながら、言葉を待った。


 「一緒に逃げようか、心太」


 それこそ星マーク飛びそうなウィンク付きで言われて、想いっきり頷いた。
 「逃げましょう!!一平先輩!!自分、何処までもついて行くっス!!」
 「アッハッハ!!だよなぁ、心太!!」
 「ですよぉ、一平先輩!!」
 手と手を合わせて、にっこり。
 「「逃げる事しか最善の策が浮かばねぇもん!」」
 それに尽きる。

 がっくりと手を合わせたまま、2人で項垂れた。
 「…取り敢えず、もう1杯…エズプレッソでも飲むかな…」
 「…先輩…胃が荒れるんで、もう止めた方が良いスよ…ホットミルクにしましょう…蜂蜜入りの…俺、入れて来るっス」
 「すまないね、心太…」
 よぼよぼとキッチンへ立った。
 どうせ前陽大君に役職をつけるなら、親衛隊に来て専らお茶担当して欲しかったぜ。
 なーんてな!



 2014.2.19(wed)22:29筆


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