15.大きくて小さなワンコの遠吠え(6)
はるとが、生徒会にくる。
いきなり決まったこと、いきなりこーちゃんが誰にも相談せず、勝手に決めて、勝手に言っちゃったこと。
各委員も先生も、始業式の後はバタバタだった。
バタバタしない人はいなかった。
こうなった張本人のこーちゃんは、トップに立つ側の人間。
だから、他のトップの人達と、コソコソ話していればいい。
その下に立つおれ達こそ、ほんとうに大変。
いいや、おれ達は、ゆーもみーもひさしもおれも、「どういう事ですか?!」っていう皆の声に、きょとんと首を傾げていればいい。
おれ達も今知ったばっかりだから、なんにも知らないって。
そう言っておけば、「また」こーちゃんの暴走かって、皆納得してくれる。
今に始まったことじゃないから。
ずっと、ずっと、中等部からこんなふうだったから。
おれ達は、何も知らない。
こーちゃんがなんでも決める。
それを理事長やりっちゃんや、他のトップの人達が、どうにか話をつけて調整する。
そうして決まったことを、やっと説明されて、おれ達は従う。
おれ達が従うことで、その下の人達も納得して、全部うまくいく。
めでたしめでたし、おしまい。
だから、「生徒会は柾と日景館が主で、後はおまけ」って言われてる。
後はただのお祭り好きで、チャラチャラしてて、こーちゃんから信用されてないから、何も知らないんだって。
来年になったら、中等部生徒会を仕切ってる、おれ達の大キライなヤツらがくる。
アイツらにもおれ達は見下され、バカにされてきた。
だけどこーちゃんは、アイツらを尊重してて、大事な仕事も任せる。
おれ達はいつまでも、簡単な仕事と、前に出て目立つ役ばかり。
わかってるよ、こーちゃん。
ソレがおれ達の望みだったから。
ひさしだけじゃない、ゆーもみーもおれも、生徒会の皆は好きだけど、仕事はキライ。
できるだけサボりたい。
できるだけ毎日遊んでいたい。
こうなったのは、おれ達の思惑通り。
こーちゃんみたいに厄介事ばかり抱えるのはごめんだって、最初からダラけてた。
どうしてこーちゃんが側に置いてくれるのか、わからないぐらい。
いっそ「出て行け!!」って、ものすごく怒られたい。
本気で怒られたら、おれ達も、ひさしだってもっと頑張るかも知れない。
だけど、こーちゃんは優しいから、おれ達がサボっても頑張らなくても、あんまり何も言わないで、イヤミなのはりっちゃんばっかりで。
おれ達は、一体なぁに?
こーちゃんにとって、どんな存在なんだろう。
体育祭頃からずっと、おれは考えてる。
中等部の頃は遊びに夢中だったのに、今は遊んでも楽しくなくなった。
二学期が始まるなら、生徒会どうしようって。
もうちょっと頑張ってみようかなって、ちょっと想っていた。
こーちゃんの見ている世界に、少しでも近づけるかな。
どうやって頑張ったらいいんだろう。
そう想っていたら、はるとが生徒会にくることになった。
しかも、フツーの補佐じゃない。
会長補佐だ。
かつてなくバタバタなのも、無理はない。
おれの親衛隊からもずっと、メールが送り続けられてくる。
その位置に立つのは、来年進級してくる、中等部の藤枝(ふじえだ)じゃないの?
藤枝は大キライだけど、ちゃんと生徒会長を務められる。
こーちゃんが卒業しても、大丈夫なように、しっかりしてる。
どうして、はるとを選んだの。
はるとが来るのは、すごく嬉しいはずなのに。
生徒会に来てほしいなって、ずっと想っていたのに。
おれの望んでいた形じゃない。
こーちゃんにはキレイな婚約者がいる。
夏休み、何かのパーティーでちらっと見かけた、おれは知ってる。
はるとのことが好きなわけじゃない、そういうので、生徒会メンバーを選ぶこーちゃんじゃないし。
こーちゃんは、何を考えてるの。
どんな世界を見ているの。
おれには何もわからない。
はるとが生徒会に来るのに、あんまり嬉しくないのはどうして。
バタバタ走り回る皆を、ぼんやり遠目に見ながら、ただ立っていた。
面白味なく、つまんない。
服を着せられる前のマネキン人形みたいに立って、出番がくるまで大人しくしていることしか、できなかった。
2014.2.18(tue)22:15筆[ 548/761 ][*prev] [next#]
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