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 ふと微笑った、表情の変化と共に雲間に潜んでいた太陽も現れ、彼の穏やかな表情を照らした。
 これ程、光が似合う者もいないのではないか。
 眩い光に目を逸らさず、決して顔を下げず、堂々と立つ。
 どのような教育を受けてきたのか。
 長年の疑問が首をもたげる。
 彼はどんな家庭で育ってきたのか。

 話しぶりでは大事に想い想われているらしい、だが文武両道、礼儀作法は完璧で、厳しく育てられた片鱗を見せつつ、押さえつけられた歪みや窮屈さを微塵にも感じさせない。
 彼はとても明るく前を向いている、他に肩を並べる子供などいない程に。
 どんな環境に身を置けば、こうなるのか。
 眩しい想いでデスクから見上げた。
 やわらかな微笑を浮かべたまま、落ち着いた声が紡がれる。

 「皆が驚くだろうとは想っていましたが…どちらかと言うと、俺はサプライズの意味で捉えていたので、こうもあちこち動揺させる事になるとは考えが及ばず、対策が甘かったですね。学園を騒がせてすみません、十八理事長」
 「いや…君がここまで動くとは想ってもみなかったんだよ、私も皆もね。確かに体育祭での君と前君のコンビネーションは素晴らしいものだったけれど、前君が生徒会長という図は誰も想い浮かべない」

 ちらっと一学期の恨み節も加えたけれど、カラリと笑って交わされた。
 「じゃあ、予想外に上手く盲点突いちゃったって事ですね。んー…選挙まで取っておけば良かったかな」
 「柾君…と言うか君の中では、前君は生徒会長本決まりなのかな。先ず確認したいのはその点に尽きるんだけど」
 「『それ』も学園の伝統ですよね。一応選挙あるけど、各役員はほぼ『自動的に』エスカレーター上って行くっていう、黙認されたシステム。俺はそれもなくしたいです」

 「え…段階を経ないと言う事かな」
 「段階を踏むのもいきなり役職トップに立つのも有り。どんな道も大半OKなのが自然だと想うんですよ。だから、陽大を会長補佐にするし、そのまま学年上がって自動的に会長になるのも有り、でも補佐のままで終わるのも、一期のみ補佐を務めるのも有りかと。途中で風紀に行くとか、武士道に行くとか、他の委員でも良い。一般生徒に戻るのも良いでしょう。何せ選択肢があるという事です」

 「なるほど…生徒が1つに縛られずいろいろな役職を経験する。或いは1つを全うするも自由か…それには賛成だけど、敢えて前君をモデルケースにする必要があるのかな?他に適任者は多数居ると想う。君の友人の旭君とか、未だに役職に就かないのが不思議だ」
 「旭は無理です。あいつはバスケ部で手いっぱい、他に考える事もあるから…自由に見えて自由が利かないんですよ。役職に就くのも向いてない。運動部部長は適任でも、全校生徒まで幅を広げるのは厳しい。ま、旭が隣に居たら心強いとは、誰よりも俺自身が想ってますけどね」

 たぶん、複雑な顔をしているのだろう。
 いろんな意味で。
 ゆくゆくは我が子となる、大事な子供を目立つ場所に祭り上げられる事と、学園中に轟渡っている「旭と柾は切っても切れない親友」だという公認の事実に、ちょっとした嫉妬もあるのだ。
 戦友だと、自分は想っているから。
 何もかもお見通しなのだろうか、やんわりと包み込まれるような笑顔を向けられた。

 気恥ずかしくなったが、不思議と居心地は悪くなかった。
 「旭の話はそれで終わりとして…今は陽大の事ですよね。俺なりに考えたんですよ。武士道に慕われてる、クラスや学年越えて親しまれてる、十八さんの家族だし、外のダチにも心配されてる。俺にとって面白くて可愛い後輩だし。大事にしねえとなーどうやったら守れんのかなーって、やっぱり俺の側が1番目立つ代償に、1番安全じゃねえかと。俺らの卒業後も含めて、ね」

 「柾君…」
 「陽大なら1つ1つの経験を吸収して伸びて行く。会長になるならないは別として、良い経験、良い想い出にできる。本人が気にしてる学業方面も、逆に近くにいたらもっとサポートしてやれるし、生徒会のブランドで成績も内申も大目に見て貰えるじゃないですか。トータルしてお互い安心で得るもの多いかなと決断した次第です。今まで同様、俺を信頼していただけるなら、理事長、暫く俺に陽大を任せてください」
 
 嘘のない、まっすぐな眼差しに、様々な局面を乗り越えてきた事が想い返された。
 その都度、彼は光を増すばかりの瞳を有し、皆を先導して走ってくれたのだ。
 信じなかった事はない。
 どこかで不安はあったとしても。
 「わかった…君の想いはわかった。この一件は任せるよ。どの道、会長補佐となれば教育係の主格は柾君だしね」
 「ありがとうございます」

 「…わかったけれども…っ」
 「理事長?」
 「昴君にかしこまって『理事長』とか敬語とかっ…言われたら哀しいって言うかっ…僕だって旭君と同じ頃に昴君と仲良くなったのに…所詮、年齢差と言うか寂しいって言うか…」
 「あー、はいはい。仕方ないなぁ、十八さん。あまり畏まらない様にくだけた言葉遣いを意識してましたけどねー十八さんは十八さん、旭は旭でしょ。俺にとってどちらも比べようがない、大切な友人ですよ」

 「昴君…!…あと、『面白くて可愛い後輩』が気になるって言うか…そもそも休み前の号外の話をちゃんと聞いてないって言うか!旭君は知ってる事なのか…僕はまったく聞いてないんだけど?昴君、恋バナ全然してくれないから…」
 「取り敢えずー」
 「取り敢えず?!」
 「お茶のお代わりいかがですか」
 にっこりと笑う、王者は残暑をものともせず、二学期も健やかな様子であった。



 2014.2.14(fri)22:27筆


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