12. 誰も知らない仲良しな2人(2)


 「昴く〜ん…!!」
 「お待たせ致しました。残暑でお疲れ気味の十八様にはこちら、『KAIDO』が誇る隠れた名店、『蒼海(あおい)』の夏の逸品、水菓子『爽夏(そうか)』と、店名を配した深蒸し緑茶『蒼海』はいかがでございましょうか」
 「わあ…これまた綺麗なお菓子だねー…すごーい!本当に金魚が泳いでるみたい。これはゼリー?色とりどりの泡まで入って幻想的!」
 
 「素敵なお言葉ありがとうございます。仰る通り、こちらはほのかなレモン風味の爽やかなゼリーをベースに、職人が心を込めて幾層にも異なるゼリーと果実や豆を重ねた、ひとつの作品でございます。勿論、すべて召し上がっていただけます」
 「なんだか食べるのがもったいないねー…ずっと眺めていたいぐらいだよー。見た目の涼しさで、残暑の厳しさも忘れちゃうね」
 「有り難いお言葉でございます。召し上がって頂ければ尚の事、ご満足いただける涼菓となっております。冷たい内にお召し上がり下さいませ」

 「そうだよねーでもお茶も良い香りー…こちらもすごく綺麗な水色だね」
 「お褒めに預かり恐悦至極でございます。長年の叡智が集結した、特別ながら非常に味わって頂き易い緑茶となっております。夏こそ熱いお茶をお勧め致します。ゆっくり召し上がって頂ければ、連日の熱さで滅入りがちな心身もリフレッシュ出来るかと存じます」
 「じゃあ、お茶からいただこうかな。んー…良い香りー…んん、これは…ふわっと濃い香りの後にすうっと喉を通り抜けていって…しっかりした味なのに、後口がやわらかい!でも浅くなくて…うーん、何だか安心するねー」

 「ありがとうございます」
 「お菓子も頂こうかな…わ、ほわっとしてるー!すうっと切れるのに、鋭角じゃないっていうか、優しい感触だねー。ん、おいしい…!レモン果汁がじゅわっと…ジューシーだけど甘過ぎず爽やか過ぎず、ひたすら上品!んー…甘いもの、そんなに食べないけど『KAIDO』さんのお菓子は何を頂いても美味しいなぁ」
 「良うございました。お茶の2煎目もお勧めでございますよ」
 「わぁ、是非!そうそう、今日はねー何かすっごく奇想天外で疲れちゃって…って昴くんったら!!僕は騙されないんだからねっ」

 「えー?騙すとか騙さないじゃなくてー俺はただ、残暑厳しい折、十八さんと1カ月ぶりの再会で嬉しいからこそ、美味しいお茶タイムを提供したいだけなんですよ?あ、こんがりバームクーヘンとアイスレモンティっつー組み合わせもお勧めですが?」
 「わぁ、洋菓子も捨て難い!って、そうじゃなくて!そうじゃなくてー!!」
 「十八さんって何か愛らしいっつか、まんま言うと可愛いよねー」
 「なっ!!稀代の男前に言われると照れると言うか…もうっ、僕は昴君より大分年上ですよ?」
 「そうだけどーでも可愛いなぁって素直な感想」
 
 「えー何か恥ずかしいなー…じゃなくて!!もー昴く―――ん!!」
 「はいはい」
 「はいはいじゃなくて…じゃなくて!!頼むよ―――…ちょっと本気で泣きそう…」
 「あれ、十八さん泣いちゃうの?ハンカチ派?ティッシュ派?どっちも持ってるから差し上げますよ。それとも胸でも背中でもお貸ししましょうか」
 「…昔から君には借りっ放しと言うか、頼ってばっかりだったけどね…」
 ため息ひとつで、シリアスな空気が訪れる。
 軽い調子を崩さなかった彼も、目を細めて姿勢を改めた。
 
 「本音を聞かせて欲しい、柾君。何を考えてそういう結論になった?私は恐縮ながら私情を挟みつつ前君を頼むと言った。でも彼を生徒会長に推したいとは一言も言っていない。私情を捨てたとしても、前君が生徒会長に相応しいとはとても想えない。彼が生徒会に入る事を反対はしないよ。補佐は適役だろう。だが、『生徒会長補佐』は無理だ。君はまさか…」
 何かを言いかけて、理事長は自らちいさくかぶりを振った。

 
 「まさかこの学園を滅茶苦茶にするのが望みなのか」、なんて。


 口が裂けても言えない。
 絶対に言ってはならない言葉だった。
 他ならぬ柾昴に、それだけは言ってはならない。
 誰よりも我が身を粉にし、目指す未来の為に尽力してくれた、ここまで共に歩んで来た彼を突き飛ばすような真似、自分だけは冗談でもできない。
 例えそれが真実だとしても、この大人びて見えるが実はまだ子供である彼を、自分だけは最後まで信じ抜く。
 この子の並みならない働きに及びもしないが、それが自分の誠意だと想うから。
 


 2014.2.13(thu)23:57筆


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