10.天使バルサンが奏でる狂想曲(12)


 なんか変だ。
 全部、変な空気、変に歪んでる。
 なんか、う―――ってなるけど、どうしようもないカンジ。
 なんだコレ?
 体育祭の時だってさ、皆はるとをスルーしたり、コソコソ言ったりして、変なカンジになっちゃったけど。
 …あの時は、オレだってはるとに冷たくしたけどさ…。

 クラスだけはマシだった。
 はるとと仲良くしてるヤツら、ちゃんと居たから、オレも安心して遠くに居れたっつーかさ。
 ううん、違うんだ。
 夏休み中、考えてたけど。
 昴に、外に婚約者いるとかぶわーって噂んなって、本人に何度聞いてもはぐらかされたまま、テスト始まって夏休みになって。

 誰に聞いてもわかんないって言われた。
 けど、昴は1回も否定しなかったから、ホントの事なんだろ。
 違うなら違うって言うもんな。
 そりゃあんだけカッコ良くて、すごい家柄らしーし、婚約者が何人いたって不思議じゃないもんな。
 すげーモテそうだし、昴の親衛隊ってすげーデカいし、ガッコでも外でも昴は間違いなく凄い男だから。

 そうわかったら、ちょっと気楽になった。
 昴ともっと仲良くなりたいのは変わんないけど、1番とか無理って、外に大事なヒトがちゃんと居るんじゃんってわかったら、なーんだそっかって。
 はるとと仲良く見えるのは、別に特別なワケじゃなかったんだ。
 昴の「特別」は外に居るから。
 だったらフツーに親友になるって、そんではるとと3人で仲良くしたらいーや。
 
 なんか変に悩んでたのがバカみてー!
 そうしたら夏休みも楽しくなってきて、阿修羅と毎日バカ騒ぎして、あっという間に終わったんだよな。
 明るい気分でガッコ来たら、いきなり昴がはるとを生徒会に入れるって指名した。
 なんでオレじゃないんだよ?!って一瞬思ったけど、はると、しっかりしてるもんな。
 皆のお母さんでアイドルだから、しかも補佐だしいーんじゃんって納得した。

 オレは細かい仕事とか会議とか苦手なんだ!
 白馬で思い知ってるからな!
 生徒会も風紀も無理!!
 自由な帰宅部が1番いい。
 だから応援しよーって思ったし、きっと皆すげー拍手だろーなって、オレも負けずに拍手するって構えたのに。

 誰も笑ってねーし、拍手ゼロ。
 コハルは昴の親衛隊だからフクザツなのかも知んねーけど、ダイスケもミキもヒロもセンセーも、誰も笑ってなかった。
 オレのクラスだけかと思って見渡したら、他のクラスの連中も風紀も武士道もセンセー達も、舞台上の生徒会も誰も笑ってなかった。
 昴しか笑ってなくて、なんか怖かった。
 
 なによりも、はるとが笑ってなくて青ざめてた。
 なんにも楽しくないって顔、体育祭で昴と組んでた時に何回も見たけど。
 それよりもずっと、辛そうな顔してた。
 はるとは入りたくないんだ。
 だけど、昴の命令だから行くしかないんだ。
 いつもニコニコしてるはるとが笑ってないのに、昴の命令なのに、周りははるとを責めるような空気になってた。

 クラスに戻って来ても変わらなかった。
 ダイスケとコハルがはるとの側に居たけど、2人共、なんか困った顔してて。
 同じ生徒会のソースケは、イベントの時ぐらいしかクラスに居ないらしーし。
 なんでだ。
 はるとは悪くないのに、皆、なんで遠巻きにするんだ。
 体育祭の時はまだマシだったじゃん。
 
 って、そうか。
 あの時は他に2年も3年も居た。
 昴と仲の良いヤツらばっかで、そいつらがはるとに構ってたからマシに見えたんだ。
 クラスの連中はその時からこんなカンジだったのかも。
 ヒソヒソ、聞こえないようになんか言うだけ。
 本人にはなにも言わないし、側にも近寄らない。
 距離を空けて、ただ見てる。

 オレは違う!!
 オレははるとの親友だ。
 だから側に行きたいけど、ミキが「関わんな」つって袖引いてくるし。
 なんでか声が出ない。
 足も動かない。
 変な重い空気にまとわりつかれて、いっぱい夏休みの事話したいのに、またはるとのメシが食いたいのに、全然動けない。

 「ほい!以上でHRを終了しまぁす。解散!!」
 センセーの合図でHRが終わった。
 皆さっさと立ち上がる中、センセーがはるとを呼んでんのが見えた。
 「前、早速だけどこの後、生徒会ミーティングがある。俺はちょっと職室寄ってくから先行っといてくれ」
 はるとの声はザワザワに押されて聞こえなかったけど、ちいさく頷いてんのが見えた。

 側に行きたいのに、遠い。
 なんで?
 オレも一緒に行くって言いたいのに。
 変な空気に監視されてるみたいで、重くて動けないんだ。
 コレ、なんか知ってるかも。
 思い当たって、ますます動けなくなった。

 白馬を出る前と同じ空気だ。
 イヤな場面がいっぱい甦って、オレはミキに何回も呼ばれるまで、自分の席でぼんやりしていた。



 2014.2.11(tue)21:01筆


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