9.金いろ狼ちゃんの武士道(5)
残ったのは俺ら、5人だけ。
あれからすぐ、昴は理事長にお呼び出し喰らって、のらりくらりと出て行った。
どーでもいーが、何かある度に呼び出し喰らってるよな。
平気そーにしてるから慣れたもんだろうが、俺だったらゴメンだね。
理事長って穏やかそーに紳士然としてるけど、掴めないっつーか謎っつーか、ナニ考えてんのか読めねーから苦手だ。
それにしても今、何時だ?
校内ザワついてねーって事は、まだ新学期の云々かんぬんHR中か。
誰のものとも知れない、携帯がブルってる音が響いてる、あちこちで。
俺のも回線パンクすんじゃねっつーぐらいうるせーから、実はこっそり切ってやった。
一成が切ってなかったら、全部お問い合わせは一成へ、だな。
ま、いつかのお返しっつー事で。
あー怠ぃわ。
始業式ってマジ怠ぃ。
久しぶりの食堂、ナニ食おっかなー。
「…って、それどころじゃねーわな…」
「何だ、仁」
「うーん、参ったって独り言」
シリアスな日和佐先輩にぎっと睨まれて、やれやれとため息吐いた。
食堂行ってる場合じゃねーわな。
はるとと約束してっけど、今日どころか当分無理かも知んねー。
誰もが無言の中、昴が開けてった窓辺ヘ近寄った。
どうすんだよ、この始末。
俺は、武士道はどう動くか。
どう動けば、はるとはずっと笑ってられんだ。
答えが出ないから、今後が読めないから、俺もコイツらも全員黙ってるしかない。
俺らの不文律っつーか、暗黙の了解がある。
昴の決定に従う。
言いたい事は言う、疑問はぶつける、たまに手だの足だの出る事もある(あ、たまにじゃねーな、頻繁か)。
互いの腹の内を、この6人の前ではぶちまける。
けど、何だかんだ言っても昴の下した結論には従う。
ヤツが1番先を見通してるから。
俺はたぶん、この中でも昴を信用してる方だろう。
間違いねぇから。
今までそうして上手く行ってきたから。
卒業まで揺るぎないと、どっかで勝手に安心してた。
それが何かなー、今回ばかりはよし、わかった!と頷けない。
容易に頷けない事態は多々あったけど、最後にはてめぇの頭や皆で話し合っては納得してた。
それができない。
話し合う言葉も見つからねー程、俺らは動揺してる。
はるとを1生徒のままにしてらんねー、全員それに異論はない。
どっかが引き入れて、役職付けた方が安心だ。
生徒会かも知んねーなって、頭の片隅では想ってたさ。
俺と一成が同年なら武士道で全然問題ねー、けど俺らの卒業後に憂いが残る。
風紀もいーけど、はるとには喧嘩の腕もなけりゃ武道の心得もない。
生徒会はあのアホな1年生組が居るが、来年から現中等部生徒会所属の、強力なメンバーが入る。
入るなら生徒会がベストだろ、面白くねーけど。
問題は、生徒会長補佐っつー役名だ。
何でそーなった?
昴はナニ考えてんだ。
歴代、前例がない。
「補佐」なら、生徒会メンバー誰でも指名できる雑用係、それで済む。
「生徒会長補佐」イコール現役会長しか指名できねーイコール、いずれ自動的に会長になる事が約束される。
天変地異でも起こらない限り、だ。
実際、昴も宮成センパイもその前のかいちょーとかも、生徒会長補佐上がりだ。
これを知らない生徒は居ない。
昴は来期も会長続投する筈、卒業後ははるとに押しつけて後はよろしくってんじゃねーだろーな。
アイツがそんな浅はかで手緩いマネすんのか。
はるとを守る最善策が、はるとを会長に担ぎ上げる事なのか。
「「「「「意味がわからない」」」」」
想わず呟いたら、他の4人と見事に被った。
顔を見合わせても、ため息しか出ない。
後の1人、一成はずっと不気味に黙ったままだった、今から喧嘩あったっけ?っつーぐらい冷たい眼差しを上げた。
「わかんねーけど〜もー取り返しはつかないんだよね〜はるるはまた勝手に舞台に上げられちゃいましたとさ〜…ヤバいよね〜…ボッコボコのドッロドロの血まみれにしてやりてーわ〜」
誰をと聞かなくてもわかる。
あー、俺は知らねーからな、昴。
てめぇで蒔いた種だ、一成の闇討ちの1つや2つ、大人しく喰らいやがれ。
「一成、駄目だよ」
お、凌のお陰で命拾いしやがったか?
「やるなら俺も一緒に行くから。取り分は公平にね」
あらら、お気の毒!
「お前達、勝手に決めるな。後輩の分際で先輩を差し置くとは言語道断、先ず最初の一撃は俺がやる」
おっとー、流石の昴も日和佐先輩と凌と一成に囲まれたらヤバいんじゃね。
「さっきから傍観してるてめぇら、どーなの〜?仁、莉人、まさか昴が怖いとか〜?」
嫌な嘲笑を張りつかせた一成の一声に、場の空気が歪んだ様に感じた。
「…俺は計りかねている…生徒会に来るのは歓迎だ。だが前陽大に会長職が務まるとはとても想えん。『未来の』十八学園ならまだしも、今は無理だろう。昴が何を考えているのか、今まで以上に理解できん」
その通りだよなー、莉人。
「わっかんねーよな、マジで。守るって、何だよ」
俺だって、他のヤツらだって、はるとを守る事を考えてる。
同じ意味で、平穏な学園生活を送らせてやりたいって。
けど、急に提示された昴の「守る」は、俺らの何となくあったビジョンを遥かに超えて決定された。
再び沈黙に満ちた室内に、HR終了だか何か知らねーけど、タイムリミットを告げるチャイムが鳴り響いた。
2014.2.9(sun)23:49筆[ 542/761 ][*prev] [next#]
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