192.花火
まだ、ドキドキしてるねぇ。
すごい閉会式だったなぁ。
振る舞われた、「お疲れ様フルーツドリンク・シャンパン風(無論ノンアルコール)」をいただきながら、やっと少し人心地ついた気分。
『優勝は…あらゆる競技で大いに魅せてくれました!とりわけ最後の障害物2人3脚は見事の一言!!Aチームです!!』
十左近先輩の熱のこもった司会が、今聞いたみたいに耳に残っている。
その瞬間、華やかな演出の数々が現れ、あまりのきらびやかさと派手さにぼうっとなったっけ。
まさにアイドルさまコンサート、フィナーレといった風情だった。
行ったことなどないけれど、きっとこんな風なんだろうな。
白い鳩は暮れかけた空を飛び去り、クラッカーやくす玉や舞台の両側からは、花だの紙だのリボンだの羽だのキラキラした粉だの、たくさんの細やかな吹雪が降り注いできた。
おまけにカラフルな風船がいくつもいくつも落ちてきて、想わずハムスターの絵が描かれた(とっとこ何とかさん?)青い風船をゲットしてしまったではありませんか。
有志ブラスバンドさんの演奏も、1日中演奏してお疲れでしょうに、最高潮の盛り上がりで、どこかの国の戴冠式のようだった。
何よりも、皆さん方の歓声、悲鳴、落胆の声のすごいこと!
上には上があるんだねぇ。
当たり前かも知れないけれど、新入生歓迎会の時よりもずっと大盛り上がりだった。
それに負けない、我がAチームの盛り上がりとテンションはすごかったなぁ!
みーんなガッツポーズして、先輩後輩関係なくハイタッチの嵐!
辺りの盛り上がりと、チームのテンションの高さで、俺もつい興奮してしまったねぇ。
柾先輩と無門さんが、十八さんから優勝旗を授与された時は、不覚にも涙ぐんでしまった。
旭先輩にしっかり見られて、からかわれたのが屈辱だ。
先輩だって嬉しいくせにねぇ。
チーム皆で何週間も頑張って勝ち取った優勝は、やっぱり感慨深いものだ。
いろんなことがあったけれど、全部帳消しで、すごく充実した気分。
もし優勝できなくても後悔しないように。
敗戦に対してみっともなく文句を言わないように。
実は、それもAチームの裏テーマだった。
最高と最低のシナリオを描いておいたほうがいいって、柾先輩の提案だった。
勝っても負けても悔いのないように、毎日5ミリでも前進できるように練習して、本番で正々堂々と実力出し切ろうって、これまた上手いことチームのテーマに合わせて言っておられたっけ。
そんな練習、練習の日々も、これでおしまい。
なんだか寂しく感じてしまう。
お祭りの後は、いつも寂しい。
何かが終わろうとする度、お別れの度に、どんなに頑張ってベストを尽くしても、寂しいものは寂しい。
1年生組は日常的に一緒だけれど、2、3年生の先輩方と接する機会はない。
どこかですれ違ったらご挨拶はするけれど、こんな風に関わることはもうないんだ。
皆さんの中にいると、しんみり度が増してしまいそうで、ちょっとハイテンション続きにも疲れた今、輪から離れさせていただいた。
グラウンドでは体育祭終了と労いをかねて、第2のお祭りが始まろうとしている。
なんとびっくり、立食パーティー&キャンプファイヤー&花火があるらしい。
十八学園の飲食関連の業者さん主催なんですって。
すごいなぁ、流石我が食堂部、なんてね。
たっぷり1日使っての体育祭、青い夕方が広がり始めている。
花火って、花火って、どれだけ打ち上げるんでしょうねぇ。
きれいだろうなぁ、楽しみだなぁ。
もしかして来年は見れないかも知れないし、じっくり見なくてはね。
先のことは誰にもわからない。
とにかく俺は、なんとか体育祭を終えることができてほっとひと安心と、Aチーム解体の寂しさでいっぱい。
もうちょっとゆっくりして、落ち着いてから皆さんのところへ戻ろう。
グラウンドの喧噪をほんのり遠くに、校舎と校舎の隙間、まるで人気のないこの場所でため息を吐いた。
ふふふ…明日明後日は土日でお休み、そして月曜日からは恐怖のテスト前週間スタートだ。
ほんとうに俺、これからどうなっちゃうんだろう。
無事に夏休みを楽しめるのだろうか。
またため息を吐いたところで、いきなり影が差して飛び上がりそうになった。
「…陽大?何してんの、こんな所で」
2014.1.18(sat)22:52筆[ 530/761 ][*prev] [next#]
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