190.副会長のまっ黒お腹の中身(10)


 審査は難航していた、先程まで。

 「ですから!最後の200メートルは2人3脚でクリアする事が条件でしょう!?Aチームは途中で前選手を抱きかかえてゴールしましたよね?これがルール違反じゃないなら何ですか?!」
 「だから!そっちから見えなかったかも知れないけど、Fチームの妨害でやむを得ずって雰囲気だったんだって!」
 「妨害あろうとなかろうと、ルールはルールだろう」

 「どっちにしろ、AもFもルール違反だ。両チーム失格処分が公平じゃねーのか」
 「あー面倒だなー!もう1回やり直せば?!」
 「「「「「却下!選手の着替えが終わってる」」」」」
 「グラウンドの再設営も厄介だしな。いっそじゃんけんで決めるか…」
 「「「「「却下!アイドルかっつーの」」」」」
 「選手に1人、アイドル様が居るけどよ…」

 揉めに揉める実行委員と先生方を、俺はあくまで傍観していた。
 ここまで審査が難航するのも無理はない。
 障害物2人3脚走の結果次第、AチームかFチーム、どちらが1位かで今年の総合優勝が決まる。
 全生徒が納得する結果を出さねば、結果発表も閉会式も締まらない。
 真面目な話、暴動でも起きたら厄介だ。

 どの道、俺にはどっちがどうでも良い話、黙って見守り、結果を甘受するしかない。
 俺のチーム優勝は閉ざされた。
 とっくに切り替え、潔く来年に懸ける心づもりだ。
 腹の虫が収まらないのは3年生だろう、現に躍起になって揉めている実行委員の大半が3年だ。
 できれば競技の再戦を、と言わんばかりの未練っぷり、見苦しいな。

 再戦か…と、障害物2人3脚の様子を想い出し、前陽大がもう戻ったであろうAチームに視線を向けた。
 見事な化けっぷりだったな。
 正直、予想外の中の予想外だった。
 前陽大が昴と組んで出場すると聞いた段階では、心太や一平先輩のヘタクソな変装と同様かと、寧ろ気の毒に想っていたのだが。

 競技の初め、入場した時は誰かわからなかった。
 トリに持って来る程、メイン競技となった為、どのチームもとりわけ後攻選手に美形を取り揃え、それは華やかに仕上げていたが、比じゃなかったな。
 あの様な艶やかな和服美人、外でも見た事がない。
 まさに高貴な姫そのもの、その反面、どこか親しみを感じる優美さも醸し出していたのは、お母さんならではだろうか。

 「皆のお母さん」は、あんな一面も持っていたのか。
 会場内や、放送席の3年生組が絶句する美貌を隠していたとは、いくら昨今のメイク技術が進化しているとは言え、驚くしかない。
 「だりぃな…まだ決まってねえのかよ」
 喧々囂々と止まない協議の中、着替え終わった昴がそれは機嫌悪そうに登場した。
 場の空気が一転する。
 口々に己の主張を始める委員共に、昴が屈する訳なく。

 「Aチームが優勝。誰がどう見たって明らかだろ。なんならFもDも糾弾してやるぜ?散々表でも裏でも妨害しやがって、それでもこっちは正々堂々実力でゴールしてんだよ。なんなら誰が何の文句あんのか、公衆の面前で聞いてやるけど?」

 気迫勝ちだ。
 審査が終わった所で、急いで総合得点計算、Aチームの優勝が決まった。
 閉会式の準備中、機嫌の悪さはどこへやら、欠伸を噛み殺す昴の隣に立った。
 「…随分ノってたな」
 「あ?何が」
 「長年お前の芝居を、祭り事でも生徒会でも表裏見てきたが。今日程ノってるお前は知らない」

 悪ふざけが過ぎる小芝居を、悪ノリせず真摯に演じ切った。
 俺にはそう見えた。
 誰を相手にしても、ここまでハマっていた事はなかった。
 きょとんと軽く目を開いた後、ごく当然の様に昴は言った。
 「そりゃあ相手が『皆のお母さん』だからな。手ぇ抜けねえだろ。日頃あんだけ世話になってて、いろいろ巻き込んでんのに」
 「それだけか」
 「それ以上に何があんの。ヤダーりっちゃん、嫉妬?」

 くだらん。
 戯れ言を腕で小突いて流しながら、閉会式の演奏を耳にし、揃って姿勢を改めた。
 実にくだらんが、俺には「それだけ」に見えず、妙な胸騒ぎしかない。



 2014.1.16(thu)23:59筆


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