189.音成大介の走れ!毎日!(10)
苦手なんだよなー、この人っつかこの「人達」。
けどお話しておかないと、ねー。
雇用主様の渋面が目に浮かんで、久しく会ってないにも関わらず鮮明な記憶に、ため息出そうになった。
リーマンは辛いぜ。
…まさか一生、はるとの周辺に気を配ってろとか言われないだろうな。
卒業後もはるととフツーにつるむ気だけど、いつまでもお守りは勘弁だぜ。
そこまで雇用主様も片思いだか片友愛だか知んねーけど、ダラダラ続けねーよな。
あの人の事だから、俺は一生片思いで良いとか、報われない想いとか、健気な自分にうっとりしてんのも似合わんでもないけど。
そんなにナルシストじゃなかったよな。
「大介、ナニ渋い顔してんのーハードボイルド気取り?」
「った!旭先輩…眉間は急所ですって」
加減してあったけど、急所突つくなっての。
今まさに話しかけようとしてた、憂鬱な相手からの攻撃に引き攣るしかない。
苦手なんだよな、マジで。
旭颯人(あさひ・はやと)、バスケ部エースで次期主将。
的確でセンスあるプレイ、ここぞというチャンスを絶対に逃さないパワー、居るだけで場を明るく盛り上げる存在感、でも細やかな所にもさり気なく気づいて、俺ら後輩にも分け隔てなく接してくれる。
初等部3年の頃から部活動が始まり、バスケ部に入部して以来の付き合いだ。
すげーなって素直に想って、尊敬してる。
バスケ部の先輩としては、だ。
3大勢力に加入していても遜色ない、寧ろ生徒会で表立ってるのが当然な家柄、知性やルックスを兼ね備えておきながら、あくまで一般生徒を貫き通している。
それを周りに何故か納得させ、自身の親衛隊も飄々と掌握している不可思議さ。
加えて、あの柾昴の大親友ときた。
この2人に関しては、相当ツルんでるにも関わらず、色っぽい噂ひとつ立たず学園公認の親友として周りを黙らせている。
互いの親衛隊も喜んで公認、他の目立ってる連中では有り得ない事態が、この2人に関しては平和が成り立ってしまう。
俺にとっちゃ、こんな危険極まりない人達はなかなか居ないね。
「んな辛気くさいツラしてんなよーAチーム優勝発表まで後数分ってとこじゃん。お母さんが大喜びの瞬間、楽しみー」
そして、それだよ。
俺の懸念はそこにある。
「旭先輩、はるとのこと、お気に入りですよねー」
この人の前で演技とか誤摩化しとか嘘は通用しねー。
何も取り繕う事なく、ストレートに言ってみた。
「まぁな。だってお母さん、かわいーじゃん。つっても大介が気にしてる意味じゃないけどねー」
これだから油断なんねーんだよ、この人は。
どこまで見透かしてんのか、柾会長同様に底知れなくて読み取れない。
旭先輩がはるとをかわいーって言っちゃう事、それ自体が大問題なんだけど。
この人の親衛隊が穏健とは言え、先が想いやられるっつーの。
いろいろ言いたい事も聞きたい事もあったけど、僅かな会話でどっと疲れた。
はるとが他チームの妨害で転んだり、柾会長と組んだ競技の様子とか結果とか、それをいちいち報告しねーとなんねーだけで気ぃ重いのに、余計に疲れた。
「…先輩達みたいな人が、1番厄介なんスよねー…」
それだけ呟くのが精一杯だった俺に、にこにこと更に追い討ち。
「あれ?俺ら、大介のブラックリスト入りしちった?でもマジ勘弁!昴は入れときゃいーけどさ、俺にそんなヒマ無ぇよ。俺をお前らのお遊戯に勝手に参加させないでねーだ・い・す・け・君?俺に逆らうとかー大介はそんな面倒くせー事しないよなー?」
何も言えない。
絶句した俺を置いて、旭先輩はマイペースに腕を伸ばして肩を鳴らした。
「お!昴、壇上じゃん。そろそろ始まんなーお母さんとハイタッチしたいから、あっち行ってよーっと。あ、そうそう。夏休みの試合とか部練、マジでお母さん呼ぶぜー。さっき是非行きたいですっつってくれたし。それは大介もフツーに楽しみにしてたらー?」
何、その今初めて聞く決定事項。
カラカラ笑って、はるとの側へ戻って行く。
何か言葉を交わして、2人で楽しそうに笑ってる。
だけどそれで、「バスケ部エース・旭颯人×お母さん・前陽大」ってスクープにならない事を、俺も、周りの連中も皆知ってる。
ブラックリスト、っつーかね。
柾会長も旭先輩も、2人だけリスト外の超要注意人物っスよ。
2014.1.15(wed)23:07筆[ 527/761 ][*prev] [next#]
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