186.チャラチャラツイート(10)by 天谷悠


 これが噂の壁ドンならぬ、木ドンってやつだねぇ〜。
 「やあっと捕まえたぁ〜久しぶりだよねぇ〜え?元気してたぁ〜?」
 「…天谷様…結果発表が、」
 更にドーン!
 わっさわっさ揺れる木からぱらっと、葉っぱか何かが落ちてきた。
 汚いなぁもぉ。
 これだから自然の中ってヤなんだよねぇ〜。

 「結果発表なんてさぁ〜今更見なくてもわかるじゃあ〜ん?どーでも良いんだぁ〜体育祭なんてぇ〜もぉ終わりだしぃ〜クソだりぃ閉会式だってぇ〜俺が居なくてもどうにでもなるしぃ〜」
 だから、逃げようたってそうはいかないんだよーん!
 マジ久しぶりのこのコ、人違いじゃないハズだけど、何か顔変わったぁ?
 こんな顔だったっけ。
 
 俺の親衛隊長だからぁ、かわいーのは当たり前なんだけど、こんなに可愛かったっけなぁ〜?
 ちょっと会わない間に自分磨いちゃった系?
 なーんか肌ツヤっつーのぉ?
 髪から肌から輝いちゃってるカンジ。
 にしては、俺に対して怯え過ぎじゃない?
 
 前は俺を見るなり、キラキラーうるうるーってこのデカい目が光ってたのに、今は視線すら合わすまいと避けて、心なしか青ざめちゃってるよねぇ。
 どうちてなのかなぁ〜?
 そりゃあ俺、めちゃくちゃキレてっけど。
 んなの自業自得だしねぇ〜。
 ケータイには出ないわ、なっかなか会えないわ、体育祭当日の終わりでやっと俺から捕まえて会えるって、どーなってんの。

 会えないのはいーんだよねぇ、性欲処理は間に合ってっから。
 体育祭でチーム違うってなったら、例え親衛隊だろーが生徒会だろーが、まともに顔合わさなくなるのがフツーだし。
 それはいーんだけどぉ、準備モードの時から俺が出してた指示、何ひとつクリアしてないよねぇ。
 どーなってんの、マジで。
 
 「お仕置き決定〜!わかってるよねぇ〜?誰がこんな事態招いてんのかぁ〜」
 「ひっ…!天谷様っ…」
 「言い訳はお仕置きの後に聞いてあげるぅ〜処理は間に合ってたけどぉ〜何でか新入りの何もわかってないウブウブちゃんばっかでぇ〜元々ムカついてるわ欲求不満だわでもぉサイアクぅ〜皆仲良く閉会式〜の横で犯されるってさいこぉだと想わないぃ〜?」
 「お、俺はっ…」

 ん〜?
 ジャージ脱がすのも準備すんのも面倒で、いきなりブチ込んでやろうと木に押し付けながら、「俺」って言ったことにちょっと止まった。
 聞き間違い〜?
 俺の親衛隊に、1人称「俺」で話すコなんて居たっけぇ。
 カワイコちゃん限定だって徹底してきたのにぃ〜うん、やっぱり聞き間違いかな。
 とりあえず〜いっただきまぁす!

 「Oh!Mr.天谷クン、イジメ良くなーいネ」
 「あ?何だ、誰かと想ったらタローチャンじゃあん〜邪魔しないでくれるぅ〜?イジメじゃなくてぇ〜コレ、俺の親衛隊だしぃ〜お仕置き中だからぁ〜」
 アッチ行ってろ、エセくさい帰国子女め。
 やたら細長くて変な男を笑顔で睨みつけ、顎で追い払った。
 だけど何故か、引かなかった。

 「NoNo、イジメ良くなーい!タローチャン、正義の味方。さ、子猫チャン。お逃げナサーイ!Oh、怖かったネーとても可哀想!ヨシヨシ、アッチに人居るネー」
 「タ、タローチャン…ありがとう!」
 「ちょ…」
 今、何が起きたの。
 俺は一切加減せず、カワイコちゃんを押さえ付けてた。
 コイツが近寄って来たから、素早く蹴りつけてやろうとしたのに。

 コイツの身体に十分当たる距離だったのに、何の感触も覚えずただ虚しく空を切っただけ、するりと手の拘束解かれて、カワイイあのコはもう遥か彼方。
 どういうこと?
 コイツ、何なの。
 今ナニしてくれたの。
 ただの貧相な帰国子女じゃねぇの。

 にこにこしているタローチャンは、まったくいつもと変わらない。
 「………へぇ〜俺の邪魔するとかぁ〜いー度胸だねぇ〜タローチャン?どーせ今あのコ助けても、後でもっと酷いコトできんのにぃ〜邪魔した所為で悲劇倍増じゃ〜ん?どーして余計なコトしたのかなぁ〜。そもそも、俺が誰だかっ…!」
 「天谷クン」
 口調は変わらない。
 変なカタコトで、にこにことしたまま、何も変わらないのに。

 押し付けられて、目の前に迫った木肌にちっちぇ虫が這ってるのが見えて、心底キモチ悪くなった。
 「イジメ良くないネ!あんなカワイコちゃん、泣かせる、ダメね。天谷クン欲求不満でイライラ?それならタローチャン、シテあげよっか…?」
 全身に寒気が走って、想わず息を呑んだ。
 生温い夏の空気が肺に入って、ガチでキモチ悪ぃ。

 背中で拘束された腕は、1ミリも動かせない。
 腕だけなのに、何でか全身動かせない。
 なのにヤツは片手が自由で、その自由な手で腰を撫でられた。
 ヤラシー手付き、ジャージの腰回りをなぞる動作、俺がしようとしてたお仕置きどころじゃない、それこそイジメる側の残酷な声音に、マジでヤバいってわかった。
 コイツ、ヤバい。

 「…っ俺の後ろに立たないでくれるぅ?!」
 マジで逃げねぇとヤバいって、力振り絞ったら、あっさり解けて。
 振り返ったら、にこにこ笑ってた。
 ぞっとした。
 「ネ!怖かったデショ?あのコ、もっと怖かったネ!だからもう悪いコトしちゃダメだよ、天谷クン」
 「…余計なお世話だしぃ〜マジなんなのぉ〜」

 にこにこ、カラフルな眼鏡が近づいてくる。

 「そろそろオイタ止めないと、『俺達』怒るヨ…?天谷クン知らないコト、知らない方が良いコト、いっぱーいあるネ。首突っ込まない方がシアワセ、happiness!男に突っ込まれるのも、知らない方がイイよね、君は。Uh、寂しい気持ちワカルヨ!だけどダメダメ、いつまでも子供、ヨクナイね。天谷クン、わかりまーすか?
 次はない。
 OK?天谷クン、賢いカラわかるネ?いーコにしてたらタローチャン、何も怖いコトしないよ。OK?ヨク覚えてね。タローチャンも天谷クン、イジメたくないからネ」

 蒸し暑くてダルい空気の中、ミント系の爽やかな香りがくっきりと、足跡のようにいつまでも残っていた。



 2014.1.12(sun)23:34筆


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