185. 凌のココロの処方箋(7)


 最後のペアがゴールインし、これですべての競技が終了した。
 会場内はまだ騒々しい。
 グラウンドの設備撤収、障害物2人3脚の点数加算並びに総合得点集計、諸々の雑務に実行委員が走り回る中、競技後の選手を取りまとめる為に俺は残っていた。
 ヒーローインタビューが終わるまで離れられない。
 落胆を隠さない選手陣を見渡しながら、耳に入るインタビューを聞くともなしに聞いていた。

 「お疲れ様でした!Aチームの柾選手と前選手、断トツの1位でしたね。おめでとうございます!」
 「はっ、余裕だったぜ」
 「………ありがとうございます…」
 設けられたお立ち台に堂々と上がっている昴と、肩身が狭そうに遠慮がちな陽大君、気づいているのかいないのか、片前は明るくインタビューを続けている。

 「それにしても今回のコスプレは和装!お2人共とってもよくお似合いですー会場内も終始ため息の嵐でした。洋装より動き難いにも関わらず、見事なコンビネーションで走り抜き、障害物をクリアしておられましたね!」
 「フン、当然だ。俺様だからな」
 「「「「「きゃあああああ!柾様あああああ!!」」」」」
 「流石、柾生徒会長!チーム関係なく声援が止みません。個人練習が話題になったお2人ですが、やはり相当練習を積まれたんですか?」

 片前は一体、何が狙いなんだ。
 皆がそろそろ忘れそうな、親衛隊号外の話を、何故またここで蒸し返す?
 陽大君の顔色が悪くなる一方に見える。
 大丈夫だろうか。
 同じグラウンド内にいるのに、俺は大事な後輩を表立って支えてあげられない。
 競技中もずっと、特に小芝居が入る度に、とても気まずそうにしていたのに。

 「練習積まず本番挑む程、優勝ナメてねえっつーの。下らねえ質問すんな。成果は十分出た。此所に立ってる、それが答えだ」
 「おお!?会長らしからぬ殊勝なお答えですね?」
 「殊勝?違ぇな。俺様は全員信頼してんだよ。いずれの競技にしろ、いずれのチームも相手に不足は無え強豪揃いだった。体育祭に手ぇ抜く甘いヤツなんざ此所には居ねえ。改めて実感して喜んでんだぜ?良い1日だった…この俺様が楽しんだ、何よりじゃねえか」
 
 そしてこの俺様は何を言っているんだろう。
 頭を抱えそうになったが、ギャラリーは不思議と聞き入っている様だ。
 障害物2人3脚を共にした選手陣も、どこか神妙な面持ちになっている。
 昴の引力が為せる技、か。
 自然と沸き起こった拍手に、侍姿の王様は威風堂々と笑みを浮かべ応じている。
 傍らの陽大くんが、益々ちいさくなった様に見えるのが気がかりで仕方ない。

 「なるほど、お言葉染み入りますー!最後に全員を代表してお伺いしますが、今回は小芝居まで盛り込まれたこの競技、実に感情の隠ったお2人の演技に僕も想わずウルっときちゃいました。お芝居の練習も積まれたのでしょうか?」
 それは触れなくて良いのに!
 良い雰囲気に包まれていた会場内が、嫌な感じにざわついた。
 時間が押していると、強制終了させるべきだろうか。
 俺が動くか迷う間もなく、昴が片前を呆れ顔で見下し、豪快に笑い飛ばした。
 
 「片前、俺様をナメ過ぎじゃね?俺を誰だと想ってんだ。体育祭だけが祭りじゃねえだろうが…」
 「仰る通り、大変失礼致しました!つまり、この秋の学園祭も期待して良いという事ですね、柾生徒会長?」
 「当然だろ。演るからには優勝、それ以外無えんだよ」
 「理解致しましたー!皆さん、この秋の柾生徒会長の舞台も乞うご期待!!例年に勝るとも劣らない、素晴らしく最高の舞台を披露して下さるとお約束頂きましたので!」

 「「「「「きゃあああああ!!」」」」」
 「さて!前選手は初の体育祭、柾生徒会長とのペアで晴れて終了となりますが、いかがでしたか?和装とてもお似合いですねーお芝居有りの障害物2人3脚、さぞ大変だった事とお察し致しますが?」
 本当に、片前は何を狙っているんだ。
 所古先輩知っての事かと、放送席を見やると、呆然としてるだけの頼りない3年生4人組が見えて尚の事、頭を抱えたくなった。
 情けない!!

 「…え、ええと…大変恐縮でございます…ほんとうに…申し訳ない限りで…初心者なばかりに柾先輩始め、チームの皆さまにも多大なるご迷惑をおかけし…」
 「「「「「お母さ―――ん!!そんな事ないよ――!!」」」」」
 「「「「「大丈夫だから―――」」」」」
 「「「「「お母さん、早く帰って来てぇ」」」」」
 「流石、前選手。チームメイトにもチーム外にも大人気ですね」
 「皆さま………え、と、俺は、あの…ほんとうに、足手まといになってばかりだったのですが」

 俯きがちだった視線が、ぱっと上がった。
 陽大君は、それは朗らかに笑った。

 「参加できて、とても楽しかったです。皆さんがたくさん頑張ってくださって、皆さんで作りあげてくださった体育祭、たくさんの方々に助けていただけて…何かと不慣れで恐縮でしたが、とてもいい想い出になりました!ありがとうございます!!最後の競技ではお見苦しいところばかりお見せしましたが…柾先輩のお力添えのお陰で無事に終えることができました。皆さん、ほんとうにありがとうございました!!」

 深々と礼をする陽大君に、あちこちから温かい拍手が向けられた。

 「こちらこそ実りあるインタビュー、ありがとうございました!では、放送席にお返ししまーす!」
 「は?!…あ…はい!!片前さんお疲れ様でしたー!障害物2人3脚出場の皆様、お疲れ様でした。選手の皆様は速やかに退場、実行委員に従って着替え次第、チームへお戻り下さい。会場内の皆様、今1度、温かい拍手をお願い致します。撮影は禁止しております。不審な行為を見掛け次第、風紀連行となります。
 これより会場整備後、結果発表と閉会式を行います。その場で待機して下さい。繰り返しご連絡致します―――…」
 
 退場する選手陣の後ろ姿を見送りながら、一際小柄な背中に注目していた。
 まるで、最後の別れの挨拶のようだった。
 このまま去って、もう戻って来ないような決意を感じさせる挨拶だった。
 いきなり消えるつもりはないのだろうけど、陽大君が心の奥深くで1人、思い悩んでいる様で心が痛む。
 入学してからずっと恐縮させて、いつも困った顔ばかりさせている。

 それは「俺達」が目指す学園と、対極にある姿だと想った。
 だからこそ変えねばならない。
 だけど、大きな変化の前に犠牲を出そうとは、「俺達」は誰も望んでいないのに。



 2014.1.11.22:41筆


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