180.1、
ウチのジャージはこんなデザインだったっけ?
と、想わず目をパチパチさせてしまう程、アクセサリーやら何やらでデコデコデコリンなカラフルさ!
なんだかハイセンスなカットのベリーショートは緑色で、かけておられる眼鏡のフレームは紫の水玉模様だった。
ル●ン三世さんのような細さとお洒落さだ。
基本的に十八学園のイケメンさん方やお可愛らしい方々、皆さん自由な校風に則って服装違反も身だしなみ違反も朝飯前!な勢いで、個性を演出していらっしゃるけれど。
武士道の皆もカラフルでデコデコだし。
それでもこの御方の前では、ひーちゃんや所古先輩も裸足で逃げちゃうだろう。
虹色で覆われたような鮮やかさは、けれど計算し尽くされたセンスで取りまとめられており、奇抜なんだけどこの御方にはしっくり似合っておられた。
両手を大きく広げて出迎えられながら、しかしどうやら異国?からやって来られた御方だけに、コミュニケーションをどうしたらいいものか、出入り口で立ち止まってしまった。
「え、ええと…アイキャンノットジャパニーズ…?」
「Wao!NoNo、心配ゴ無用!アイム日本語ワカリマス、OK?ツイ最近戻って来マシータ帰国子女ネ。マイファーザーアメリカ人、チョット片言、だけどワカリマース。OK?」
「オ、オォー、イエスイエース。わかりましーた。了解でございまーす」
「Thank you!アリガト。デハ早速始めマショーTime is money!」
「オ、オォケー」
「コッチ座ってネ、おっかサン。Yah、体育祭デお母サンと一緒、トテモ嬉シイ。僕ハ頑張りマス!お任せアーレ、柾と並んで超beautifulなlovers、楽しみネ。Huu〜funfun…Oh、マイネーム忘れてマシータ!僕、タローチャン。おっかサンより1ツ上、柾一緒。ダケド同じ1年生ネ。ヨろシークお願いシマース。タローチャン、呼んでネ」
「た、たろーちゃんさん、ですね。わかりましーた。よろしくお願いしまーす」
なんだかご事情がありそうだけれど、遠く聞こえてくるグラウンドの歓声とアナウンスで、障害物2人3脚の前の競技が始まろうとしているのがわかった。
ここでのんびりお話している場合じゃない。
お聞きしたい気になることは山とあるものの、初対面だし、とにかく今は競技の準備が最優先だ。
なんせコスプレの仕上がり状態まで、密かに審査されるという噂なのだから。
「Woo、お母サン、お肌キレイネ!Good good!ケガ残念、でもタローチャンにお任せアーレ。タローチャン母、メイクアップアーティスト。タローチャンもメイク上手ダヨ!おっかさん、優勝間違いナシ」
「そうなんですね…???なんだかありがとうございますーこんな面白味のない素材で恐縮でございますが、よろしくお願いしまーす」
「NoNo!お母サン、ベリーキュート!今回の衣装もラッキーネ。おっかさんにお似合い、最高エキサイティングね!」
???
よくわからないながらも、たろーちゃんさんの手際はものすごく見事で、お喋りしている間にもどんどん作業が進行した。
ベースを整えて、メイクで色味や線や陰影を足して、迷いなくあっという間だ。
「ハイ、これ衣装ネ。おっかさん、着方ワカル?肌着マデ着たら、後はタローチャンにお任せアーレ!ソレから仕上げネ」
「わぁ…なんて綺麗なお衣装なんでしょう…俺などには勿体のうございますねぇ」
しかし今更ここで辞退している場合ではありません。
気を利かせて後ろを向いてくださった、たろーちゃんさんのご厚意とお仕事ぶりにお応えする為にも、さっさと着替えちゃいますよ!
それにしても懐かしいなぁ、このお衣装。
昔、母さんのお店に遊びに行った時、スタッフさん達のおふざけでよく着させられたんだよねぇ。
人に黒歴史あり。
「着替えましーた」
「Oh!お母サン…Great!!とってもキレイ、タローチャンびっくり!」
「いやはや…恐縮しきりでございまーす」
流石、異国かぶれの御方だけあって、リップサービスと驚き方がお上手ですねぇ。
うっかり乗せられそうな勢いだけれど、俺はビークール、今は競技のみに生きる!
それに、こんな姿を誉められても男として哀しいばかりでございまする。
対の衣装になっているとしたら、柾先輩はさぞやお似合いで男らしく仕上がってることでしょうねぇ、ふん。
「U〜nn…イカンなぁ、タローチャン、俄然燃えて来マシータ!元々おっかさんの為に本気だったケド、更にファイヤー!残り時間いっぱーい、全力尽くしマース。最高のお母サン、野郎共に、柾に見せてヤロウゼ!!」
「は、はあ…ありがとうございまーす…?」
それからのたろーちゃんさんは、凄まじかった。
真面目なお顔立ちにチェンジするなり、メイクの手直しからウィッグの微調整とヘアアレンジ、お衣装の完璧な着こなしと、鬼気迫るスピードで仕上げてくださった。
「ハイ!いかがデスーカ?!」
差し出された鏡に映った姿に、俺自身が驚く程の変身っぷり!
母さんたちにいじられていた頃、この何の個性もない顔立ちがメイクし易いらしいということは聞いていたけれど。
ここまで変わるものなんですねぇ。
我ながらどちらさまですか、といった風体だ。
この変身ぶり、流石の柾先輩でもわからないのではないだろうか。
不安になりながら鏡の中、瞬きを繰り返す自分と、背後に立つにこにこ顔のたろーちゃんさんを見つめて、はっとなった。
「どうもありがとうございました、たろーちゃんさん。お忙しい中、他チームのことですのにお手数お掛けいたしました」
「Oh、おっかさん、良いってコトヨ!タローチャンも久しぶりに楽しカッタネ!優勝間違いナシ。そろそろ始マール、頑張って!」
たろーちゃんさんが最後まで言い終わらない内に、競技開始のアナウンスが流れ、先攻選手の紹介で、かつてなく沸き立つグラウンドの様子が聞こえてきた。
このものすごい大歓声は、間違いなく、柾先輩のためのものですねぇ。
2014.1.5(sun)23:59筆[ 518/761 ][*prev] [next#]
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