176.十八山の上でおにぎりを


 ただでさえキラキラの皆さんが、更にキラキラなさる程のものではないけれど。
 皆さん、下界の一般的なお弁当をご存知ないだけ。
 見たことのない食べ物を見て、珍しいだけなんだってわかっていても、この驚きっぷりは何度味わっても嬉しいなあ。
 そう言えば、秀平達や武士道の皆は未だに、お弁当の形にするだけで大喜びだっけ。
 古今東西、男子たる者、弁当には目がない生き物なのかも知れぬ。

 なーんてね!
 では、皆さんにどれもちゃんと食べものですよー食べれますよーっていう安心感の為にも、それぞれの説明を…う?
 「皆様ぁ、これが有名なお母さんのおにぎりですぅ〜今日は体育祭仕様で小さめですけどぉ〜本当はもっとおおぶりで、お1人様4個はイケちゃうミラクルフーズなんですぅ」って合原さん。

 「あのな、あのな!こっちが卵焼き!はるとの卵焼き、美味いんだぜ〜!出汁巻きの時もあるけど、今日はちょっと茶色いだろ?!オレの好きないつものヤツだ!醤油と砂糖で甘じょっぱくて美味ぇの!」って九さん。
 「んでこっちがー食ったら勝利間違いなしの縁起モノ、たこウィンナーっス。体育祭バージョンのスマイル全開、粗挽きペッパーでスパイシーバージョンっスね」って音成さん。
 「これ。はるとボール。特別な、おべんと。肉団子、野菜いっぱい。おいし」って無門さん。

 それぞれニコニコと説明してくださったのを、ひとつひとつ聞く度に皆さん、ほーとかへーとか歓声を上げてくださった。
 「唐揚げもーらい」
 ってちょっと待ったあああ!!
 横から伸びて来た手から、唐揚げたっぷりタッパーを慌てて遠ざけた。
 「いけません、柾先輩!」
 「いーだろ別に。腹減ってるし」
 「いーなー昴、俺にもちょーだい」

 まったくこのとんでもない悪ガキさんコンビめ!!
 「いけません、悪ガキさんコンビ先輩!!めっ」
 「「悪ガキさんコンビ先輩………」」
 「例え御2方がAチームの功労者であろうと、学園を先導なさる素晴らしい先輩方であろうと、何年生さんであろうと誰あろうといけません!このお弁当はAチーム皆さんのものでございます。要らない方がいらっしゃって余っているならまだしも、まだいただきますもしていない内から何事ですか!そんな御2方はお弁当抜きにしますよ!」

 「「はぁい!ゴメンネ、お母さん」」
 「はいは伸ばさない!」
 「「はい!」」
 その間にも周囲からクスクスと明るい笑い声が起こり、チーム内はすっかり和やかになった。
 そうこうしている内に、先生方もいらっしゃって、早く食べなくてはね!
 お弁当シフト常連さんたちにお手伝いいただきながら、紙皿に均等に取り分けて、皆さんにお渡ししたら、いただきます体育祭バージョン!

 「それでは、手を合わせてください」
 「「「「「はい!」」」」」
 「Aチームの優勝を願って!」
 「「「「「必ず優勝するぞー!」」」」」
 「もちろんでございます!では、いただきます」
 「「「「「いただきまーす」」」」」

 他のチームさんがぎょっとなさる中、皆さんでわいわいとお弁当タイム!
 騒がしくて申し訳ないながら、青空の下でたくさんの方々とお弁当を囲むと、遠足みたいでいつより美味しく感じる。
 楽しいなぁって想う。
 本当に校外学習があったらいいのにねぇ。
 いや、十八学園さんならば、校内学習でバッチリですね。

 夏休み前に武士道とできたらいいな。
 なんて想いながら、ちらっと遥か彼方、Fチームのテリトリーへ目を向けた。
 さっき、いただきますをした時、武士道の皆も遠くで合わせてくれていた。
 視界の端に映った、それは気の所為じゃなかったようだ、皆が手を振ってくれるのが今度は見えた。
 ちいさく振り返しながら、もし来年があるならば、武士道と一緒がいいななんて未だに想う俺は、とんだ甘ったれなんだろう。

 「ちょっとお母さーん?浮気ダメだし。Fチーム見てちゃダメじゃん」
 のほほんとしていたら、隣にいらっしゃった旭先輩に、目敏く見つかってしまった。
 おっとと、流石バスケ部次期主将、いつもはおちゃらけていらっしゃる先輩だけれど油断はならない御方なのだ。
 練習中は3年の先輩方よりも一際厳しかったぐらい、けじめの付け方がはっきりしていて、よく全体を見ておられる。
 
 「見てません。ちょっと辺りを見回していただけです」
 「ホントー?どんなに仲良くたって、体育祭だからねー気持ちはわかるけど今はAチームに集中してねー。なぁ、昴」
 旭先輩の隣には、黙々とおにぎりを頬張る柾先輩がいらっしゃった。
 本当に仲がよろしいんですねぇ。
 「俺らも去年離れた時はヤバかったもんな」
 「あははっ、そうだったなー」
 
 あらまあ、意外と御2方共、寂しん坊でいらっしゃる?
 「そりゃ寂しいですよねぇ。先輩方も心友ってヤツなんでしょう。うんうん、お察し致します。皆まで言わずとも重々承知いたしております。今年はご一緒でよかったですねぇ」
 「「いやいや。そうじゃなくて、優勝争いでヤバかった」」
 「「「「「対チームじゃなくて最早、柾VS旭だったもんな」」」」」
 他の先輩方も加わって、何やら遠い目をなさっておられる。

 ほっほう、負けず嫌いそうな御2方、そして心友だからこそ手を抜かねぇ!ってやつなんですねぇ。
 それはまた素晴らしい友情、信頼なさっているからこそ、正面から堂々と戦えるんですものね。
 そうして戦が終われば、また手と手を取り合い心友に、なんて熱い友情でしょう。
 「「「「「お母さん、ひとり言大きいね」」」」」
 何はともあれ、熱き友情に包まれたお昼休憩は楽しく過ぎて行ったのでありました。



 2013.12.31(tue)22:26筆


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