172.天使バルサンが奏でる狂想曲(11)
ビックリした。
どうしたら良いのか、わかんなくなった。
一瞬、頭の中まっ白で。
はるとがコケた。
オレらAチーム余裕の1位で、はると足速いし、アンカーは昴だし、絶対このまま大丈夫って想ってたら、タスキ受け取った瞬間にコケて。
しかも、変なコケ方だった。
フツー有り得ない、顔からずざあって滑りこむみたいだった。
シーンとなってすぐ、とんでもなくうるせー爆笑とヤジでいっぱいになって、ヤバいって想った。
オレはどっかで、ずっとはるとの失敗を望んでた。
皆にバカにされるぐらい、失敗して傷ついたらいいって、いけないことだけどそう望んでた。
だってはるとは、いっつも笑ってる。
ガッコで目立つヤツらにチヤホヤされて、ヘラヘラいつも楽しそうにしてる。
武士道と一緒にいるだけで、ゼータクなことなのにさ。
もうしょうがねーことだけど、昴と2人3脚とかリレーとか組むし、なんではるとばっかりいい目を見るんだって。
クラスでも生徒会でも風紀でも、どこに行っても皆に囲まれて笑ってる。
泣いたら良いのにって想ってた。
辛いって、泣きついてきたら良いのに、そしたらオレが助けてやるのに。
傷ついてボロボロになったはるとなら、もっと仲良くなれるって想った。
だからいろいろあって、無視してやってんのに、はるとはちょっと寂しそうに笑うだけで理由も聞かないし、フツーに毎日過ごしてるし。
面白くない。
だけど、はるとがコケてグラウンド中が嘲笑でいっぱいになっても、オレはちっとも面白くなかった。
望んでいたことなのに、なんでか胸の辺りが痛んだ。
それは一瞬のこと。
はるとはコケてすぐ、起き上がった。
遠目でも顔が血まみれだってわかった、なのに泣くどころか何も気にしないで、コケてなんかいないみたいに、今からスタートしたみたいに全速力で走り出した。
ビックリし過ぎて、気づいたらデカい声ではるとを応援してた。
コハルもそうだった、いつの間にかオレらは必死で声を振り絞ってた。
勝負はあっという間で、オレらが勝ったことよりも、はるとが気が抜けて泣いてないかって気になった。
昴達と戻って来たはるとは、見ただけでこっちが痛くなる傷だらけの顔で笑ってた。
誰かが、反則だとか明らか事故だとか息巻いても。
抗議に行くって、チームで結束しても。
はるとは笑って、首を振っただけだった。
「俺が勝手に転んだんですよー!いや〜何ともお恥ずかしい…大舞台に緊張し過ぎちゃいました!醜態をお見せしたばかりか、チームの勝利を揺らがせてすみません。引き続き優勝に向けて挽回すべく頑張りますので、よろしくお願いいたします」
なんで笑ってんだよ。
誰が見たっておかしかったじゃんか。
あんなにマジメに練習してて、競技前も落ち着いてたはるとが、あんな変なコケ方するわけないのに。
はるとがあんまりにもニコニコしてるから、誰も何も言えなかった。
顔、痛いハズなのに。
痛いとか辛いとか、走るのキツかったとか、もうヤダとか、弱音ひとつ吐かずに笑ってるなんて。
手当てを促されて、バスケ部のヤツと去って行く後ろ姿を、オレの方が泣きそうになりながらぼんやり見送った。
保健がいる控え室に向かう先々で、他チームからも声かけられながら、にこにこ応じて大丈夫だって言ってる。
オレは?
オレはこれから、どうしたい?
はるとは強い。
強いけど、強いからってもう、泣いたところ見たいなんて思わない。
オレはどうしたら良いんだろう。
声が、なんにも聞こえない。
2013.12.27(fri)23:21筆[ 510/761 ][*prev] [next#]
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