170.金いろ狼ちゃんの武士道(4)


 チームに戻ったら、ちっちぇブーイングと同時に、「お母さん大丈夫だった?!」の声があちこちから聞こえた。
 幸か不幸か、今年のチームは武士道所属が多いから無理もない。
 それ以外の連中も、概ねはるとに好意的だ。
 どいつもこいつも2位に終わった事より、はるとの様子が気になるらしい。
 まったく仕様がねぇなあ。

 「あ〜だいじょーぶだいじょーぶ。退場してすぐ保健ん所行ってたからな。結構血ぃ出てたけど、」
 「「「「「え!結構血が出てた?!」」」」」
 「話は最後まで聞けっての。本人まったく堪えてなかったし、傷も浅いみてぇだ。人の心配より俺らの心配しよーぜ。見てみろ、Aチーム断トツじゃん」
 「「「「「傷が浅いなら良かった!っしゃあ!改めて打倒Aチーム!!」」」」」
 「「「「「ぅうおおおっーーー!!!」」」」」

 気合いを入れ直す奴らを横目に、トンチンカンよしこが何食わぬ顔で寄って来た。
 「そーちょー、許さないんだから」
 「そーちょーが何て言っても駄目なんだから」
 「そーちょーの命令でもスルーなんだから」
 「仁さん、弔い合戦、止めないで下さいね。表面上は平気に見えても、お母さんはああ見えて敏い。『自分に何が起こったか』勘づいている筈です。そこは打ち上げでフォローしますけど、別問題です」

 あーあ、キレてら。
 のほほんと安心して得点表を見つめ、作戦会議中のチームの空気を乱さない様に平静なツラして、どいつも目ぇ笑ってねぇ。
 そりゃそうだよな。
 俺らの目の前で、はるとにナニしてくれてんだっつー話。
 随分ナメられたもんだぜ、俺らの絆。

 「わーかったわかった。ちょー待て」
 「「「「待てません。俺らで動く」」」」
 「んなの、副長が許すワケねぇだろーが。とにかくちょー待て。話つけて来るから」
 「「「「………はぁい」」」」
 それでも、どんなに腸煮えくり返ってても、「副長」の代名詞を出せば渋々引き下がった。

 プログラムはさっさと進行され続けている。
 本来の目的へ戻る様に追い払い、チームの末席で片足抱えて、ダルそーに座ってる一成の側へ行った。
 あーあ、俺だって嫌なんですけど。
 マジギレじゃん、一成。
 美山ん時よりヤベーじゃん。

 自然、口角が上がるのはどうしようもない。
 俺らは所詮、武士道の金と銀、争い事が趣味だから。
 おっと、親指の爪噛んでる。
 久々に見た、これ以上はないっつー最上級レベルのキレっぷりに、益々ニヤけた。
 上等だ。
 俺だってとうに臨界点超えてんだ。

 「そーちょーがマジギレしてんじゃね〜よ〜」
 「そりゃこっちのセリフだろ〜副長がストッパーなんじゃねぇのかフツー」
 「生憎フツーじゃないんでね〜しかも、はるるの事なんで〜」
 「ははっ!そりゃ言えてんな〜道理だ。どうする一成?俺は譲んねぇぞ。何せ俺のすぐ隣でコトは起こったからな〜」
 「譲る譲んねぇどーでもいーし〜はるるの受けた痛み以上を返せんなら、2人で行きゃいー話。ウゼェ話はこれで終わり〜」
 「だな〜」

 虚ろな目で微笑う一成に、短く同意して、隣の椅子に腰掛けた。
 悪ぃな、トンチンカンよしこ。
 お前らの気持ちはよっくわかってんぜ。
 俺がお前らだったら寧ろ、2トップ倒してでもお礼参り行きてぇもんな。
 まーおこぼれぐらいはやっても良いとか、考える俺はどっか冷静なんだろ。
 俺はまだ、競技後の元気なはるとを見てっから。

 しばらく沈黙になった。
 競技の度に起こる歓声、声援、ブラバンの演奏、全部遠くにある。
 3大勢力も裏もFチームも、今や関係ねぇ。
 んな肩書きはどうでも良い、はるとを傷つけられた、その事実だけで俺らが動く理由になる。
 これまでの段階で、散々我慢してきてんだ。

 はるとがあの不気味な…いや、不思議なてるてる坊主を山程作るぐらい、楽しみにしてた体育祭、台無しにされるワケにはいかねぇ。
 「はるる、どーだった〜?」
 大分経ってからぼそっと、ひとり言みてぇに一成が呟いた。
 「あー笑ってた。はると強いからな〜人に気ぃ遣わせまいとして強いからな」
 「だろーね〜同じチームならずっと側にいれるのに〜」
 マジそれだ。

 また少し沈黙になってから、更に静かな声が聞こえた。
 冷静さを取り戻した副長復活、みてーな。
 「つーか〜俺らより昴がヤバいかもね〜」
 「あ?」
 俺の目には至ってフツー状態、機嫌良く見えたけど。
 鋭い眼差しをグラウンドに向けたまま、一成はため息を吐いた。

 「仁には見えなかっただろーけど〜俺は見えたんだよね〜アイツ、走ってる時一瞬、2年前ん時の目ぇしてた〜ナニをそこまでキレてんのかはわかんないけど〜?」



 2013.12.25(wed)22:26筆


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