165.お母さんが行く!再び
こうして戦いの火蓋は切って落とされた!
準備運動後、速やかにグラウンド中央をぐるりと囲った柵の外へ、チーム毎に分かれて待機。
とてもパイプ椅子とは想えない、素敵な座り心地の椅子が人数分用意されているけれども、なんと言うことでしょう。
各チーム、慣れたご様子でテキパキと椅子を後ろに追いやり、柵の前で立ち見!
どちらさまも素晴らしいチームワークで作業し、背の高い方は後方に回るジェントルメンっぷり!
なるほど、確かに座って呑気に見ている場合じゃございません。
昂る興奮のまま、俺も前列に加えていただく複雑な優越感を得つつ、十左近先輩が頭を抱える姿を想像してしまった。
いつもこれぐらいテキパキと、自主的に協力していただけたら、先輩も荒ぶるアナウンスを流さずに済むでしょうに。
ほんとうに先輩方は大変ですねぇ。
せめて今度もっと、精のつくものを差し入れさせていただこうと考えていたら。
「た、楽しみだなっ、はると!」
いつの間に隣にいらっしゃったのか、練習中は必要最低限のお話ししかしなかった九さんが、ぎこちない笑顔を浮かべておられた。
俺も精一杯笑顔を浮かべた。
「はい!いよいよ始まりますねぇ。楽しみですね!」
更に反対側から、どこか強張った声が聞こえた。
「だ、第3種目、出るんでしょっ。応援披露が終わったら、す、すぐ行きなよねっ」
「合原さん…はい!俺、頑張ります!」
「当たり前でしょっ。柾様の足を引っ張ったら許さないんだから…心春はっ別に…弁当の事しか考えてないんだからねっ」
「わぁ、ありがとうございますー。えへへ、体育祭特別バージョン、お気に召していただけたらいいのですが〜」
「「「「「体育祭特別バージョン?!」」」」」
わあ、皆さんったらいつの間に聞いていらしたんです!
Aチームの意気投合、半端ないですねぇ。
「えーマジでマジで?ここはやっぱ先輩優先だよねー先に味見させてよー」
「旭先輩、めっ!でございます」
「めって…」
「皆で食べてこその体育祭特別バージョンですので!例え偉大な先輩と言えども、チームを乱すのはご勘弁願います」
「「「「「ぶはっ、旭怒られてやんのー」」」」」
「俺、怒られちったよー」
「旭先輩、ナニ照れてるんスか…そんな顔、初めて見るっス」
皆で、笑って。
美山さんは素っ気なくそっぽを向いていらっしゃる、もう直に始まる競技に出場なさる方々はこの場にいらっしゃらないけれど。
九さんと合原さんから、声をかけていただけたこと。
バスケ部の皆さんが揃って、見守ってくださっていること。
嬉しくて、まだ何の競技も始まっていないのに、早くも泣きそうになった。
皆さんの為に、チームの為に、少しでもお役に立ちたい。
責任を持って競技に挑みたい。
目指すは優勝あるのみ、ほんとうに心から想った。
「えー旭、気持ち悪ぅ〜お母さんに怒られて喜ぶとか、Mだったの〜?」
その時、一際よく通る声が聞こえて。
皆で振り返ったら、悪どく笑う柾先輩と、無門さんが到着されたところだった。
「昴…俺、新しいプレイに目覚めちまったぜ…」
「ヤダーこっち来ないでー触んないでよー!親衛隊呼ぶぞ、コラ」
「呼ばなくても揃ってんだろうが。ねー心春ちん」
「僕だけじゃありませんけどぉ。旭先輩と柾様のおふざけは親衛隊公認なのでぇ、何の問題もありませぇん」
「「公認…何かヤダ」」
「「「「「ヒューヒュー!よっ、お似合いっ」」」」」
明るい空気が、一際大きく広がっていく。
やはりと言うか、流石と言うか、柾先輩の存在感は大きいんですなぁ。
「はると。会いたかった。よ。」
とてとてとやって来られた無門さん、ぺとりと俺の背後にくっついてしまわれた。
「あらあら、無門さん。昨日お会いできなかったですものねぇ。生徒会のお役目、お疲れさまでございます」
こくこく頷いていらっしゃる、無門さんはほんとうにワンコさんみたいですねぇ。
大きな、そうラブラドールさんみたいな大きなワンコさんに甘えられているようで、お可愛らしいことこの上ない。
「そーすけ、あんまり、その…はるとに甘えちゃヤダ!」
「無門様、お母さんは、その…そうだ、無門様親衛隊の皆様が見たら何と仰るか…」
あらあら、九さんと合原さんがなんだか困り顔?
「ヤ。です。おれの、親衛隊。も、はると好き。だいじょぶ。だぜ。」
あらあら、無門さん、ますますぎゅうぎゅう引っついてしまわれた。
「お母さんは人気者だねーどうせバスケ部のものなのに」
旭先輩までこの不思議な混乱に加わってこられた。
じとっと注がれる様々な視線、俺は一体どうしたらいいのでしょうか。
どうリアクション取ったら面白いのか、丸く収まるのか、どっちへ転んだらいいのか皆目わかりません。
「お前らなぁ、マジでガキか。陽大に負担かけて潰したら許さねえ。Aチームのエースだぜ?リレーすぐ始まるっつの」
天の一声で、ばっと散会。
流石はアイドルさまのリーダさまですねぇ。
無門さんもさっと離れて、俺の後ろに立つに留まった。
ちらっと見上げた柾先輩は、先ず最初、今にも始まる応援合戦へ目を向けながら、旭先輩と談笑されていた。
2013.12.20(fri)23:24筆[ 503/761 ][*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]
- 戻る -
- 表紙へ戻る -