156.十左近先輩の気苦労日記(4)


 最後まで残っていたのは、先生方と俺と風紀委員長、日和佐だった。
 つっても柾達が出てってから、ちょっと最終確認してただけで、数10分もかからずに終了。
 戸締まりを確認してから、先生方と催事棟の前で解散。
 必然的に残った2人で、寮へ向かう事になった。
 互いに畑違い。
 家も学園での立ち位置も、何もかも。

 けど風紀とは、イベント毎に持ちつ持たれつの関係がある。
 朝礼1つ取っても、ウチ(放送部)と風紀の連携は大事なわけで。
 それに、学園きっての堅物だと噂の、取っつき難い日和佐だけど、俺は嫌じゃない。
 「あ―――…流石にくたびれたな〜」
 生温い空気が充満している夜空へ、想いっきり両腕を伸ばした。
 どんな天候だろうと眉1つ動かさない、年中鉄面皮の日和佐はため息を吐いている。

 「貴様の相方、所古と生徒会の天谷の動向が酷似してきた事に意味はあるのか」
 「おいおいおいおいっ!ちょっと待て!何で俺の相方があの365日下半身ルンルン男なんだよ…速やかな撤回を要求する」
 「相方だろうが。初等部の頃から年がら年中引っ付いて居たではないか」
 「ちょ待っ!!そりゃないだろ〜」
 「チョマ?」
 
 今でこそ浅からぬ因縁はあるけどさ。
 んな初等部の頃からって事はないだろ。
 何でかセットに見られるんだよな、俺と所古って。
 此所の役割上、たまに一緒に居るだけで、プライベートは別だっつーのに。
 仲は悪かぁねーけど、良いかっつったらどうなんだ。
 大体俺は、ヤツのチャラチャラっぷりに1番ドン引いてんぞ。

 「どいつもこいつも…日和佐まで前みてーな事、言うなよな」
 おっと、しまった!
 失言だったか。
 案の定、天候の変動では微動だにしない日和佐の眉が、ぴくっと動いた。
 「それを聞こうと思っていた。貴様も所古も最近、妙にクンちゃ…前陽大と絡んでいないか。内々から疑念の声が上がっているのだが」
 
 流石は風紀委員長様だぁね。
 ポイント抑えてるよなーま、明日本番の体育祭だって、全校注目の的は前だ。
 それも前の所属するAチームには柾が居る。
 柾のツレ、バスケ部の主力メンも揃ってやがる。
 前の周りは本人全く望んでねーのに、常に華やかだ。
 風紀委員長様も看過できねーわな。

 「そりゃあ風紀だって狙ってるぐらい、貴重な人材だろ?言っとくが前陽大は何処にも渡さねー。放送部に貰う」
 「はっ、どの口がそんな愚かな事を…弁当シフトにすら参加しとらん雑魚は引っ込んでろ」
 「残念でした〜既に差し入れを数回貰ってます〜」
 「何だと…?!いつの間に…このクソ忙しい体育祭中におのれっ…!流石はタラシ2人組みで名を馳せた、『チャラマ』と『チャラサコン』だな!!」

 コイツ、俺の黒歴史を!!
 「ああ?言ってくれんじゃん…いつでも品行方正な日和佐誉風紀委員長?俺が知らないとでも思ってんじゃねぇだろうなー『眼鏡無しモード』」
 「貴様…触れて良い事と悪い事が在ろう…」
 2人、足を止めて夜の闇の中、暫し睨み合い。
 数秒後、どちらともなく吹き出して、再び歩き始めた。

 「これが最後の体育祭、か」
 「あぁ…最後だな」
 俺達の時間は流れ続けており、想い返せば、楽しくねー事ばっかりで埋め尽くされていた筈の、薄暗い青春は、今となっては急に手放し難い光を放ち始めている。
 こうした緩い時間は、ここを出たら最後、もう終わりだ。
 文字通り、最後だ。

 大学部に上がった先輩方と、音沙汰が切れている様に、進学するにしろ家業を継ぐにしろ、かつて仲間として歩いた人々とは世界が変わる。
 比較にならない程、時間が自分のものではなくなる。
 そうして追われる内、こんな不可思議な世界に居た事など、遥か遠い昔話になるんだろう。
 感傷は仕方がない。
 宮成が急にやる気を出すのも、無理のない話なのだ。

 「そう言えば、宮成ともこんな話をした」
 「そっか。ま、3年は誰でもそうなんじゃね」
 「…だな」
 「ところでさー、宮成と渡久山はどうなってんのよ、アレ。戻ったわけ?」
 「後輩の色恋沙汰には接触しない事にしている。が、復縁の有無は本当に知らん」
 「ふーん。何か前より雰囲気ピンクじゃね?」
 「ぴんく?知らん」

 延々と下らない話を続けながら。
 さぁて、明日は俺達の最後の祭りの1つ。
 盛大にカマしてやろうじゃん?



 2013.12.13(fri)23:09筆


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