152.音成大介の走れ!毎日!(9)

 
 『明日だな』
 通話のボタンを押した途端、いきなり始まる会話。
 繋がるか繋がらないかの即行性、素早い切り出し方、これもやがて一企業のトップに立つ男の片鱗というものか。
 あんまりせっかち過ぎんのもどうかと想うけどねー。
 ま、俺ら言ってもまだ高校生だからね。

 「お疲れ様です、ご主人様。ご機嫌はいががでございますか。今宵も月が綺麗ですねー」
 『止せ、大介。お前に愛を告白されても嬉しくない』
 「相手選びますものね、うちの聡明なご主人様は」
 俺も選ぶけどね、当然。
 『…どうした、今夜は妙にじゃれるな。あれから何かあったか』
 あれから何かあったか?

 「あるも何も、体育祭前ってのはですね、」
 『ああ、良い。面倒な話は不要だ。そうか、陽大が居なければ「十八学園の大介」とそう関わる事もなかったが…そういや「ヤツも」毎年この時期おかしかったな…』
 仰る通りで!!
 陽大が入学しなかったら、俺とご主人様の関係はあくまでビジネス上だけだった。
 だからと言って、陽大が居なかったら良かったとは想わねーけど。

 「はい、お察しの通り、十八学園の体育祭前ってのは鬼なんですよ誰しも鬼になるしかない超特大イベントは進路にも大きく関わって来るのでマジ受験かっつーぐらい殺気立ってんスよそれだけじゃないですけどねこんな山奥のガッコの盛大な娯楽スからとにかく毎日毎日真剣で斬るか斬られるかっていう。なので端的に陽大の状況をお知らせ致します」

 『全く端的じゃねぇな』
 「はい、調子に乗り過ぎました。すみません。では切り替えてー。大きな動きはありませんよ。陰でコソコソ、天谷と一舎が各自で画策してんのと、柾会長親衛隊を筆頭に、その他親衛隊の雑魚がコチョコチョしてんのは相変わらず。表立って陽大に嫌がらせするってなったら、明日でしょうね。相変わらず1Aの雰囲気は硬めだけど、2Aと3Aが賢くフォローして下さってるんで、陽大は元気っつか…」

 『「つか…」なんだ』
 「…ご主人様、ガチで陽大の事となると食いつき違いますよねーマジ意外ー」
 『茶化すな。俺は本気だ』
 「重々わかっておりますってば。だから俺も本気で見てますよ。ええと、陽大ね、いろいろあって落ち込んでたじゃないスか。だけどこの所、以前より元気に張り切ってんスよねー」
 『空元気じゃないのか』

 この人、本気の中の本気だよな。
 ここまで他人の事を心配して想いやれるなんて(超過保護すぎるけど)、初めて知ったっつーの。
 どういうベクトルの本気なのか、今ひとつわかんねーけど、そこは俺の管轄外だからどうしようもねぇ。
 
 「俺は陽大と知り合って間もないスけど、元気か空元気かはわかりますよ。目ぇみたらわかるっつか、何か毎日明るくてこう…パァっとしてるんスよ。体育祭頑張るぞーって気迫が強くて、周りも圧されてる感じですね」
 『…ふーん…特に変わった事はないのに、元気になったのか…』
 「まあ、食堂のメニューが体育祭&夏仕様になったとか、練習でかなりチーム纏まってきてるとか、気合い入る要因はありますけどねー。あと気になってんのは、所古先輩と十左近先輩と仲良くなってるところぐらいス」

 『まあ、陽大だからな。誰だって陽の光は当たり前に好きだろう』
 「そうスねーバスケ部もすっかり陽大の味方っス。特に2、3年の主力が全員Aチームなんでー、陽大ってトップとか大物に好かれやすいですよね。今度練習試合ん時、差し入れして貰えないかって話出てんスよーいいでしょー」
 『お前はどれだけ陽大の恩恵に預かるつもりだ』
 「えへへ!超嬉しいっス!あざっす」
 『可愛い子ぶるな、似合わん。もう良い、わかった』

 ため息を吐いて、でもすぐ、ニヤリと笑ったのがわかった。
 『やっと明日で終わるか…』
 「後は早いですからねー試験終わってすぐ夏休み!ご主人様の時代到来ですね」
 よっ、おめでたいね!
 『あぁ、長かったな…。大介、』
 珍しく実感隠ってんなと感心してたら。

 『最後まで陽大を頼む』
 「了解致しました」
 あんたの大切な陽大は、俺にとっても大切な友達だ。
 ご主人様に代わって守るんじゃない。
 それもあるけど、俺は、俺の友達を守る。
 「つーかー夏休み、ちゃんと予約入れてます?陽大、すげー予定埋まりそうスよ。武士道系だけでポンポン今から話してますから」
 
 俺も、外で陽大とフツーに遊んでみてーな。



 2013-12-09(mon)22:44筆


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