151.親衛隊員日記/心春日和vol.8


 もう何度目?
 「違うって言ってるでしょ…!もっとふんわりしてて、角が丸っこくて、まばらに塩味なの!ツナももっと甘いマヨネーズ味で…こっちのタコの色も、こんな自然な色じゃないんだってば!顔もこんなお上品じゃなくて、もっとお母…じゃない、もっとのほほんとボケボケした顔!!」
 『大変申し訳ございません、合原様。今1度お時間いただけないでしょうか。至急作り直しており…』

 テーブルの上に、何枚も並んだ皿。
 プロの力で作られた、彩り鮮やかな料理の数々、これだけ並んでいるのにどうして。

 学園のムダな贅沢主義から、各施設の管理は外部のプロに委託しているそうだ。
 食堂関連も然り。
 それこそ世界に名立たる「HOTEL KAIDO」にだって引けを取らない、一流のプロばかり雇っているんだって。
 万一学校経営しくじっても、星付きホテルとしてやってけんじゃないの。
 或いはソレ狙っての成金仕様かも知れないけど。

 食堂や購買で、この心春様の舌に合わなかった事なんてない。
 何を食べても、不満なんか感じた事がない。
 供される料理の数々、サービスに至るまで、まさに「KAIDO」クラス。
 中には何に対しても不満タラタラのバカ坊っちゃまも居るけど?
 味や物事の真価がわかんないバカは、何処にだって居る。
 そんな鈍感ヤローは眼中にない。

 僕は僕なりに磨いてきた審美眼で、学園の食事サポート態勢を高く評価している。
 『…合原様?いかが為さいましたか。此の度は私共の不手際で大変ご迷惑をお掛けし、誠に申し訳御座いません』
 その僕が。
 こんな、陰湿なクレーマーの如き真似をするなんて。
 こんな下らない、幼稚なガキそのもの、立場の弱い人間の時間を横取りして、大きなツラして偉っそうに。

 並んだ皿の内容を見て、更に肝が冷えた。
 急に浮かんだ笑顔が、何故か懐かしくて、遠くて。
 元には戻れないんだ、2度と。

 「………もう、良いです…」
 『合原様?』
 「作っていただいたものをいただきます。無理言ってごめんなさい。体育祭の準備で疲れていて…」
 『左様で御座いましたか…お疲れの所、お気持ちに添えられず済みません。せめてものお詫びに後程ハーブティーをお持ち致します。ごゆっくりお召し上がり下さいませ』
 「ありがとう…」

 ルームサービスの電話を切って、深くため息を吐いた。
 料理のプロが作ったものなのに、美味しそうなのに、まるで食欲が湧かない。
 今までの日常になかったものなのに、どうして?
 僕が食べたいのは、こんな綺麗なきちんとした料理じゃなくて。
 いや、アイツだってきちんと作っていたけれど。
 どこか丸みのある三角おにぎりと、タコの形の赤いウィンナーと、甘い卵焼き。
 あのお弁当が食べたい。

 親衛隊仲間からのメールの着信音が、寒々しい部屋に鳴り響いた。
 どうせ明日の確認だ。
 見る気にもならなくて、僕はため息を吐き続けた。



 2013.12.07(sat) 22:25筆


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