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なぁんてこったい!
なぁんてこったい!!
「な〜可愛いーだろ。似てんだろ。この写メ、陽大みてえ」
「とんでもないことでございますっ…!!滅相もございません!!そんなリップサービスなどこちらから進んで辞退申し上げます。そんな、上辺だけの社交辞令など、このお写真の前では無意味!!まったく必要のないお気遣いでございます!かしこ」
先輩の適当ならぬテキトーというカタカナがよく当てはまる言葉を受け流しながら、俺の目も心も、このスタイリッシュなりんごマークのスマートフォンの画面に釘付けでございますともー!
一瞬でフォーリンラブ。
こんなことってあるんですね!!
一目で恋に落ちるって、実際にあるんですね。
それにしてもなんとまぁ、ぬいぐるみなど凌駕した、きっと愛くるしさ宇宙1のわんこさん、お可愛らしさ地球滅亡級のトイプードルの中のトイプードルさま!
最高傑作のぬいぐるみだって逃げ出してしまうでしょう。
画面の中からこぼれんばかりに溢れ出す、このお可愛らしさ、この魅力に、俺はもうぶっ倒れそうでございます。
なんて、なんてつぶらでまっ黒な瞳!
キラキラ、キラキラ、ぶっちゃけると十八学園のアイドルさまたちだって目じゃない程の輝き!
「くぬぁ〜お可愛らしすぎる…愛らしさ天下一…!!」
「ぶっ、くぬぁ〜って。ま、天下一の可愛さはわかるけど。マロンっての。モンブランみてえだろ」
「モンブラン!まさにモンブランカラー!この短めカットが何とも言えませんねぇ…ほう…」
「トイプーは熊カットが良いよな。しかし流石は陽大様、このちいさき者の魅力が重々おわかりのようで?」
「ふっふっふ…当たり前じゃありませんか、柾屋さん?このまま何時間でも1日中でも眺め暮らせますよ!」
お代官ごっこへ突入したところで、先輩が画面をスクロールした。
「はわっ!なんと…これは!!」
「そんなお代官様に至高のマロン様の数々、ご披露致します。先ずは『おねだりマロン』様」
「これはっ…このようなお顔をされたら、なんでも言いなりになってしまうっ!」
「でしょう?マロン様の十八番でございます。さてお次は、打って変わって『ツンデレマロン』様」
「ぐっ…!焦らしテクニックまでお持ちとはっ…やられましたね…!このツンツンした横顔っ、なんと愛らしいことか!!」
「この時、しっぽは揺れておりました。更に魅惑の『グラビアアイドルマロン』様」
「おっと、セクシー!マロンさまったらこんなにセクシー!!」
「マロン様もお年頃でございますから?ちょっと開いたアヒル口もどきがポイントでございます。お次は狼に御用心、『赤ずきんマロン』様」
「ひゃ〜!これはまた…!いいっ!すごくいいっ!可愛すぎるっ」
「更に無敵の『おネムなマロン』様、ロードムービーでお楽しみ下さい」
「えええっ!マロンさまが動いて…?!しかもおネム?!こっくりこっくりして…まぁ…かーわーいーい〜。そして何てお洒落な映像!」
「ご好評に大感謝でございます、陽大様。ではとっておきの秘蔵ムービーを」
「わあ、お散歩マロンさま!!しかもお若い?さっきよりも子犬!わあ、ピョンピョン跳ねて…マロンさまったら嬉しいんですねぇ…」
あっという間に世界はバラ色!
お可愛らしすぎるマロンさまコレクションを堪能していたら、陽も昇り始め、辺りは明るくなっていた。
「ご満足いただけましたでしょうか、陽大様」
「満足なんてものじゃあないですよ!こんな素敵なわんこさん、朝からなんて贅沢なひととき…マロンさま…俺に癒しを授けてくださり、ありがとうございます」
「陽大様の癒しになったならば、マロン様もお喜びになることでしょう」
と言うか!
はっと我に返って、俺は先輩に詰め寄った。
「大変貴重な画像を拝見させていただき、そのことにとても感謝しております。しかしながら柾先輩、あんなお可愛らしいマロンさまという御方がおられながら、このように街から遠く離れた学校で寮生活だなんて!はっ、そもそもマロンさまとは?!」
「前言ったじゃん。実家に陽大によく似たわんこ居るって」
「ご実家のわんこさん!それならば尚更、寮に入ってる場合ではないでしょう」
ふっと、先輩が微笑った。
「陽大がムキになることじゃねえと想うけど」
「そうですけれども!俺ならお可愛らしいマロンさまとの別離は身を斬られるより痛く辛い…他人に写メを披露するとか、そんな余裕ございません」
だってあの映像のお散歩マロンさま、一緒に歩いている人の声、お顔こそ映っていないけれど柾先輩だった。
マロンさまは先輩と一緒にお散歩するのが大好きだって、全身で、表情で訴えながらぴょんこぴょんこしておられた。
先輩だってこんなにたくさんのマロンさま画像をコレクションなさる程、とても大事になさっておられるのに。
大好きな飼い主さんと離れて暮らす今、マロンさまはどんな想いでお留守番をされておられるのか。
何故か、自分のちいさい頃のことまで想い出し、胸が痛んで仕方ない。
「それはマジでそうなんだけどさ。実家だから家族居るしな。マロンとは毎日電話してるから、お互いわかり合ってるから良いんだよ」
「え?え?毎日マロンさまと???電話???」
「それよか、元気んなったか?」
「無論でございます!マロンさまからどれだけパワーをいただいたことか!」
柾先輩が、バカ笑いじゃなく笑った。
「それなら良かった」
2013.12.05 (thu)23:51筆[ 487/761 ][*prev] [next#]
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