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 なんですって?!
 俺はたぶん、わかりやすく青ざめているのだろう。
 何のごまかしも効かない、手遅れな程に顔色が変わったのが我ながらわかる。
 柾先輩の眼差しに射すくめられたまま、一言も発せず、陽の光で輝く瞳を凝視するしかなくて。  
 わずかな、数10秒の間だけれど、これだけ時間が経ってしまったら、もう手遅れだ。

 「…どうして、ご存知なんですか」
 所古先輩方に、内情をご存知の柾先輩にも、俺の勧誘の件は内緒にしておくように!って口止めされていたのに。
 帰る時、ショッピングモールの出入り口手前まで送っていただいて、その後、寮までの道のりもすごく気をつけていた。
 いつもあの辺り、あの時間帯は人の姿がまばらだ。

 特に今は体育祭期間だから、尚のこと人の姿がなくて、とても静かだった。
 誰もいないからって、気は抜いてないつもりだった。
 一体どうして、どこで見られていたんだろう。
 柾先輩ご本人じゃなくても、どなたかに目撃されていた?
 もしや、熊モードの所古先輩と待ち合わせていた時点で?
 
 ぎゅっと手を握り締める俺と対照的に、先輩は深遠な眼差しからきょとんとしたお顔に変わった。
 「いや、んなビビらんでも。たまたま見かけただけだし。そろそろ先輩達が動く頃かな〜とは予想してたし。陽大みたく貴重な人材は、どこの組織も欲しいからな」
 はい???
 「たまたま見かけたって…そんな予想、と言うか貴重な人材…???」
 「外世界目線で真っ当に暮らしてるっつか、面白いしな」

 「面白い」。
 またですか。
 やっぱりそこですか。
 「ははは…俺なんて皆さんからしたら面白宴会要員ですよね…そうですよね…トンチキなことばかりして、学校をお騒がせして、ご迷惑ばかりかけて…なかなかないトンチキ面白さですよね、そりゃあ、わかっておりますとも…ふふふ…」

 面白い面白いって、じゃあもっと皆さんに笑っていただけるように、本格的にネタ作りしたらいいんですかねぇ。
 でも生憎、俺の脳内は料理のことばかりで大半占められていて、漫才とかコントとかギャグとか見る専門というか、芸人さん皆さん尊敬するばかりで遠い世界で。
 俺にはお笑いで芸を極める余裕なんてない、それはつまり誰にも喜ばれない存在ということ?
 自分の存在意義を激しく問い、反省していたら。

 「なーんでそうなる。面白いって深いじゃん。いろんな面白さがあるじゃん。別に陽大を貶めてるわけじゃねえ。俺至上最高に褒めてんだけど。つか、面白いはついでだっつってんだろ、いっつも。陽大が真っ当に暮らしてる姿つか、ちゃんと食べてちゃんと勉強して、学生らしく頑張ってんのがここでは珍しいから、お前は貴重な存在なんだよ。何で伝わんねえかな〜」

 頭の上に大きな手が乗って、よしよし撫でられて。
 目の前の先輩はちょっと苦笑いして、どこか困ったようなお顔だ。
 「頭、ぐしゃぐしゃ…」
 「ぐしゃぐしゃにしてませんー。お前、マジで元気ねえよな。ま、いろいろあり過ぎたか…それは俺も悪ぃし。仕様がねえなあ、元気充電できるもの、特別に見せてやる」
 
 元気充電できるもの?
 俺にとってそれは、料理関連に他ならないけれど、生憎、最近少し気力が落ちているから。
 ごそごそと、相変わらず格好良く着こなしておられるウィンドブレーカーを探り、イケメンが持つだけで光輝く近未来アイテムに変化するスマートフォンを取り出し、何やら操作しておられるけれど。

 「HOTEL KAIDO」のお料理写真レベルじゃなければ、俺のテンションはどうにも上がりませんよ。
 「ん、ほら見てみ」
 「は、あ…?!なんですって!!」
 ところがどっこい!
 差し出された画面を見た途端、俺は想わず叫んでいたのでありました。



 2013.12.04(wed) 21:40筆


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