146.朝惑い
まだ薄暗い、空の果てを見つめながら。
できたての朝の冷ややかさでかじかんだ手に、白い息を吹きかけた。
「寒い、なぁ…」
これ以上身体を冷やさないように、その場で軽く足踏み。
空にはまだ、輝く星が点々と見える。
その一方で、ゆっくりと日の光が昇り始めている。
なんて冷たくて、優しい朝の瞬間だろう。
ちらっと切り株の上に置いた、朝ごはんの包みを見た。
今朝はとりわけ冷える。
まもなく初夏を迎えるからか、季節が変わる前、最後にもういっちょ気温下がったって感じ。
この寒さで、包みの中はシャリシャリのシャーベットになっていそうだ。
む、ガ●●リくん・お味噌汁味もできますな。
寧ろ喜んで食べていただけそうですな。
その時はこっそり写メって、所古先輩たちに送信しようかしら。
いや、どう考えたってリークしたのが俺だって、すぐにわかってしまいますね。
そうなったらどんな報復が待ち受けているやら、おお怖い。
朝の至福の一杯=カフェラテが飲めなくなったら、非常に哀しいですものね。
大人しくして、シャーベット朝ごはんを進呈しましょう。
ううーん、学校を喜ばせる記事作成って、難しいものなんですねぇ。
偉大な先輩方を想い浮かべ、そのイケメンなお顔が、数日前のウサギさんとクマさんに変わって、ひとりで吹き出しそうになった。
お可愛らしかったなぁ、あの着ぐるみ!
普段、新聞報道部としてやむを得ず校内で行動する時、必ず着用していらっしゃるのだとか。
とても大変そうだけれど、遊び心も感じられてなんだかすごい。
あれから数日、先輩方のお蔭で明るい心持ちでいられた。
報道部に誘ってくださったこと、お断りしてしまったけれど。
『ま、気が変わったらいつでも来てくれィ!』
『秘密を教えたからには、前は仲間も同然だ。これからもよろしく』
先輩方は気さくに笑ってくださって、何かあった時の為にってメールアドレスまで交換してくださった。
あの明るさが、とても有り難かった。
『俺達は前の味方だぜェ』
帰る間際に所古先輩が仰ってくださった言葉が、その場限りの社交辞令だったとしても嬉しかった。
十八学園に来て目まぐるしく、いろいろな出会いがあったけれど。
自分の至らなさで落ちこんでばかりだけど、周りの方々にほんとうに恵まれている。
武士道はもちろん、皆さん優しくて頼もしい方々ばかりだ。
俺は皆さんに、どう恩返ししたらいいんだろう。
学校を騒がせてばかりの俺に、何ができるだろう。
一先ず、新聞報道部さんには、たまに差し入れするってお約束しているけれども。
料理で恩返し達成なんて、プロじゃないのにとんでもないことだし、他に何かないかなぁ。
十八学園をより良くする為に、奮闘されている皆さん。
毎日明るく接してくださる、クラスの皆さん。
いろいろな方々に、俺は一体何をお返しできるかな。
先ず、これ以上学校を騒がせない、というのが当たり前に重要だ。
お弁当シフトでリクエストにお答えするのは、俺の将来の為になっていることだし。
うう〜むむむ。
いつしか腕を組んで、考えこんでいたら。
「お前な…だから早く来んなっつってんだろ。つか、何で仁王立ちなんだよ」
薄暗い明け方の気配を払う、神々しいまでにオーラあふれる柾先輩、朝日を背後に従えご登場。
なんだか…有り難や、有り難や。
2013.12.2(mon) 22:33筆 [ 484/761 ][*prev] [next#]
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