142.仕方がないから


 うーむむむ…
 この「スカイレモン」さんとやら、結構なお味で…やみつきになりそうですなぁ。
 しゅわーっと程よい微炭酸に、しっかりレモンの味、レモンの香りが利いて、ほんのり甘くて、これからの季節にもってこい!のしゅわしゅわレモネードだ。
 まさに空高く突き抜けて行きそうな爽快感、何て口当たりがさっぱりしていること!
 お風呂上がりや、うんと暑い真夏日にお外から帰って来た時(水遊び帰りなんかがこの上ないだろうねぇ)、がーっと煽ってぷはぁってしたいねぇ!

 もしくは、油っこかったりがっつり濃厚系のごはんの後、一服する時、コーヒーなどお茶前に飲みたいねぇ。
 これでシャーベットなどを作ってもおいしいだろうねぇ。
 レモンイエローとスカイブルーの、一見ポップで、でも余計な装飾のないシンプルなパッケージも素晴らしいなぁ。
 そして潔く、商品名と原材料、生産者、販売社名だけが綴られている。
 こだわりも想いも愛情も、味に全部こめているから静かに提供致します、どうぞ味わってくださいませねっていう、確個たる姿勢を感じる。

 十八学園に卸されている食品、飲料、日用品は殆ど、こういった静かな意思に満ちた品々だ。
 こだわることで、少量しか生産できないこともある。
 原材料の収穫や入荷状況に因っては、生産が困難になる事態も生じるだろう。
 こだわる余り、諸々の事情で生計が成り立たなくなってしまう、というお話も聞く…
 誰もに等しく提供される、生活や文化など時代の変遷で生まれた。利便性の高い大量生産の商品だって、長所がたくさんある。

 ものづくりの姿勢として、どちらからも大いに学ぶところがある、ということだ。
 ああ、しかし、おいしいものに出会う度に、早く食堂を作りたくて、夢を叶えたくて堪らなくなりますなぁ。
 おいしいおいしいと満喫しつつ、味覚の充実だけに止まらず、視覚も触覚もキビキビ働いてくれていた。
 幸いなことに、十八学園のいろいろな場所へ赴き、様々な内装に触れる機会を得させていただいてきた。
 多種多様なお部屋、だけど基本は同じ、すべて居心地良くまとまっていた。

 いろいろな役職にお就きの皆さんが、快適にお仕事できるように、あるいは心地良くリラックスできるようにと、とても配慮されてあったと想う。
 流石は創立100年の重みというか、何度か改装しただろうけれど、様々な人が出入りを繰り返して来た、それぞれの人生の大事な一時を学校で濃密に過ごした、不思議な暖かさに満ちていた。
 ところが、こちらのお部屋は今までのお部屋とは違う。
 こちらのお部屋はまだ、新しい匂いがする。

 新築されたばかりで入居者も決まっていない、そんなよそよそしさを感じる。
 ソファーから違う。
 とてもいいソファーだけれど、ずっとのんびり座っていられない、堅苦しさがある。
 必要最低限の誂えで、観葉植物もお花も装飾品も何ひとつない、色味がない。
 パソコンや周辺機器の設備だけ、異常に整っていて(何もないお部屋だから余計に際立って感じるのかも知れない)、まるで厳格な大企業のオフィスみたいだった。
 長居はできない、そんな印象のお部屋。

 簡易キッチンどころか、お湯を沸かすスペースも付いていないのは、ここが初めてだ。 
 ショッピングセンターの中、だよねぇ…?
 実は俺、毎日のようにお買いものするものだから、スーパーの熊田さんと仲良くしていただいて、探検ソウルがスパークした余り、バックヤードまであらかた見学させていただいたことがあるのだけれど。
 バックヤードは店内と同じように凝った内装で、楽しくお仕事できそうな、あったかい雰囲気だった。

 スタッフルームも休憩室や更衣室が別で、まるで森の中のログハウス仕様(まぁ、森の中だけれどねぇ…)、ここならゆっくり休憩できそうっていう印象だったし、実際にスタッフの皆さんも毎日楽しく出退勤なさっておられるそうだし。
 建物全部、そんな感じだと想っていた。
 お洒落であったかみのある、働くスタッフさんのことまで考慮された、欧米の洋館のようにおおきなショッピングセンター。 
 その中に、こんな無機質なお部屋があるなんて。

 いや、ぐるぐる歩いている内に、どこか別の建物へと移動してしまったのかも知れないなぁ。
 何にせよ、ここだけこんな感じだなんて、なんだかもったいないし寂しいねぇ。
 なにかしら事情がおありなのだろうけれど。
 グリーンひとつでぱっと明るくなると想うのだけれどねぇ。
 待てよ、先輩方もあまりこちらへ出入りしないということかなぁ。
 お部屋に人の気配を感じないんだもの。

 などと勝手に考えていたら、いつの間にかすっかり着ぐるみを解放し、いつもお見かけするスタイルに戻った所古先輩が、にっこり笑いかけてくださった。
 「そろそろ落ち着いたかィ、前陽大君」
 「は、はい…お陰さまで。結構なものをいただき、とても美味しゅうございました。ありがとうございました」
 「どういたしましてー!そう構えんでくんなァ。大仰なのは俺も十左近も苦手なんでねェ」
 「はっ、恐縮でございます」

 あら?
 所古先輩の隣に並ばれた十左近先輩までも、非常にリラックスしたゆるゆる制服スタイルだ。
 いつも風紀委員さんのように、びしーっとした印象だったのだけれど、類は友を呼ぶというやつですかねぇ。
 所古先輩は学校断トツでゆるゆる過ぎると想いますけどねぇ…ひーちゃんだってもっと制服の原型を残していますよ?
 スラックスがジャージで、ローファーがサンダルって、ちょっとねぇ。
 

 「「改めて、新聞報道部へようこそ!前陽大君」」 
 「ほいやっ!?」


 そうだった、俺は新聞報道部さんにお招きを受けて…
 着ぐるみのインパクトでうっかりしていたよー、ほんとうに改めて驚いた。
 所古先輩と十左近先輩、新聞報道部さんだったんですよね!!



 2012-01-12 23:47筆


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