139.ある日、森の中
『親愛ナル1−A前陽大殿
ボンジュール、コマンタレブー。
爽ヤカナ初夏トナリマシタ、イカガオ過ゴシデショウカ。
最モ、親衛隊号外ノ所為デ、心休マラナイ日々デアロウ事、オ察シ致シマス。
ソンナ君ニトッテ有益ナ話ガ有リマス。
今後ノ学園生活ノ為ニモ、聞イテ損ハナイゾヨ!
君ガ毎日ショッピングセンターデ食材ヲ買イ出スノハ知ッテイル。
ショッピングセンターハ、我々新聞報道部の極秘テリトリーダ。
コウシテ秘密ヲ明カシタカラニハ、是ガ非トモ君ハ我々ノ話ヲ聞カネバナラナイ。
誰カニバラシタラ、泣イチャウンダカラネ…!
武士道ニモ、3大勢力ニモ、友達ニモ、誰ニモ言ッチャ駄目ナンダカラ!
放課後、イツモノ様ニ買イ物ヘ行クフリヲシテ来ナサイ。
コンビニ前デ、君ヲ待ツ。
尚、コノ手紙ハ我々モ君モ信頼タル、ゴーゴー業チャンニ託ス。
何タッテ業チャンハ、君モ知ッテノ通リ、元3大勢力・生徒会長OBナンダモノ。
コレデ我々ガ至ッテ本気ナンダト分カッテクレルヨネ?
我々ハ君ト仲良ク手ヲ取リ合イタイト思ッテルンダゼ。
ソコントコ、シクヨロー!
繰リ返シニナルケド、マジ他言無用デオ願イ致シマス。
新聞報道部代表2名ヨリ』
来てしまった…
指示されるままに、ショッピングセンターへと、エコバッグ持参で来てしまった。
入る前に深呼吸、スラックスのポケットに手を入れた。
その中には、ちいさく折り畳まれた、いつもの号外と同じ素材のザラ紙に書かれた、謎のお手紙が入っている。
もし手渡されたのが業田先生じゃなかったら、ただ怯えただけで終わっただろう。
こんな内容、絶対に信じられずに、哀しいけれどどなたかさまの悪戯だって、益々落ちこんだと想う。
軽いノリのお手紙。
漢字とカタカナで構成されたお手紙は、パソコンで作られたものではなく、整った綺麗な手書きだったから、尚更信憑性があった。
俺に話って、一体なんだろう?
新聞報道部さん…部員さんも活動場所もすべてが謎に包まれた、どなたさまも手出しできない治外法権。
3大勢力の皆さん筆頭に、生徒さんの誰もが畏怖し、警戒する存在。
そう言えば、柾先輩にも注意されたことがある。
気をつけるようにと言われていたのに、俺は結局、何度も号外に載ってしまった。
被害者ぶるつもりはない、すべて注意力散漫な俺が悪い。
けれど、言ってしまえば因縁浅からぬご縁というか、相容れる要素がないというか…
このお話がどういうものであっても、お互いに複雑じゃないだろうかと想う。
それでも来てしまったのは、どこか、久しぶりにワクワクしてしまったから。
我を忘れて浮かれるのは良くない、俺にそんな余裕は許されない。
自分の現状を忘れはしない。
その範囲の中で、気持ちが明るくなった。
少しだけ、顔を上げてみたくなった。
謎の中の謎とされる新聞報道部さんと、直接お話することができるなんて…!
スパイみたいだ、極秘の活動だ。
多少のドキドキはどうかご容赦願いたい。
しかも、誰も知らないテリトリーを教えてくださった。
ショッピングセンターとはなるほど、盲点の中の盲点!
まさかこのような公の場所、誰もが気軽に立ち寄る生活の一環、お買いものするところに秘密基地があるとは!
そして、業田先生も関わっていらっしゃるご様子…極秘顧問さまだろうか…?
秘密、秘密、秘密の匂いがプンプンする。
果たして、どんな方々が部員さんでいらっしゃるのか。
「代表2名」さまとは?
さり気なさを装って、左右前後を見渡してみた。
お祭り期間中、この辺りに人気はなくなる。
ショッピングセンターより食堂へ人の比重が移動する時期だ。
どなたさまもいらっしゃらないことを確認して、ほっとしつつ、それでも用心し過ぎることはない。
背中に目があるつもりで、注意深く、表面上はいつも通りのほほんとお買いもの気分でいなければならない。
難しい…!
スパイさんって、ほんとうに大変ですねぇ。
スパイの道は男の道、憧れの職業だけれど、俺には到底無理だなぁ。
現実では無理でも、今はちょびっとだけ、なりきらせてもらいましょうねぇ。
そういえば、秀平たちや武士道の皆、柾先輩とも、スパイごっこを満喫したことがありますなぁ。
男は皆、ハードボイルドやサバイバルな感じ、好きだよねぇ。
彼らのようなイケメンが張り切っちゃうと、これがまた、ほんとうに様になって格好良いのが妬けるけれど。
なんだか、そういう遊び心満載な時間が、とっても懐かしいなぁ。
人生、遊び心もほんとうに大切だよねぇ。
すっかり忘れていた、何かを楽しもうとする心、楽しいと感じること。
そんな呑気な事態ではないけれども、ゆとりに欠けているのもよろしくないなぁ。
体育祭が終わったら、武士道の皆と、こっそり人目につかないところで遊びたいな、遊べるかな…遊んでも、いいかなぁ。
いろんなことに想いを馳せながら、出入り口を通過し、コンビニ前を目指した。
どんどん近づくにつれ、目を疑った。
想わず足を止め、ごしごしっと目をこすって、幻覚じゃないことを何度も確認した。
違う世界へ紛れこんだんじゃないよね…?
ここはいつもの十八学園敷地内、立派にそびえ立つ、ショッピングセンター内のコンビニエンスストアだよね…?
敷地内にいらっしゃるのは生徒さんが主で、あとは教職員の方々、各施設や設備を管理される外部業者の皆さまだけだよね…?
じゃあ、あの………
一応、制服を着ていらっしゃるけれど、頭部が熊のぬいぐるみで覆われた、どこかアンニュイな気配を漂わせながら立っている人は、どちらさまですか?!
2012-01-09 23:14筆[ 477/761 ][*prev] [next#]
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