137.白薔薇さまのため息(5)


 残念ながらこの俺でさえ、正解も間違いも確定出来ないんだよねー。
 学園生活は、いや、柾の分家として生まれた人生そのものが、非常に厄介だ。
 後、1年。
 たった、1年。
 どちらだ…?
 来年の今頃、俺は下界でぬくぬくと暮らせているのだろうか。
 義理を果たすまで残り1年もない現状、夢を見る力だけは達者など、一族の端にも存在出来ない恥だ。
 
 「…うっ…ぁっ……!白バラ様っ…も…やめてっ!!許し、ひあぁっ…んん…」
 「おや、たったこれだけでもうギブアップ…?天谷様はあんなに遊び回っていながら、意外に持久力ないって事?まぁ、あの手の遊び人って、自分勝手で性格悪いセックス下手って相場が決まってるけどねー。案の定、か…どーせてめぇがイったらそれで満足っつー、ヤる意義もねぇ下らない子供騙し遊戯の経験しか無いんだろーねー、天谷様も君も実にお気の毒!」
 「ふあっ…あっあっ…やぁっ…!ひ、悠様の悪口を言う、なぁ…っ」

 「悪口…?違うよね、ただの現実確認だよね。実際、君も否定しないじゃないか。彼の事を盲目的に奉り、恋い焦がれる余りに自分だけは特別視されてる、ちゃんとセックスしてると想ってた?違うよねー?小賢しい君の事だ、見ないフリしてただけでちゃんと気付いてたでしょう?コイツ、セックス下手過ぎー!ってさ」
 「んっんっ…」
 可哀想に。

 君も、天谷悠も、前君も、皆、可哀想に………。

 当初の突っ張った抵抗がとっくに消え去った、臆面もなく泣き通しの瞳から零れる、哀れな輝きを舌に受けた。
 この辛さは、俺の業、そのものだ。
 存分に味わわなくてはならない。
 俺の罪はどんどん増えて、積もり積もって行くばかりだ。

 「………どうして…っ、どうして貴方が、こんなっ…僕に………!」
 どうして?
 ほんとうに、どうしてだろうね。
 残念ながら、俺にだってわからない。
 学園の空気に1番汚染されているのは、この俺かも知れない。
 それでも俺は、清浄よりも革命よりも、彼の人の御身の大事を何より優先する。
 
 それこそが、我が使命、我が命。

 残り1年限りの、果たすべき天命なのだ。

 「理由は簡単!天谷悠は己の親衛隊…君を代表に使って、体育祭期間中にトラブルを起こそうと目論んでいる。目論み自体は実に幼稚なものだ、普通なら看過するだろうねー。けれど、俺は見逃さない。柾様の過去、現在、未来に於いて、なるべくの平安を形成するのが俺の務め。始まりは小さな綻びが、やがていつか大きな決壊へと繋がる前に、未然に防いで修繕する…」

 開いていた脚を、更に左右に大きく開かせた。
 ギシリと軋む、お姫様が眠るが如き柔らかなベッド。
 無駄に贅を凝らした寝室は、今は逆に有り難い。
 深く突き入れる前に、一層青ざめた顔と額を合わせるべく、前傾になった。
 何とか理性は保って居る様だけど、快楽の支配は始まっている。
 いたいけな涙が浮かぶ瞳の奥に、期待と歓喜の兆しを見つけて、想わず口角が上がるのを止められなかった。

 俺は別に、あの所古みてぇな(どーでもいーけど、アイツも天谷と同じで下手くそだろうなー)快楽絶対主義者じゃないけどねー。
 やっぱり、セックスは運動とまた別口の気力体力振るうだけに、愉しい方が良いもんねー。
 「あーっと…もー面倒くせぇ話は止めようねー。取り敢えず折角だから、お互い気持ち良くなっちゃおうよ…俺が本当のセックスを教えてあげるからー恋だの愛だのなくても、結構イイもんだよーってね…本命と心通わせて出来んのがそりゃ1番だけどねー…あーあ俺、何か説教臭いな。ま、とにかく素直に感じてくれる?今まで君を散々な目に遭わせてきた奴等の事、払拭する位、ヨくしてあげるから…」

 さぁ、溺れろ。
 そして、忘れろ。
 つまらない、幼稚で馬鹿なガキの事なんざ、キレイさっぱり忘れてしまえ。
 己が男で在る事を想い出せ。
 学園を出ても強く生きられる位、全てを過去に流し、現実に恐れない位に、冷静になるんだ。

 何度も目を見て。
 何度も名前を呼んで。
 数え切れない睦言を囁いて。
 吐息を洩らし、吐息を届ける。
 互いが生きている鼓動を、全身で、感じ合う。
 抱きしめ合う。
 不確かな世の中で、血の通う生命体同士の不安定を慰め合うのではなく、分かち合う。

 熱で、知る。
 互いの熱で。
 何度も、ずっと、繋がる限りの最奥で。
 そうだね、俺の目の前に居る君は、何も悪くない。
 可愛い、可哀想な子供だ。
 愛に飢えた、学園の子供達。

 集中しない訳じゃない。
 あの飽き易いクソガキがずっと側に置いておくだけある、感度も反応も良い、身体の全て申し分ない。
 教えた事を素直に呑み込んで、理解して行く。
 賢くて可愛い、少しだけ道を踏み外した哀れな子。
 だけど今夜は、君1人に集中出来ない。

 どれだけ達しても、脳裏には、子犬の様に頼りない瞳で懸命に謝罪を口にし続けた、もっと可哀想な前君が焼きついたままだ。 
 


 2012-01-07 23:17筆


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