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 新しく熱いお茶を入れて、そっとテーブルに置いた。
 「有り難う。お構いなく」
 「いえ…」
 意外なお客さまに、どうしても緊張してしまう。
 落ち着かないながら、向かい合う形で座った。
 仁と一成は、さっきまでおネムさんで可愛いかった状態はどこへやら、険しい顔で後ろにいる。
 ちいさく「めっ!」と振り返ったら、空口笛を吹きながらあさっての方向を向いてしまった。

 お茶を一口飲んだ後、当のお客さま…富田先輩はリラックスした表情で笑った。
 「んー…やっぱり前君のお茶は美味いな!茶葉の旨味を存分に引き出していながら、渋さがない。美味しいよ」
 「ありがとうございます」
 「そんなに緊張しないでよー!俺こそ危険な状態だからね。親衛隊総括隊長でありながら敵チームが揃った、しかも武士道の頭が居る場所へ、こんな夜更けにノコノコやって来たなんてさ!本来有り得ない事だから。おお怖い怖い…前君、その後ろの金と銀が俺にガンつけて来るヨ〜」

 「仁、一成。めっ!」
 「「………だって、ソイツ嫌いなんだもん!」」
 ぷいぷいっと横を向いたふたりに、デコピンの構えを見せると、素早くソファーの影に潜んでしまった。
 まったくもう!
 「そんな子供っぽいこと言うんじゃありません!折角訪ねて来てくださった富田先輩に失礼でしょう?!」
 「「………」」

 「良いんだ、前君………彼等とは最初から相容れない立場だから…学園の裏を知る同じ立場として寂しい事だけどね…本当はもっと、協力し合えたら……仲良くなれたら…って…」
 「「嘘吐け!!化粧オバケめ!!オバケの世界へ帰りやがれ!!」」
 「こらっ!!そんなこと言うもんじゃありません!!富田先輩は必要に迫られ変装為さっておられるだけで、3大勢力の皆さんを守る為に毎日毎日一心に粉骨砕身為さっておられるのですよ?!あなたたちの大事なお仲間さんでもあるでしょうに、そんな悪口言うもんじゃありません!!どうして素直に仲良くできないの?!
 …もう、すみません富田先輩。この子たちには後でよく言って聞かせますから…俺が代わって謝罪致します。わざわざご足労いただいておりますのに、ほんとうに申し訳ありません。どうかご容赦願います」

 今にも涙を落としそうな富田先輩に、あわあわと頭を下げたら。
 ぷっと吹き出されて、盛大に笑われてしまった。
 この笑い方…このバカ笑いっぷり…
 間違いなく、某先輩に非常に似通ったものを感じますけれど!
 「ぶはっはっはっは!前君、マジでオカンだねー!武士道の金と銀を叱りつけるその度胸!あまつさえ『この子達』呼ばわり!!君達も前君の前では借りて来た子猫みたいじゃないか、カワイコぶっちゃって!笑わせてくれるね!ぶくくく…あー、おっかしい…あー、腹痛ぇ!!」

 お腹を抱えながらクッションをばすばす叩く、その盛大な笑いっぷりを、ぽかんと見守るしかできなかった。
 富田先輩も笑い上戸病をお持ちだったんですか?!
 それは柾先輩の元にお仕えしている故に、伝染してしまったとか…?
 何て恐ろしい!! 
 って身震いしている場合じゃない、仁と一成は…あらら?

 まだ笑いの止まらない富田先輩を、今度はとても冷静な瞳で注視している。
 ふたり揃って、どうしてまた急に?
 どんな悪ふざけも軽いツッコミも一切通用しない、硬い雰囲気に変わったふたりに、言い知れない緊張を覚えた。
 「あー…久し振りに笑わせて貰ったよー、やれやれっと…」
 それを気にすることなく、富田先輩はひとしきり笑った後、にこにこ顔のまま、ふうとため息を吐かれた。

 程よく冷めていたのだろう、お茶をごくごくっと飲んで、洗練された仕草でティーカップをソーサーへ戻して、またにっこり。
 …富田先輩、まだ制服のままなんだなぁって、俺は今更気づいた。
 「さて、と。改めて、こんばんは前君。こんな夜更けにいきなり訪問して悪いね。申し訳ない。だけど俺の用事はすぐ済むから」
 「は、はい…どうも、こんばんはです…お疲れさまです」
 「ふふ、ありがとう。あー後、そこの金と銀だけど」

 にこにこ笑顔を崩さないまま、富田先輩は俺の背後を親指で指し示した。
 「元々、我々と武士道…いや、武士道だけじゃない風紀もだけど、昔から因縁があってね。絶対に相容れない仲だし、お互いに歩み寄る気持ちがないから。仲良く出来ないし、したくもない。こっちこそてめぇら如きと馴れ合うなんざ願い下げだ。だから気にしないでね?」
 ぞくっと、寒気が走った。
 ぽかぽかだった、暖かさを感じていた室内が、冷え冷えと凍りついていく。

 富田先輩の瞳は、ここへ来てから実は1度も、笑っていない。

 やっと、気づいたから。


 「用件は唯1つ。大体分かるかなぁ…?前君は厄介なガキ共に慕われる、聡明なお母さんだものね…?
 それにしても今朝の親衛隊号外、アレは酷過ぎるよ。もう俺は君に対して何のフォローも出来ない。勿論、昴に全責任がある事は分かっているけどね。あいつがあんな隙を見せるのが100%悪いけど、あいつに隙を作らせる前君を、俺は看過出来ない。
 俺にとって今、唯一大事で守るべき存在は、柾昴、我が君だけだから。
 
 学園じゃない。
 学園も3大勢力も、この先の未来なんかも、全部どうでも良い。
 俺が今守るのは、柾昴、あの御方だけ。

 因って、彼の障害になる人物、物事は徹底的に排除させて貰う。例え昴が止めろと言ってもね、俺は俺の意思で勝手に動く。俺には昴にも妨げられない権限があるからね。
 君は彼の将来の邪魔になる可能性がある。まぁでも、体育祭中は仕様がないよね…昴と前君は同じチームだし、ペット扱いで落着してるから、急に距離感が出ると却って怪しいだろう。体育祭中はこれ以上騒ぎにならない様、俺も今まで通りフォローするよ。誤解はしないだろうけど、昴の為だけに、ね。

 その後は前君、もう昴に近寄らないでくれ。これはお願いでも何でもない、ただの現実だ。昴と前君はこの学園に不可思議な化学変化を起こすだろうけど、それが良かれ悪かれ、俺は認めない、許さない。前君なら現実を理解出来るよね…?」

 
 息が、うまくできなかった。



 2012-01-06 23:59筆


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