135.夜の訪問者
「食べちゃったねぇ…」
「「ねー…」」
満足、満腹、満足!
仁と一成に左右を挟まれた、いつものスタイルでのんびりしたまんま、至福のため息を吐いた。
日景館先輩にお茶をご馳走になったばかりか、余ったケーキはすべてお持ち帰り仕様にしてくださった。
お礼は後日、たこさんウィンナーの極秘差し入れでいいって言われたけれど…もう少しスペシャルなお礼を考えなくてはねぇ。
先輩と安全圏でお別れした後、ショッピングセンターでお買いものして、近くで練習していたらしい、仁と一成と一緒に一成邸まで帰って来た。
たくさんのケーキ、ぜーんぶ3人で平らげてしまった!
あったかいお茶はまだ1杯ずつ、ポットに残っている。
それぞれのカップに最後の一滴まで注ぎ入れて、ほんのり温かいカップを両手で包みこんだ。
やっと安心した、って感じだ。
ごはんも食べたし、お風呂にも入った。
いただきもののケーキで贅沢な夜お茶を堪能したし…
側には、仁と一成がいてくれる。
ぴったりくっついた腕からふたりの体温が伝わって、すごくほっとして…心強かった。
俺ってほんとうに弱っちいなぁ。
誰かがいてくれないと、ひとりで立つこともままならないなんて。
それは鈍い痛みで、でも、もう今日は何も考えないでいようと明日へ託すことにした。
我ながらこういうところ、嫌になる。
「ふふー、今日は仁と一成のほうがおネムさんだねー」
「「ふあ〜あ…眠いっす…もう無理っす…」」
両方からもたれられて、益々ぎゅうぎゅうになった。
そりゃあ眠いよねぇ…
ふたりは何も言わなかったけれど、朝から俺の号外のことで走り回らせてしまって、いっぱい迷惑も心配もかけてしまった。
ここへ来てから俺、ふたりに迷惑しかかけてない。
ただでさえ体育祭で皆さんが忙しい時期、ふたりはFチームの代表で大変なのに、俺のことでまで負担をかけてしまうなんて。
それなのに、こうして3人でいると、自分勝手に安心してしまう。
どうしたら、ふたりにお返しできるんだろう?
ふたりの役に立てるんだろう?
今までお世話になったこと、気遣ってもらってばっかりなこと、少しでもお返しするにはどうしたらいいんだ。
「はるとー眠ぃ〜もう無理〜!」
「はるる〜…マジ限界〜運んで〜」
「のわぁっ」
考えごとは長く続かず、左右から本格的にのしかかられ、ほとんど寝かけのふたりに驚いた。
「ええっ?!無理とか運んでとか言われても!それこそ無理…いや待てよ、チャレンジしてみる価値はありますね…俺とて未熟者ながら男子の一端に立たせていただいている身上、料理には力も必要、まだ意識のある仁と一成、おんぶなら可能かも知れぬ…わかった、ひとりずつおぶって行くから!さぁ、どうぞ!さぁ、どうしました?今更遠慮は無用、早く早く!」
男、前陽大、いざ参る!
日頃お世話になっているふたりを背負い、見事ベッドまで運んで見せましょうぞ!
「はは…おぶさりてーけど〜ちょっと目ぇ覚めた〜」
「はるる、かわい〜。う〜ん、あったか〜い」
「お!最初は一成さんからですね?!よしきた、どーんと任せとけ!行きますよー?ふぬぬぬぬぬ…ふんっ…ぬぬぬ…ふぬ〜っ!!」
「おいゴラ、一成。てめぇは1番起きてっだろうがよ。どさくさに紛れてはるとに甘えくさって寝惚けたフリすんな!退け!行こ〜はると」
「おおっ?!一成さん、急に軽くなって…?これなら行ける!仁は後でね…って、こら!!仁、一成を蹴るんじゃありません!」
軽いも当然、仁に因って一成がころりと転がされているじゃありませんか!
「痛いよ〜はるる〜…酷いよ〜仁が無理矢理引っ張って乱暴するよ〜…コワイよ〜」
「けっ!ミエミエの小芝居すんなっつーの!」
「あらあら、寝入りばなにこんな所業、そりゃあびっくりするよねぇ、痛いよねぇ…仁!!一成に先ず言う事は?!」
「………ごめんなさいでした…」
「まったく!寝る前まで喧嘩するんじゃありませんっ!」
「…っクっクっク…」
「一成、てめぇ!はると、後ろでコイツ、すげー悪どく笑ってやがる!」
「痛いよ〜はるる〜…仁がコワイよ〜」
「どこが悪どいんです、どこが?よしよし…さぁ、一成も男の子だから、いつまでもしょんぼりするんじゃありませんよー?仁もいつまでも突っ張るんじゃありません。ふたり共仲良しのほうが、俺は大好きですからね」
「「え、大好き…?はぁい!」」
寝る前までにぎやかで、わいわいして、じゃれ合って。
この空間が、雰囲気が、とても大事で、大好きで。
この時間をいつまでも味わっていたい。
だけど、どうすればいいんだろう。
学校を辞めたとしたら、もう武士道とこんなふうに仲良くできないだろうか。
絶えず浮かぶ心配は、左右からもたらされる温もりに、安心して薄らいでゆく。
「マジでもう寝ようぜ〜」
「寝よ寝よ〜」
「…うん」
手を繋いで寝室へ向かおうとした。
リビングの電気を消そうとした時、おもむろに、玄関のチャイムが鳴った。
2012-01-05 23:57筆[ 473/761 ][*prev] [next#]
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