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 また…?
 また、号外…?
 冷や水を浴びせられたように、ぞっとした。
 体育祭前の大事な時期に、俺は、またも学校内をお騒がせしてしまうのか。
 しかも今は、1年生さんだけじゃない、2・3年生さん混合のAチームとして活動している。
 俺の所為で、チーム全体に多大な迷惑をお掛けすることになるのか。

 いや、寧ろ俺はもう、体育祭に参加するどころではない…
 血の気が引くのがわかった。
 折角、つい先ほど、柾先輩にいろいろレクチャーして頂いたのに。
 チームの皆さんも、素敵でやさしい御方ばかりなのに。
 何もかもを、俺がまた、ぶち壊す…?

 学校中が楽しく盛り上がっているのに、すべてを台無しにしてしまうのか。
 
 「仁、一成…俺、どうしたら…」
 違う。
 2人に聞いてどうするんだ。
 自分で考えて、ちゃんと、しっかりしなくちゃいけないのに。
 動転してる場合じゃないのに。

 「はるる、とにかく落ち着いて。大丈夫、まだ号外は出てない。一般生徒は何も知らない。手の打ち様はあるからね」
 震える手を、一成がしっかり握って、俺の目を覗きこんでくれた。
 縋っている事態じゃないのに、心強い言葉に安心してしまいそうで、どこまでも甘えることに慣れ切ってる自分が、怖かった。

 「そうだぜ。今朝の極秘朝練がバレただけだから。帰って来た早々驚かせたな…大丈夫だから」

 仁がぽんぽんと肩を叩いてくれながら言ったことに、目を見張った。
 「え…?今朝のことが、もう…?」
 「そう。昴の事だから十分に警戒してただろーけどね〜…」
 「どっかで誰かに見られてたんだろーな。こんだけ広くて生徒も多けりゃ、なかなか把握し切れねー」
 「情報が漏れた可能性もあるしね〜」

 2人の会話を呆然としながら聞いた。
 たった今さっきのことが、どなたかさまに目撃され、号外になってしまうなんて。
 「…確かに他のチームさん御一行とすれ違ったけれど…そんな…。柾先輩には、ごく普通に接していたつもりなんだけれど…やっぱり、トップアイドルさまだから…」
 俺が軽卒だったのだろう。

 あまりのショックで。
 もう、言葉が出てこなかった。 
 虚ろな俺に、仁と一成は優しくて。
 「とにかく俺と一成は事態の究明と対策練ってみるから」
 「裏3大勢力の本領発揮!ってね〜」
 「今からちょっと出て来るな」

 「はるる、1人でお留守番になっちゃうけど…時間になったら、トン達迎えに来させるから」
 「昼まで大丈夫だ。いつも通り登校して、授業受けたら良いからな」
 「はるるは堂々として良いからね〜?はるるは何も悪くないんだから」
 ゆっくりと言い聞かせるように、落ち着いた声。
 けれど、それは、とても遠くから聞こえた。

 何かあったら、ちょっとでも異変があったらすぐ連絡するように。
 こっちも進展あったらすぐ連絡するから。
 たぶん、そんなようなことを最後に言い残して。
 俺はよくわかっていないのに、力強く頷いて見せ、笑っていた、と想う。
 大丈夫、留守番なら任せてって。

 武士道総出のケンカで「ホーム」を空ける時のように、いってらっしゃいって、明るい声で。
 そうして、2人共、慌ただしく出かけて行った。
 扉が閉まる最後まできっと、心配そうな眼差しで見てくれていたと想う。 
 でも、全部、遠くて。

 遠くの世界で起こったことのように、2人が今の今まで側にいてくれたことが信じられなかった。
 重々しい音を立てて閉まった扉。
 その音は、身体の隅々に浸透して、おおきく響き渡った。
 がくんっと、その場で膝をついた。

 玄関先で、それも他所の御宅なのだけれど、ちょっと耐えられそうになかった。
 全身の力が抜けた。
 つめたいフローリングの床が、これが現実なんだって教えてくれた。
 大丈夫、大丈夫…
 早鐘のように打つ心臓をなだめるように、胸に手を当てた。

 何の責任も取っていない、謝ってもいないのに、倒れたりなんかしない。
 仁も一成も、武士道や他の皆さん方にも、こんな忙しい時に迷惑をかけて、奔走してもらっているのだから。
 俺はまだ、なんにもしていない。
 事態もよくわかっていない。

 わかった時に動けるように、ほんのちょっと、今だけ。
 今だけ、こうして立ち止まらせて頂いて、心の準備をして、それから動こう。
 何ごとが起こっても、皆さまに甘えて寄りかかっていないで、ちゃんと、自分のことは自分で責任が取れるように。 


 
 2011-12-14 23:41筆


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