125.暗雲


 お弁当を食べて、先輩が持って来てくださったコーヒーを頂き、一息。
 まったりしてから、これぞまさに「男前同盟」の面目躍如というべきか、つまり、トップアイドルさまで男前で細マッチョな先輩直伝のストレッチを学ばさせて頂きました。
 ほうほう…朝は軽い運動が1番ですとな?

 ふむふむ〜しかし、先輩曰く「軽いストレッチ」、確かに難易度は低く、身体中をゆっくりゆっくり伸ばし、呼吸をしっかり、特に息を吐く動作を長めにするというものだったけれど、これがまた!
 なかなかどうしてまた!
 効きますなぁ〜…む〜、くあー、気持ちがよろしい上に目が覚めますなぁ。

 …これからもひそかに日課とさせて頂こう…
 ふふふ、俺に教えてしまったのが先輩の運の尽き!
 地道に鍛錬を積んで、いざ男前道、突き進んで見せましょうぞ。
 優月さんと満月さんにも教えて差しあげましょうねぇ。
 九さんもご興味がおありかも知れないねぇ。

 身体の隅々をほぐして伸ばしただけで、気分爽快、お目々ぱっちり、準備万端!
 さぁ、頑張るぞーと意気込んだ俺に、先輩は初日だからと、先ず競技の1から10までをレクチャーしてくださった。
 「手順は若干変わるかも知れねえけど。競技前、3種目前ぐらいかなー参加者集合して〜控え室で個別に着替えとメイクな」

 「ほへぇ?!」
 「ほへぇって…多分コスプレしてから入場になるだろ。場合に因っちゃ、『障害物2人3脚』だけに、競技途中でお着替えパターンも有り得るけど。その辺は俺が阻止するし」
 そうか、何を仰っておられるのかと想ったら、コスチュームプレイ競技だった…ガビーン!
 いきなりのっけからコスチュームプレイで登場なわけですね…たはー!

 「で〜多分、陽大達は本スタート地点で待機、俺らは別のスタート地点から走らされると想うんだよなー」
 なんだか俺の想像をことごとく凌駕した、厄介な種目のようですねぇ…
 あまりのやりきれなさに、これはちょっと…クラス優勝に貢献できないやも知れぬと、目がショボショボになった俺を、先輩は励ましてくださりながら、その後もレクチャーは続いた。

 あらましを聞いた後、2人3脚における「劇的な紐の結び方」とやらを伝授された。
 競技に効果的な紐の結び方をいろんなやり方で交互に実践し、果たして上手く走る為にはどうすれば良いかと相談し合い、紐を結ばない状態でのイメージトレーニング走をやってみて終わった。
 次は如何に素早く紐を結ぶか検討し、実際に結んだ状態で走ろうということで解散。

 ふう…気が重いですねぇ…
 普通に走りたいですねぇ…
 2人3脚で障害物、これだけならまだしも、これにコスチュームプレイと小芝居が加わったら、走れるものも走れない予感でいっぱいですねぇ。
 再びショボショボする俺を、健気に労る孫の如き励ましをくださる先輩にちょっとムッとしつつ、帰り道はミッショ●インポッシブルごっこをしながら帰った。

 意外とノリノリな先輩が面白かったです。
 特別寮に着いてからも、こそこそとスパイごっこは続いた。
 壁や廊下の物陰に潜みながら、やっとの想いでエレベーターへ乗りこみ、何事もなく最上階に着いてミッション終了!
 明るくなってきた校内を、先輩と歩くのは、ほんとうにスリリングでドキドキするねぇ。

 「じゃ、またな、陽大」
 「はい。本日はお忙しい中、わざわざご足労頂き誠にありがとうございました」
 「ふはっ…お前は…何のアナウンスだよ、笑かすな」
 「ふん、笑っていらっしゃるのは柾先輩のご勝手でしょう。では、おやすみなさいませ」
 「はいはい。あ、朝メシ、マジでありがとうな。超美味かった」

 「………どういたしまして?こちらこそ、コーヒーをどうもありがとうございました。…おいしかった、です?」
 「ははっ、どういたしまして!お気に召して頂けたなら何よりでございます。じゃあな、また連絡する」
 最後まで笑いながら頭を撫でられ、エレベーターホールで別れた。
 ふう…疲れたねぇ。

 お相手がトップアイドルさまだと、気が張り詰めちゃって…いや、最後のスパイごっこが響いているのかねぇ。
 やれやれと、肩をとんとん叩きながら、一成邸をノックした。
 2人共もしかしたら寝ているかも知れないなぁと、心配したけれど、すぐに扉が開いて手を引かれ、暖かい部屋の中へ招き入れられた。

 「ただいまー、仁、一成。ええと、おはよう!もう起きてたんだねぇ…?と言うか2人共、すっかり起きてるお顔だねぇ」
 感心感心と、何も知らない俺は、この時まで笑みが絶えなくて。
 柾先輩がごっこ遊びに付き合ってくださったというか、ノリノリだったんだよって、面白おかしく報告しようとか、そんなことで頭がいっぱいで。

 完全に、のほほんとしていて。

 「おはよ、はると」
 「おはよ〜、はるる」
 「うん…?どうしたの、2人共…」
 平和惚けした話題を出せそうにない空気だって、それだけはわかったのだけれど。
 2人はもうちゃんと制服を着ていつも通り、それぞれの個性に則って身だしなみを整え終わり、後はブレザーを羽織ればいいだけっていう状態だった。 

 そして、とても真摯な眼差しをしていた。
 この表情には覚えがある。
 武士道で、仲間のピンチを受けて、トップに立つ2人が最前を走る時の顔、だ。

 「俺らにも未だよくわかんねーんだけど」
 「とにかく、はるる…落ち着いて居てね」
 「俺らがはるとの味方だっつー事は、ぜってー変わんねーから」
 「俺と仁だけじゃないよ。トンチンカンよしこも、武士道全員がはるるの味方だから」
 落ち着いた低い声音で、淡々と語られる言葉に、俺は目を見張っていることしかできなかった。 


 「またゴシップを掴まれたみたいだ。けど新聞報道部じゃない…今度は親衛隊からバラ撒かれる」


  
 2011-12-13 22:33筆


[ 463/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -