116.天使バルサンが奏でる狂想曲(10)


 オレの部屋は角にあって、それでキレーな庭が見える。
 夜はささやかだけどライトアップされる、イングリッシュガーデン。
 リビングの窓辺に椅子引きずって、そこで膝抱えてぼーっとすんのが、結構好きだ。
 ぼーっとするより動いてるのが好きだけど、たまにぼけーっとすんのも悪くない。
 はるとみたいに、四六時中へらへらポヤポヤしてんのは良くない、と思うけど。

 『穂の魅力の1つは、その元気の良さだよ』
 『あぁ、今日も穂は元気だね…穂が笑ってると、周りまで明るくなる…』
 『穂にはいつも元気で居て欲しいな…』

 うん、そうだね。
 そうだよ。
 オレはいつも元気だよ。
 今日も、元気だ。
 けど。
 ガッコ終わって、戻って来てからずっと、何でか動けなくってさ。
 動きたくなくってさ。

 ずーっと、窓の外が日暮れから夜になるまで、此所でぼーっとしてる。
 何か、ホントにただ、ぼーっとしてる。
 動きたくないし、うまく考える事も出来ない。
 オレ、どうしちゃったんだろう?
 どうなるんだろう。

 すっげー大変な目に遭わされて、いろんなヤツがうるさくて、皆ズルくて自分の事ばっかで、人を傷つけて平気なガキばっかで。
 マジで嫌になる。
 このガッコ、白馬よりもずっと変だ。
 ガッコに居る連中も、皆、皆、おかしい。
 どうして皆、優しくないんだろう?
 って、ずっとグルグルしてる。

 頭ん中がワケわかんなくて、わかってるオレがちゃんとこのガッコを変えてやんなきゃいけないのに、上手くいかなくて、悔しくて、むしゃくしゃして、でも。
 消えない。
 強い、ギラギラ光ってた、怖い瞳。
 まっすぐで、何も知らないクセに、知らない筈なのに全部知ってるみたいに、鋭い。
 それこそ、誰よりも冷たくて誰よりも優しくない、自分勝手な瞳だった。
 すげー怖かった。

 いろんなヤツに会ったけど。
 あんな瞳、見た事ない。
 さっさと忘れたいのに、消えない。
 オレの事をあんな風に見るヤツなんか、どうなっても知らない。
 そんなにこのガッコの事、自分の思い通りにしないと気が済まないなら、好きにしたらいーじゃん。
 勝手に1人で頑張れよ。

 後でやっぱ助けてくれとか自分が間違ってたとか言ったって、オレは知らないからな!
 オレは助けてなんかやんない!
 あんな、ヒドい事ばっか言うヤツ………
 そう、オレは怒ってるんだから。
 好き勝手一方的に言われて、むちゃくちゃ傷つけられて、オレが泣いてんのに謝りにさえ来ない。
 ムカつく要素は数え切れないぐらいで。

 許せない。
 許さないんだから。
 もう絶対、向こうから折れてこない限り、口も利いてやんねー!!
 だから。
 他の事を考えたいのに。
 こんなガッコ、さっさと見捨てて出て行きたいのに。

 「………穂、メシは?食わねーのか」
 ふっと椅子に重みがかかって、膝の上に伏せてた顔を上げたら、何かすっげー疲れたカンジっつか眠そうっつか、ちょっと弱々しいミキがいた。
 そういや同じ部屋だし、一緒に帰って来たのに、ミキの存在忘れてた。
 それぐらいオレは、ぼーっとしてたのか。
 ミキもミキで、気配消してぼーっとしてたのかも知れない。
 「そっかー…もう夜だもんな。うー…今日は何か…要らねー何かダルいし」
 「そっか…」

 やっぱりミキも、何かぼーっとしてる。
 ぼーっとしてるけど、ミキはオレに優しーよな。
 ひさしもそーすけも双子も、皆オレがかわいそうだって、オレは何も悪くないって、ちゃんと追いかけて来て慰めてくれた。
 流石、ヤツらは親友だけある。
 オレが泣き止むまで、ちゃんと側に居てくれた。
 ダイスケだって、ちょっと遅れたけど迎えに来てくれたし。
 それなのに。
 オレは、今一緒に居るミキや、友達思いのヤツらの事じゃなくって。


 ずっと、アイツの事ばっか、考えてる…?


 「――…〜あ―――〜っ!!もうっ、止め止め!!辛気クサいのオレ無理っ!!!!!なぁ、ミキっ!!これから遊びに行かね?!オレの仲間を紹介してやるよっ!!な!!ぱーっと遊んで、ヤな事忘れちゃおうぜ!!それが良いっ!!そうしようっ!!」
 こんなぼーっとしてるオレなんか、オレらしくないっ!!
 わーっと伸びをして、ケータイを取り出した。
 皆、居るかな?!
 金曜だし、居るよなっ!!
 いつだってオレからの連絡に出ないワケないしっ!! 

 ちゃっちゃと阿修羅の総長に電話したら、びっくりした。
 『…お掛けになった番号は、電源が切れているか電波が悪い為、お繋ぎできません…』
 「アレ〜?!何か繋がんない…」
 何でだ?!
 山だからかっ?!
 それともアイツ、ケンカ中か充電切れか?!
 「何だよ〜!!使えねー!!」
 こんな時に!!

 「ま、いっか!!ミキ、とにかく今日は遊びに行こうっ!!こんな所に居たら気が変になるっ!!外で何か美味いもん食おうぜー!!」
 黙って頷いてくれたミキと、着替えてから山を抜け出した。
 降りたらどっかで誰かに会えるかも知れないしな!!
 山道を歩きながら、けど、オレは自分でも意識しない内に、何度も後ろを振り返ってはため息を吐いていた、みたいだった。



 2011-12-02 23:42筆


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