114.化粧オバケの本音 by 心太(4)


 本当は、もっとグチる所だ。
 あの宇宙人が来てからろくな事がない。
 こんな短期間で校内新聞が発行されたのは、初めての事ではないだろうか。 
 生徒同士のトラブルを抑える為に、穏やかな学園生活を全うさせる為に…そんな意味も含めて存在している「3大勢力」。
 寮生活において、何かと絶えない大なり小なりのトラブルを鎮圧すべく、より大きな話題を演出して意識を分散させる、これも確かに有効な手段だろう。

 しかし、昴のやり方には今ひとつ納得行かない。
 どうしてあの総大将様は裏から手を回す等、大将らしい策略で行動出来ないのかな?
 何故、大将が前線へ躍り出て、手ずから敵の首を討ち取りに行くのか。 
 我々はただ、その背中を追う事しか出来ないのだろうか。
 これは、どういう事か…
 未だ誰も口にしていない疑念を、俺はその内いつか…近い内にでも吐露してしまいそうで怖い。

 長年の疑念を、抑えられる自信がない。
 3大勢力だけじゃない、生徒会の奴等は勿論、昴に近しい誰もが気付いていながら、堅く口を閉ざしている事。


 昴は、誰の事も信頼していないのではないか。


 自ら動くのが好きな質ではあるのだろう。
 城の天辺でふんぞり返っているだけじゃ満足出来ない、身体を動かして現場の声を聞きたいタイプだ。
 加えて、奴のあらゆる能力は誰より秀で過ぎている。
 男なら己の力を試したいと想うのは当然だ。

 昴は、よく動く。
 それにしてもよく自ら動き、自ら事態を治めに回る。
 無理を押してでも、出て来る。
 俺達が限界でも、奴だけは何時でも気力充実、フットワークが軽く、微塵の疲れも見せないばかりか、悪口雑言の1つも吐かない。
  
 つまりそれは、俺達の事すら信用していないから。
 自らの力だけを頼みに、独りで生きているからではないのか。
 その疑念は、俺達を浸食して行く。
 昴の信用に足らない、不甲斐ない俺達。
 昴にまるで追いつけない、能力の低い俺達。

 奴がそうと想って俺達を使わないのならば、それはきっと正しい現実で、試した所で結果は残せないのだろう。
 俺達は、どんなに学園の裏の顔を知っていても、生徒達の上に立っていても、何の価値もない人間なのだ。
 共に同じ空間に居ても、笑っていても、何たる虚しさだ。

 だから俺は、すぐ側でちゃちな企みに花を咲かせている、生徒会の1年生組なんて嫌いだが、共感を覚える。
 奴らの気持ちがわかる。
 いつも昴が動いてくれて、何でも教えてくれる、何でもやってくれる。
 それは心地良い安心感だが、時に、己がどれだけ使えない役立たずの人間かと、我に返る。

 奴にそんな悪どさがないのはわかっていても、こいつらは本当にどうしようもないと、呆れられている様に感じるのだ。
 幼等部の頃から、ずっとそうなのだから。
 1年生組がグレるのも道理だと。
 奴らにとっては知恵を振り絞った、昴にとっては下らないゲームを仕掛けるのも無理はないと同情する。

 俺は多分、疲れているのだ。

 余計な思考に気を取られるのは、疲労と、少しの飽和だろうか。
 莉人に淡々と現状を報告しながら、昴の1番近くに居るお前だって、同じ事を感じているのだろうと想った。
 愚痴を吐く余裕等、なかった。

 隣の、一平先輩の存在も関係している。
 柾に連なる家系の出自、昴の側近として学園を暗躍する一平先輩の視線が、とても険しいから。
 食事の邪魔をされた事も腹立たしいのだろうが、一平先輩の最優先事項は常に昴だ。
 昴の不利益になる事は、直ちに排除する。
 例え本人が見逃していても、温情を向けていても、一平先輩は容赦しない。 

 その一平先輩が、1年生組を「注意深く観察」している。
 同じ家系だけに、一見疲れ知らずに見える超人めいた先輩だけど、昴より分かり易い。
 春先から続く騒動に、一平先輩は疲れ、苛立っている。
 業を煮やしているのだろう。
 子供らしい感情のまま、好き勝手振る舞う1年生組と宇宙人に対して、憎悪さえ抱いているかも知れない…

 1度ターゲットを決めたら、昴の制止も聞かない。
 最終的に家系の中で何らかの措置はあるのかも知れないが、お家事情は窺い知れない。
 一平先輩を止める事は、誰にも出来ない。


 「――とにかく、重要なのは3つ。

 昴が前君を迎えに1Aに行って、何らかの俺様節を炸裂させたお陰で、昴の親衛隊信者が激増している。乗り換えた隊員もかなり多い。 

 御宅の反抗期1年生組は、体育祭で何らかのトラブルを計画している。生徒会の仕事は当面放棄するだろう。宇宙人と前君を巻き込む可能性が高い。

 後、我々のランチタイムが邪魔された。
 以上だ」


 俺には学園を鎮める事は愚か、一平先輩を止める事も出来ないけど。
 気を逸らし、時間を稼ぐ事は出来る。
 莉人の耳に入れ、昴へと注意を促す事は出来る、それは直に3大勢力へ広まるだろう。
 ………そうだ、結局、俺達は昴を頼る事しか出来ないんだ。

 『わかった、何らかの手は打とう。貴重な昼休みをクソガキ共が邪魔して悪かったな』
 「全くだ。じゃあな」
 『…待て、心太』
 「何だよ」
 何だよ、こっちはこっちでマジ大変なんだっつの。
 通話を終わらせようとしたら呼び止められ、益々神経がささくれた、けど。

 『お前、何か疲れてないか』
 
 聞こえて来た、存外穏やかな気配の声に、不意を突かれた。
 何も言えなかった。
 『まぁ無理もないか…一平先輩にも心太にも、相当負担を掛けているしな。どうせ5限は出ないんだろう。なら、カフェテラスに話を通しておくから、そこでお茶でも飲んで来い。一平先輩の好きなスイーツを一通り用意させておこう。ついでに心太の好きなキャラメルポワールもな。俺の奢りだ。じゃあな』

 何だよ。
 何でだよ。
 莉人のクセに。
 何で。
 一言も発せない俺を放って、電話は一方的に切られた。

 いつしか消え去っていた1年生組を、目で追っていた様子の一平先輩が、会話が途絶えた事に気付いたのか、俺を振り返った。
 「おや、心太。泣きそうな可愛い顔してる。どうしたね、莉人に苛められたかい?」 
 もう、どいつもこいつも、俺の周りの人間はどS鬼畜野郎ばっかりなのはどうしてだ。



 2011-11-29 22:38筆


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