113.白薔薇さまのため息(4)


 芳しい白薔薇と紅薔薇が咲き誇る、庭園のテラス。
 初夏の気配漂う陽射しを浴びながら、直に夏が訪れる、そろそろ此所へ来るのは秋口までお預けかなと。
 優雅なランチタイムを楽しんでいた折り、嵐がやって来た。
 創作フレンチプレートは3分の1を残したまま、我々のテリトリー内でありながら、連中に見つからぬ様に息を押し殺し、茂みに身を潜めるように椅子の上で膝を抱え、経過観察する羽目に陥った。

 ああ、哀れな料理よ…
 美味しく味わってやれる余力は十分だというのに、目の前で冷える様を虚しく見守らねばならないなんて…!
 チェリーパイも楽しみにしていたのに…!!
 許すまじ、クソガキ共…!!!

 この白薔薇様の唯一無二の楽しみである食事を邪魔するとは、孫子の代まで呪っても呪い足りん…!!

 体育祭前ともなると、とっくの昔から飽食化している大半の生徒共は、食堂や購買でいつよりスピーディーに腹を満たし、残りの昼休みは作戦会議や練習等に没頭する。
 常の昼休みなら部活動に追われたり、マジメ君は勉強したり、親衛隊活動という名のストーキング行為に精を出したり、仲の良い友人同士キャッキャしたり、盛りのついた恋人達はデートしたりセックスしたりと、誰もが大忙しな訳だが、体育祭前と学園祭前は様相がまるで変わる。

 まるで猿山の様な学園が、この時期ばかりは不気味に落ち着き、各チーム単位で行動するからだ。
 だからこそ未だ本番に遠い今の間にと、心置きなく心太と外ランチが可能なのだが。
 それを妨害されるとは、夢にも想わなかった。
 俺の怒りは止まらない。

 因りにも因って、何なんだこのメンツは!!
 天谷悠に無門宗佑、七々原ツインズに、宇宙人とその従者とは…!!
 お前らはお前らで楽しく弁当シフトを満喫してる筈だろうが?!
 ああ、畜生…!!
 この状況はつまり、保護者(昴)が何らかの問題発言だか行動をかましやがったっつー事だろう、容易に推測出来るさ…

 生徒会1年生組は何やら陰気モード、宇宙人は泣き喚いている、その従者は眉間に深い皺を刻みつつ呆然としている。
 おいコラ、保護者(昴)!!
 クソガキ共に何しやがった!!
 大体てめぇが親衛隊も宇宙人も黙らせるっつって、結局どっちもこっちも大騒ぎになってんじゃねぇか!!

 ついに昼休みは終わり、5限が始まった。
 宇宙人とその従者は、後から追いかけて来たらしい音成大介…コイツも苦労が絶えない様だが同情には値しない…何せ背景が黒くて可愛くないからな!…に引っ張られ、姿を消したが、クソガキ共はまだ残っている。
 彼奴等の不穏で幼稚な会話を横目に、哀れな料理たちの為にと、ついに俺は携帯に手を伸ばした。

 心太は大丈夫だろうかと、俺とクソガキ共へと視線を往復させている。
 案ずるな、あれだけてめぇらの世界に入り込んでる連中だ。
 我々のテリトリー内で在る事も失念しているバカ共だ、こちらに気付く等有り得ん。
 ウィンクを返しながら、待つ事、3コール。
 しかし、繋がった瞬間に耳に飛び込んで来た声は、我が主人ではなかった。

 『もしもし、一平先輩か…?』
 「莉人…てめぇが昴の携帯に出るっつー事は…」
 心太がぎょっとしてこちらを振り返る。
 だから、案ずるなっつーの…マジで心太は可愛いからなぁ、もうっ。
 大丈夫だ、すぐに替わってやるからな! 

 
 『あぁ…1歩遅かったな。たった今、落ちた所だ』


 っち、やっぱりそうか。
 「わかった。仮眠室か?」
 『無論、自力でな。俺は扉を守るだけの番人だ』
 「いや、お前が付いていてくれるなら安心だ。済まない、宜敷く頼む。心太に替わる」
 「え…一平先輩、あの…」
 「心太、なるべく静かに。昴は寝落ちたそうだ、ならば俺に話はない。莉人に苦情を申し立てるなら心太が適任だろう?頼んだよ」

 『………そちらはそちらで色々あった様で…』
 「現在進行形でな。ほら、心太」
 「え、う、あ…も、もしもし…」
 『心太、どうした。まさかガキ共が其処に居るのか』 
 莉人と心太の会話に耳を澄ませつつ、クソガキ共に意識を向けるのも忘れない。
 本当に厄介なクソガキ共だよ、君達は。

 どうしてくれようか?

 俺の主を困らせ、それでも最大限の親愛を見せる主に甘えるだけ甘え、返すのは主の手を益々焼かせるばかりの厄介事だけ!
 あぁ恐ろしく下らないクソガキさん共よ。
 どうしてくれようか。
 俺の忍耐もそろそろ限界なんだよねー。
 昴に何と言われようが、関係ない。

 目の前で主を傷付けられながら黙って見逃す、そんな教育は受けていない。
 我が富田家の執念とも言うべき信念は、唯1つ。

 主と決め、仕えた主をお護りする。

 例え、時に主に背く事になったとて、己の信念は曲げない。
 
 さぁ、どうして欲しい、クソガキさん共よ。



 2011-11-26 23:33筆


[ 451/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -