112


 「ねっむーって…!それはご苦労お察し致しますけれどもっ…俺とて、俺とて、多少は先輩方のご苦労の程をお伺いしておりますけれどもっ…でも、でもっ、酷いじゃないですか!俺はそのようなお話…一っ言も聞いておりません!

 そりゃあもう、見るからに柾先輩は男前さんの中の男前さん、美形さんがあふれる美形過密地区指定区域の十八学園において、トップアイドルさまとして華々しいご活躍を為さっている御方!例え世界は広しと言えども、下山しても誰しもが頭を垂れるしかないであろう、どちらに赴かれたってトップアイドルさま間違いなしの尊い男前さんですけれどもっ!

 重々承知しておりますとも、俺とて同じ男子に生まれておきながらこの歴然としたあまりの差に口惜しいという気持ちこそありますがっ、先輩の絶大なる魅力は大いに認めると共に、我が身の不甲斐なさを日々反省し、精進中の真っ直中でございますよっ!
 それを…それを…そんな地道に努力を続ける1人のいたいけな生徒を捕まえて、あまつさえトップアイドルさまと同じ土俵に上がらせ、白日の下へ晒すだなどと何て恐ろしい…!

 あなたさまは大層お得意なことかも知れませんけどねぇ、俺は、俺はっ!!今まで学校演劇と言えば専ら裏方専門、それも何故か『差し入れ係』という、ほんとうに裏方中の裏方だったんですからね?!寧ろその普通有り得ない任務に長年就けたことを誇りに想っていますがそれが何か!
 俺自身は無論のこと、周りだって俺が表舞台で輝ける人間ではない事を承知していたからこその適材適所!走ることは得意ですけれども、コスプレだけならまだしも…お芝居なんて到底無理です…!
 慎んで辞退させて頂きます!」


 肩で息をしながら必死で言い切った俺に、欠伸していた呑気さはどこへやら、柾先輩は困ったような顔で俺の頭を撫でた。
 「まぁまぁ…落ち着いて。何だよ、泣くなよ」
 「泣いてなどいません!目の充血はパソコンの触りすぎなんです!」
 「今まで触ってなかったじゃん…よしよし、大丈夫大丈夫」

 ふわふわ、昨日は揺さぶられた頭を撫でられて。
 ぽんぽん、あやすように背中と肩に触れられて。
 やさしい瞳に心配そうに覗きこまれて(っく…身長差が憎たらしい…けれども身長差を意識したお陰で俺は冷静さを取り戻しましたよ!)。
 止めの、一言。


 「陽大と一緒に走んの、楽しみにしてたのに…辞めるとか言われたら、寂しいじゃん」


 この身長差がなければ、ころっと素直にごめんなさいと言うところでした。
 それにしてもしかし、こんな風に言われたら誰だって…「あぁ、前陽大。更に念を押しておくが、昴が最も得意とするのは『子犬の演技』だ。先程、音成も去り際に言ってただろう。コイツの自由奔放っぷりよりも、先生方も生徒もこの『子犬の演技』に最も惑わされ振り回されている。気を付けるんだな」…よっくわかりました、貴重な助言をありがとうございます日景館先輩!

 「莉人!邪魔すんなよ」
 「誰が邪魔など下らん…ふっ、俺のミニどら焼きの無念を晴らした迄だ」
 「こっわ!てめえはてめえで散々食っといて!」
 「やかましい。そもそも俺という敵チームを前にして、よくも堂々と練習の話が出来たものだな?」
 「敵と見なしていないもんでな…?」
 「何を小賢しい…!精々、当日になって悔いるが良い」
 「俺の台詞だっつの」
 俺はもうなんだか、どっと疲れましたよ…

 「とにかく柾先輩、俺にはコスプレもお芝居も無理ですので…チームメイトの皆さんの迷惑になるばかりか、視界の暴力と化する恐れがありますので…どうかもっと適役で素晴らしい相方さまをお探しくださいませ」
 「陽大、そう自虐的になんなって。今更決定した事は覆せねえ。出場競技辞退については、急病や家庭の1大事でもない限り認められねえ。つかお前さぁ、1度やるって決めといて簡単に辞めるとか…それって男らしくないんじゃね」

 う…!

 「コスプレ内容は当日までわかんねえ。ガチ重要なのは走れるかって事。特に2人3脚ともなれば、双方の息の合い方で勝負が左右される。他チームはマジでAチーム潰しに燃えてっからなぁ…?どこも個人練習、半端ねえと想うけど…?
 どうする?やんのかやんねえのか。やるにしても、しっかり練習積んで挑むか、それとも当日散々な醜態晒してそれこそチームの迷惑になるのか…俺ぁどっちでも良いぜ、他の競技で挽回するし?
 陽大次第だぜ」

 ううう…!!
 こんな風に言われたら、他の人はどうか知らないけれど、俺はとっても弱いのです。
 「………練習、よろしくお願いします………」
 だから、頭を下げるしかありませんでした。
 「んー、流石、陽大君。こちらこそよろしく!あ、そうだ。ついでに、晩メシとか朝メシの残りとかあったら持って来いよ」

 「ほ?一体それはどういう…」
 「で、俺はコーヒー持ってくから。陽大、甘めのアレンジコーヒーが良いよな?」
 「喜んで!!俺はラテベースの甘いものでしたら何でも好物です!じゃあ俺は、おいしい朝ごはんを用意いたします!」
 「よし、じゃ決まりな。日数はそんなに取れねえし、不定期になるだろうし…何にせよまたメールする」
 「オッケーでございます、オッケーですとも!よぅし、コーヒーの為に頑張るぞー!オー!」
 「オー!」

 未来の憂い(=コスプレ)は考えない!
 とにかく、早朝練習、頑張る(=おいしいコーヒーの為に)ぞー!!
 「――盛り上がってる所、申し訳ないが。前陽大、5限が始まって大分経つ。今から入室は出来ないだろう。5限終了前に此所を出ると良い。担当教師には昴から連絡を入れさせておく」 
 ………ふふふ、やっぱり俺、頑張れないかも知れません…。



 2011-11-24 23:42筆


[ 450/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -