110.もっと甘えていいよ


 柾先輩と俺のやりとりを、静かに見守っていてくださった日景館先輩が、恐らくわざとおおきなため息を吐かれた。

 「これから先が想いやられるが…前陽大、昴の話は適当に聞き流すのが1番だ。あまり真剣に捉えるとこっちの身が保たん。何せこの『俺様』暴君は自由奔放の気分屋でいらっしゃるからな!長年近くで振り回されて来た経験から注意しておく。破天荒な発言者で在らせられる本人曰く何でも程々が良いんだと。そうだろう、昴…っててめぇ、それは俺のミニどら焼きだろうが…!」
 「もう食っちゃった!だって莉人が要らないっぽく喋ってるから」

 「てめぇのフォローを買って出てやってただけだろうが…!返せ…!!」
 「もう無いもん。これは俺のだもん」
 「そのてめぇの分を寄越しやがれ!」
 「無理ー!いただきまーす」
 「昴、てめぇ…今度という今度は流石の俺も許さん!!」
  
 まあまあ、仲良しの兄弟猫みたいだこと!
 シリアスな空気が2転3転する、先輩たちはほんとうにまぁ…なんというか、面白い…?方々だ。
 いつもは分別を弁えた良いお兄さん然として、1年生組さんたちに接していらっしゃるのにねぇ。
 トップアイドルさんとして前に立つ時は、こんな無邪気な一面を微塵も感じさせず、しゅっとしていらっしゃるし。

 皆さんが見たらびっくり仰天だろうなぁ。
 仁と一成、日和佐先輩や凌先輩、6人で集まる時もこんな雰囲気だったっけ…
 なんだか微笑ましい。
 仲良しさんって、見ているだけであったかい気持ちになれる。
 特に男の友情はね!
 強い、一生ものの結びつきですからね!

 複雑な事情を抱えていらっしゃるだけに、その絆は生半可じゃないだろう。
 表面上はクールなことを仰っていても、俺などには知り得ない、熱い絆なんだろう。
 もちろん、女の子さん同士の友情もとっても素敵だけれど、何故だか、男とはまた違うんだよねぇ。
 男は泥臭いというか、その土っぽさにぐっとくるんだ。
 いいねぇ!
 男の友情、万歳!!

 想わず声に出して笑ってしまいながら、先輩たちに取り分けた以外のミニどら焼きを差し出した。
 「ふふっ、そんなにじゃれないでください!はい、まだたくさんありますからケンカせずに召し上がれ。柾先輩は多く食べちゃってる分、日景館先輩にちゃんと譲ってさしあげてくださいね」
 「「おお…!」」

 目を輝かせる兄弟猫…いえ、先輩たちを見守りながら、先輩たちだってちいさな子供みたいだなぁ、1年生組さんと大差ないなぁって。
 それで気づいた。
 そうだ、たった1才差だ。
 学生の1年差は、おおきいと言えばおおきいけれど。
 先輩たちだって、まだ、俺と同じ子供なんだ。

 いつも気を張っておられて、すっかり大人びていらっしゃるけれど、ほんとうは大差なんかない子供なんだ。
 そう想いながら、もしかしてって。
 俺が落ちこんだりしていたものだから、わざと明るく振る舞ってくださっている…?
 そうじゃなくても、やっぱり、先輩たちは優しいなぁって想った。
 
 「「ご馳走様でした」」
 「どういたしまして!です。こちらこそ、完食してくださってありがとうございます!このミニどら焼きの残りは、1年生組さんたちに…よろしくお願いいたします」
 「「お気遣い有り難う御座います」」
 ぺこりぺこりと丁重にお辞儀し合って、テーブルの上を手早く片付けた。
 帰りは猛ダッシュしないとー!!
 5限に間に合わないぞー!!

 ちゃっちゃっと使った食器を洗う隣で、柾先輩が手伝ってくださった。
 それはいいのだけれどこの御方、片付けまで妙に手慣れていらっしゃるのは何故…
 板に付いてるというか何というか、コーヒーを入れるにしてもそうだったけれど、ひとつひとつに無駄な動きがなく、びしっと様になっている。
 この御方の場合、すべての行動がそうだと言えるけれども、うーむ…謎ですねぇ。

 「あ、そーだ。陽大」
 「はっひょい!うわっ…ととと!!危なっ…!!いきなり声掛けないでくださいよー!グラス割っちゃうところだったじゃないですかー!!」
 「ぶはっ!『はっひょい!』って…!『はっひょい!』って何ひょい?お前こそ笑かすなっつーの!」

 「び、びっくりさせる方が悪いんですよ!!いきなり話かけられたら、誰だって奇声を発します!まったく…このような立派で素敵なグラス、俺が一生働いたって弁償できないぐらい価値ある物に違いないのに…何て恐ろしい…いたいけな後輩を陥れようったってそうはいかないんだ…」
 「こっわ、何かブツブツ言ってる!んな大ゲサなー。確かにアンティークのヴェネツィアングラスだけどー、ざっと見て10万位じゃね」

 「じゅ…!!じゅう…!!そんな恐ろし素敵なキラキラグラス、俺に洗わせないでくださいよー!」
 「恐ろし素敵なキラキラグラス…!お前こそ笑かすなっつってんだろ!俺が拭いてる皿のがそれの倍ぐれぇ恐ろしく価値あるもんだっつの」
 「んなっ!!そんな恐ろし素敵食器たちでお弁当シフト実行しないでくださいよー!」 
 いきなり緊張するじゃないですか!

 ここにある食器たちはもちろん、設備の素晴らしさをわかっていないわけじゃない。
 あまり気にし過ぎたら、却って何か破損してしまいそうだから、敢えて普通に振る舞っているのに!
 「何だよ、どんだけ価値あっても飾るだけじゃ意味無えじゃん。物の価値は使ってこそだろ。最後は何だって壊れんだ、役割があるのに眺め暮らしてるだけなんて、それこそ勿体ないっつー話。物だって使われてこそ本望なんじゃねえか」

 うう…どうして柾先輩のお言葉には、なんだか…いちいち納得してしまう深みがあるんですかねぇ?
 この御方はほんとうに、何者さまでいらっしゃるのだろうか。



 2011-11-23 23:23筆


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