31


 美山さんはほんとうにキッチンをお使いにならないのだろうか。
 突撃したキッチンは、人の気配が一切感じられない、チリひとつ落ちていない状態だった。
 美山さんがいつからこの部屋にいらっしゃるのかわからないけれど、足を踏み入れた形跡もないようだ。
 ピッカピカのシンクと電磁調理器が備わった、十分に調理できるスペースが設けられたカウンターには、ビタミングリーンが鮮やかな扉付きキャビネットが上下に備わっていて、収納力にかなり期待できそう!

 立派なメーカーものの三段扉の冷蔵庫、電子レンジ&オーブンまでもがあり、白い食器棚もしっかりしたものだった。 
 こんな立派なキッチンさま…
 ほんとうに俺が自由に使っていいものだろうか…
 幸福のあまり、しばらく遠い目になってしまった。
 いかん、いかん!
 とりあえず、今日明日分が賄える、食材と食器と調理道具を臨時収納して、っと!

 いくら料理しないと言っても、美山さんだって多少はキッチンに出入りされるだろう。
 冷蔵庫も使うだろうし、食器類も少しは持っていらっしゃるだろう。
 おいおい相談しながら使わせてもらおう。
 それでもってやっぱり、俺の特に大事な宝物たちは、自分の部屋に置くことにしよう。
 共同生活なんだから、生活の要であるキッチンを、俺だけが占拠して俺色に染めてしまうのはよろしくない。 
 さてっと!

 臨時収納と、今後の考えがまとまった所で、今日の晩餐と言っては大げさだけど。
 初料理、やっちゃいますか!
 う〜…身体の奥底から込み上げてくる、わくわくする〜!!
 ちょっと、こんな浮ついた気持ちのまま調理に取りかかったら、ケガするかも。
 何度かスーハー、大きく深呼吸して。
 落ち着いてから、ピッカピカのシンクでていねいに手を洗った。

 冷たい水だった。
 だから、より冷静になれた。
 先ずはお米! 
 白米を手早く研いで、発芽玄米をブレンドし、家から先に送っていた炊飯器(既に実家で何度かお試し済み!)にセット。
 吸水している内に、二口の電磁調理器に鍋を2つ用意して、どちらにもたっぷりの湯を沸かす。
 さぁ、ここからは時間との勝負だ!

 まな板を取り出し、生姜を刻んだ。
 ん〜〜〜生姜を刻むといい香りが立ち上がって、覚醒しますなぁ!
 続いてホーローのバットに、醤油とみりんと酒と刻んだ生姜を入れて軽く混ぜた。
 それから豚肉の切り落としに片栗粉をつけ、作ったタレにしっかりと漬け込んだ。 
 バットは横に置き、まな板をさっと洗って、次は野菜。
 もやしはさっと水洗い、小松菜を四センチ幅にざっくばらんに切って、人参も同じ長さで細めに千切り、それらは一緒にまとめてザルに上げておく。

 キャベツもざっとざく切り、これはボウルに氷水とレモンを浮かべた中へ放しておく。
 玉ねぎは細めに、じゃがいもは半月に切る。
 そうこうしている内に、お湯が沸いた。
 そちらへ向かう前に、炊飯「早炊き」スタート。
 片方の鍋には塩を入れて、もやしと小松菜と人参をがばっと入れ茹でる。
 片方にはいりこ出汁を入れてひと煮立ち、玉ねぎとじゃがいもを入れて、火を通す。

 もやしたちはすぐに火が通るから、気をつけて見ながら、まな板と包丁を洗ってしまう。
 小松菜や人参が良い色合いに変わったらそれが合図、ザルにあけて少し冷めるまで水を切る。
 鍋を洗ったら、いよいよ、調理も大詰めだ!



 2010-05-02 22:13筆


[ 45/761 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[しおりを挟む]

- 戻る -
- 表紙へ戻る -




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -