105.どうぞご自愛くださいませ
ポカポカの陽射しがほんとうに心地いい日だ。
晩ごはん、どうしようかな…
一成邸に入り浸ってしまっているけれど、今日はどうだろう、もう迷惑かけたくない。
久しぶりにひとりになる、かも知れない。
ひとりだったら簡単に済ませよう。
それかすぐに寝るのもいいかも。
数学の課題、一成たちに見て欲しかったな…
なんて、俺はどこまで甘えてるんだ。
ダメダメ、もっと違うことを考えないと!
体育祭でチーム貢献できるように、放課後、走りこみでもしようかな。
うん、身体を動かすのはいいことだ。
晩ごはんは購買さんに立ち寄るのもいいかも知れない。
たまには外食もね!
となると、憧れのルームサービスもいいなぁ。
明日の朝ごはんとお弁当用に、ことこと煮物料理を作ろうかな。
野菜の酢漬けもいくつか、そろそろ常備菜が切れることだし。
そして土日は常備菜作りに費やそう!
…って俺ったら結局、食べものや料理のことで頭がいっぱいになるんだから。
週末はそろそろ夏仕様、衣替えとファブリック替えにも励まねば。
いっぱいお洗濯して、あちこちピカピカに磨いて…うん、充実の休日になりそうだ。
頑張るぞー!
頑張らなくっちゃ…
「でもさぁ〜穂ってぇ〜変装取ったらすげ〜可愛かったんだねぇ〜俺、超ビックリしたぁ〜!」
「ひ、ひさし…!!そ、そんな事、急に言うなよなっ!!」
「えぇ〜?変装中からずっと想ってたんだけどぉ〜穂って可愛いなぁ〜って、よくゆーみーとそーすけとも話してたんだよぉ〜?ねぇ〜?」
「………うん。穂、カワユス。ゴホっ、うん、今が1番、カワユス」
「「穂、マジでかわいー」」
「んなっ…!!何だよ、お前らっ!!んな事言われても嬉しくないっつーのっ!!オレ、男だからなっ?!カワイイとかっ…」
「照れなくても良いじゃ〜ん?マジで親衛隊とかより可愛いしぃ〜穂は魅力的だよぉ。ウィンクたこウィンナー、プレゼントしたくなるぐらい〜」
「おれ、も。スマイルたこ、あげる。」
「ゆーはダンディたこ」
「みーはセクシーたこ」
「お前ら…何か、何か変なカンジだけどっ?!折角だから貰ってやるっ!!あ、ありがとうなっ!!」
皆さん、とっても楽しそうにお話しながら、お弁当を食べてくださっている。
よかった…
着実に減っていくお弁当を、ほっとして見守った。
「陽大、あんま食ってないんじゃね?食っとかないと保たねーぞー」
手が止まりがちな俺に気づいた大介さんが、わざわざ取り分けようとしてくださったのを、慌てて大丈夫ですと手を振った。
気遣わせてしまっている、そのことに、冷や汗が出た。
けれど、皆さんの視線が向けられる前に、九さんが立ち上がった。
「ダイスケっ、はるとははるとのペースで食ってんだから!!構ってやんなよっ、焦らせる気か?!それよりさー、ミキと2人で何やってたんだよっ?!オレが大変だったのに2人共助けてくれずにさー!!親友なのにヒドいぞっ!!それに友達同士がコソコソ喧嘩なんかすんなよなっ!!心配になるじゃんかっ!!どんだけオレを困らせる気だよ!!」
九さんのお声に、皆さんの意識が集まる。
「えぇ〜穂を困らせるなんてサイテーじゃ〜ん?音成クンも美山クンも何考えてんのぉ〜?」
「穂がカワイソ〜ゆー信じられなぁい!」
「穂がお気の毒〜みー信じられなぁい!」
「みの、かわいそ。…おれ、無理。」
「皆…ありがとうなっ!!でもオレ、2人共ちょっと魔が差しただけだって信じてるからっ!!いつか絶対、皆仲良くなれるって…友達だもんなっ!!オレがちゃんと2人の事も皆の事も上手く取り持ってやるからっ!!」
「…穂ってスゴいねぇ〜マジ良いコぉ〜俺、感激したよぉ〜何か惚れ直しそぉ〜」
「ホレ…?!な、なっ、何バカな事言ってんだよっ、ひさし!!オレ達、男同士だぞっ?!ただの親友にしかなれないんだからなっ!!」
「えぇ〜?まぁ、どうでも良いけどぉ〜今のはぁ〜人間として惚れ直したってだけだもぉん〜」
「「穂、かわいー!真っ赤っか!」」
「みの、かわい。タコ、いっしょ、赤っ」
ガタガタと慌ただしく座った九さんは、心底照れていらっしゃるようで、お可愛らしくて微笑ましかった。
いいなぁ、と想った。
いつでも素直に言葉を発する、感じたことありのままを大切にしていらっしゃって、それをまっすぐ伝えることができる。
とても、羨ましい。
「お、お前らなあっ!!かっ、かわいいとかっ、も―――!!からかうなよなっ!!なぁ、コ、コウもリヒトも黙ってないで何とか言えよなっ!!コイツらを纏めてんのはお前らだろっ!!お前らまで、よ、余計な事、言い出すんじゃねーぞっ?!オ、オレは男なんだから!!あ!!ダイスケとミキはもう仲直りしろよなっ!!まったく…この学園のヤツは皆、世話が焼けるヤツばっかだなあっ!!」
あんまり食べたくないなぁと、手元の卵焼きに目を落とした時、九さんから気になる言葉が聞こえて、想わず顔を上げた。
日景館先輩もだけど、柾先輩はもしかして、ここへ来た時から一言も喋っておられない…?
顔を上げた瞬間、俺は、『それ』を目の当たりにした。
隣に座る柾先輩の腕に寄り添っていた、九さんの手をやんわり振りほどき、輝かしい笑顔で向き直る、柾先輩の姿を。
九さんの頬がますます赤く染まる、けれどものの1秒も経たない内に、その大きな瞳が見開かれるのを。
「お前さー、何をそんなに寂しがってんの?」
時が、止まった。
2011-11-17 22:29筆[ 443/761 ][*prev] [next#]
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