101.薫風が緑樹を渡る、


 緑がほんとうに濃くなってきたなぁ…
 あちらこちらで咲き誇る、花々の色もどんどん瑞々しい。
 そしてなんだか、空の色が淡くなったように感じる。
 淡いというか…そうか、夏に向けてだんだん陽射しが強くなっているから、光の色たくさんでそう見えるんだろう。
 日に日にすべてが、陽の色へ染まってゆく。

 虫たちも鳥たちも元気いっぱいで、実は最近、ツバメの姿を見かけたんだよねぇ。
 街に居る時は、滅多に見かけなかったツバメだから、おお!って感動してしまった。
 たくさんの命が輝く季節なんだなぁって、ここに来て、改めてしみじみと感じている。
 空気のにおいが、もう夏のにおい。
 俺的にはもう半袖一丁夏服一丁で活動したいところですが…いやいや陽大よ、山を舐めてはいかんのじゃよ。

 まだ朝晩はひんやりしているものねぇ。
 木陰はたくさんあるけれども、紫外線も強そうだ、虫たちも街よりずっと強そうだ。
 そう言えば、制服一式セットの中に、UVカット機能の付いた上着が何着かあったような…そもそもこの制服一揃え、体操服まで含めて、多機能素材採用だったはず。
 制服だけじゃない、敷地内の建物殆ど全てUVカットガラス&防虫仕様で、夏は涼しく冬は暖かい万全の造りです!って、パンフレットにばーんと載ってたしね。

 さすがは十八学園ですなぁ。
 しかし冬のコートとブーツの防寒っぷりには驚いたけれども。
 どれだけ寒くなるのかねぇ…敷地内で武士道にご教授願いながらスノボデビュー!とかできるかねぇ… 
 なぁんて、先々の冬のことまで考えてる場合じゃないですね、これから夏だっていうのに、おかしいぞ陽大!ふふふ。

 「――では、今日は此所迄。次回迄に必ず全員課題を提出する様に…1人でも未提出者が出たらAチーム全体にペナルティーを課す。以上だ」
 「「「「「ええ〜…」」」」」
 「何か文句でも?」
 「「「「「………ございません」」」」」
 「流石に新1年は危機感が無い様だな。体育祭終了迄何事もチーム責任だ。1人の不始末はチーム全体の責任。2・3年に迷惑掛けたくなければ、日頃の学園生活から徹底する様に。未だ事の重大性がわからないならば、課題を増やしても良いが?」

 「「「「「だっ大丈夫です、わかりました!(このどSめ…!)」」」」」
 「では解散」
 ふふふふふ…!
 日直さんの起立!礼に合わせて立ち上がりながら、俺は呆然自失でおののくしかありませんでした。
 数学の細田先生の授業は、他のどの先生よりも大層厳しく、緊張感を伴う。
 針を落とす音どころか、髪の毛1本落ちた音とて聞き逃さんとばかりの厳格っぷり、僅かでも授業を乱せば即刻の退室を言い渡されるとの噂もある。

 課題提出はクラス全員提出が当たり前、テストの合格点は常に高めの設定、できるまでとことん追い詰められる。
 それだけに嫌が応にも集中できるので、苦手な数学がすこし成績アップ中の快挙なのだけれども。
 体育祭前になったら、細田先生の授業はますますヒートアップするらしい!と、バスケ部先輩からの情報を教えてくださった大介さん。
 まさかぁ、噂は噂でしょう?おおきなイベント前にそんな!なぁんて、クラスの皆さんと笑い合った俺。

 もんのすごおく、後悔しております。

 今日の授業………わからなかった…!!

 想わず季節の変化へ意識が飛ぶ程、風流さを感じる心でごまかしたい程、ハイペース&ハイレベル過ぎて、ちっともわからなかった…!
 どうしよう、男・前陽大たるもの、いつでも強く在るべきなのに…人目を憚らず泣きたいです!!
 うわーうわーうわー、どうしよう〜!!
 課題のプリントをぶるぶる震える手で握りしめながら、ぼうっと立ち尽くしすしかなかった。
 提出はできますよ、でもほとんど白紙状態になるかも知れない!!

 細田先生は精一杯の努力の末なら、完璧な成果じゃなくても認めてくださるけれども。
 努力すら見せられず、白紙になるかも!!
 板書はきちんと取ったけれども、教科書にもいっぱいメモ書きしたけれども、書いてあることが意味不明、そんなバカな!!
 「………は、陽大…?お前、すげー顔になってんぞ…大丈夫か…?」
 大介さんに声をかけられて、はっと我に返った。

 ふと周りを見渡せば、皆さんお昼休憩の用意中で、その手を止めて俺を心配そうに見守っていらっしゃった。
 いけない、ご心配やご迷惑をおかけしては!
 「だ、だいじょうぶです………たぶん…ごく個人的な問題なので…ハハハ…!」
 なるべく朗らかに見えるように笑ってみたけれど、どなたさまも笑ってくださらない。
 どうしましょう!

 「さ、さぁ〜!お昼ごはんですねー!さぁてっと、ランチランチ〜…来年になったら皆さんのことを、先輩とお呼びしているかも知れません…なぁんちゃってね、ふふふ…」
 「「「「「お、お母さん…?!」」」」」
 「だいじょーぶ、だいじょーぶ…やだなぁ皆さん、そんなお顔なさらないで!半分本気の冗談ですってばー!…いえ、ほとんど本気の…9割型有り得る未来のお話ですってばー!なぁんちゃって…ふふふ…1年生の1学期で留年決定したら伝説の勇者に成れる…?ふふ…ふふふ…」

 「「「「「お母さん、しっかりしてー!」」」」」
 「まー、確かに今日の細田センセーはヒートアップしてたけどさ…また皆で勉強会やりゃいーじゃん?そんな思い詰めんなって!」
 大介さんが明るく言って、背中を軽く叩いてくださったけれど。
 数学に関してとびきり強く、ものすごおく教えるのがお上手な一成さんと、俺はこれから敵同士で…
 期末はとにかく目先のこの課題、どうしたらいいんでしょうか…?

 「は、はるとっ!!オレも一緒に勉強するしっ…な?が、がんばろーぜっ!!な!!と、とりあえず、昼メシだよなっ!!木曜は生徒会だろ、行こうぜっ!!」
 ああ、九さんの優しいお気持ちが辛いです… 
 1学期最後のお弁当シフト、お腹はぺっこぺこだったはずなのに、俺のテンションは大暴落中でございます。
 でも、しっかりしなくっちゃあ!
 皆さんに気を遣って頂いてるんだから、が、が、頑張り…ます…ううう。

 「ありがとうございます、大介さん、九さん、皆さん。俺、頑張りますとも!さぁ、ランチランチ〜」
 「「「「「お母さん………(よろめいてる!)」」」」」
 お弁当を持っていざ生徒会へ!
 と用意をしたところで、徐々に遠くからこちらへ向かって、廊下が騒がしくなって来た気配を感じた。

 ……なんだかこの騒がしさには覚えがありすぎる、嫌な予感しかしませんよ。



 2011-11-13 23:20筆


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