98.音成大介の走れ!毎日!(7)
体育祭期間は各部活動の休止が原則となる。
中等部から共通の、暗黙の了解ってヤツ。
よっぽど重要な大会やらが控えてない限り、このデカい祭りへ全員集中する事になる。
山奥に閉じ込められて、下界という名の巨大な娯楽から遠く離れてる為、祭り事には目がない。
派手な人気者達の華々しい活躍の場でもある。
部員同士、同じチームにはならないから、とも言えるだろう。
昨日まで仲良くしてた部活仲間が敵チームになった途端、ギスギスするのは珍しくない。
最高の仲間だろうが腐れ縁の親友だろうが、体育祭で敵チームとなったなら、祭りが終わる迄離れてた方が良い。
波乱の種目発表の号外から明けた今朝、更に嵐必至の号外が出た。
休止前の最後の朝練だった俺ら体育会系連中は、一般生徒より早くこの号外を知った。
ギスギスする間もなく、この話題で持ちきりだった。
Aチーム仲間がげんなりする中、他チームは形だけの同情を寄せながら面白がってる。
や〜れやれ…
ただでさえアノ柾生徒会長が居るだけで気ィ張んのに…
会長サンのツレがバスケ部先輩含めて問題児だらけで雁首揃えてるわ、陽大の周辺で最もアヤシー一舎は居るわ、大人しい顔していつキレるか不明の触らぬ神に祟りなしな無門は居るわ、成勢先輩に目ェ付けられてる美山は居るわ、クソ厄介な宇宙人は居るわ、会長サンの狂信者筆頭の合原は居るわ、その会長サンと陽大が同じ種目になるわ…
いきなり課題だらけのAチーム内で、宇宙人が不祥事起こしやがったわ…
雇用主に苦情申し立ててやろう。
俺1人でこれだけのメンツが揃ったAチーム、マークもディフェンスもオフェンスも出来ないっつの。
ボーナス出たってやりきれないっつの。
何より雇用主様の大事な陽大の神経だって保たないんじゃね?
初の体育祭だっつって燃えてたけど、早くも会長サンからイジられてぐったりしてたし。
可哀想に、昨日はまともに話す間もないまま俺は部活だったし…今日1日労ってやんないとな。
これからお互い益々苦労の連続だ。
そんな事を考えつつ、部室から教室へ向かう途中、美山を拾った。
ぼけっと、何の危機感もなく、広大な庭の一角に座り込んでた。
馬鹿じゃねーの…
美山に対して初めて心底想った。
てめーが武士道にマークされてるって、全校生徒の好奇の視線に晒されてるって時だぜ?
てめーの親衛隊はただでさえ荒れてるってのに、べっとり付きまとってた宇宙人の号外で、更に大荒れすんのは誰が見たって明らか。
なのに何してんの、コイツ。
側に宇宙人が居るなら良い、コイツ1人じゃん。
陽大から鞍替えして、武士道を敵に回しといて、そこまでして手にした宇宙人の側、何で離れてんの。
イライラしてた事もあり、殆ど無抵抗の美山を強引に連れて、一緒に教室へ行った。
てめーの役割、忘れてんじゃねーよ。
てめーが望んだ道から、勝手に離脱してんじゃねーよ。
自由に動くってんなら、ケジメ付けてから動け。
どーせ教室内でお前が大事にしたがった宇宙人が、今迄以上にぎゃーぎゃー喚いて問題起こしてんだろ。
けど、現実は俺の予想を上回った。
たどり着いた場所は、かなりヤバい雰囲気に呑み込まれていた。
合原がブチギレてる。
それにまんまと流されて、宇宙人もブチギレかけてる。
その近くには陽大が居る。
せめてAチーム集合時なら未だしも、朝のHR前、此所には1年A組しか揃っていない。
やべー…どう動いても危ねーじゃん。
迂闊に踏み込めない、緊迫した状態。
流石に腑抜けた美山も、ちょと目ェ覚まして逡巡してる程。
外から誰かを呼んだ所で、下手に刺激したらヤバい。
どう転んでも不味い展開だ。
朝練出てる場合じゃなかった、最初からこの場に居ればと、今更悔やんでも遅い。
この変に高揚した空気を変えるにはどうしたら良い?
気ばかり急いていたら、陽大が答えを出した。
目を見張るしかなかった。
何で今、笑えんだ…?
お前はどんだけ強いんだよ。
どんだけ落ち着いて、周りを見てんだよ。
そうだ、今此所で、怒りや哀しみ、正論を振り翳しても何の効果もない。
ふざけるなんてもっての他、寧ろ火に油を注ぎかねない。
でも、陽大は笑った。
優しい顔で、嘘偽りなく笑った。
完全にその場を支配した、笑顔で、嫌な空気を払拭して、誰をも圧倒した。
それから、謙虚にゆっくり話し始めて更に場を圧した。
陽大の言ってる事は、格別珍しい事でも、特別な言葉でもない。
発言者に因っちゃ、ただの綺麗事、と取られるだろう。
ただの綺麗事で終わってないのは、陽大自身が体験した実感に基づき、真実心から信じている故の言葉、そうとわかるからだろうか。
嘘を吐かないから。
あいつの目は、いつも真っ直ぐで、その言葉も真っ直ぐに胸の真ん中に響く。
強いだけじゃないから。
気づいたら、聞き入ってた。
自分に反映させてた。
やべ、「任務」忘れてる。
俺は俺の立ち位置、一瞬でも忘れる訳にいかないのに。
微動だにしない美山を放って、わざと大仰に教室へ入った。
何も知らないフリして軽口叩きながら、変に過保護するより、陽大を信頼した方が良いと。
これからちょっと任務の方向性、考え直した方が良いなと。
俺こそ手前勝手に判断した。
雇用主様の念押しは杞憂に過ぎないと、あの人もあんまり陽大の事、わかってねーじゃんって。
記憶から薄れさせる事にした。
随分後で、どんだけ後悔するかも知らずに。
2011-11-10 23:59筆[ 436/761 ][*prev] [next#]
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