30.お母さぁ〜ん!お腹へったぁ〜


 部屋から出たら、リビングのソファーには美山さんの姿。
 片膝を立てた寛いだ姿勢で、TVを観ておられた。
 邪魔したくなかったけれど、そっとお声がけした。
 「あの〜…もしもし、ちょっとよろしいでしょうか、美山さん?」
 振り返った美山さんの眉間には、また皺が寄っていた。
 「んで、敬語なんだよ…『さん』付けとか、キモい」

 「すみません。まだ初対面ですし、どうも畏まってしまって…俺のくせなんです」
 「……マジ、変なヤツ……」
 「あはは、よく言われます!」
 「タメだし、敬語とか止めろ」
 美山さんって、気さくな御方なんだなぁ。
 「ありがとうございます!でも、すみません…もうすこし慣れるまでお時間いただいてもよろしいでしょうか」

 「…あ?」
 「俺の個人的な問題と言うか、習慣と言うか…そう言っていただけるのはとてもうれしいですし、美山さんとはこれから生活を共にする仲ですから、仲よくなりたいなぁと思っております。
 ただ、俺は老若男女誰に対してでも、初対面の御方と親しくなるまでに時間がかかってしまって…警戒しているわけではないんです。美山さんは、俺の初めての同居パートナーさまですし、だからこそゆっくり時間をかけて、親しくならせていただきたいなぁと…」

 俺がモゴモゴとそんなことを言っている内に。
 美山さんの眉間の皺が深くなり、更に、なぜだかお顔が赤く…?
 「………てめ…なんつー発言だよ……」
 「えと…すみません…?」
 「………半疑問で謝んな。もう良い、わかった……」
 「???あ、もちろん、美山さんは美山さんの思うように自由に接してくださいませね!」

 「…もう、そうしてるっつの」
 「そうですか!あ、そうそう、お声がけしたのは、キッチンのスペース配分についてなんです。美山さんの陣地を教えていただけますか?それに合わせて収納させていただきますので」
 「…陣地…!てめぇはガキなんだかジジイなんだか、ワケわかんねーヤツだな…」
 「あはは!よく言われます!」
 美山さんは、呆れたようにため息を吐かれて。

 「俺は料理なんかしねー、冷蔵庫もほとんど使わねー。そもそもキッチンに用がない。てめぇの勝手にしろ」
 「え、そうなんですか…?」
 「あぁ。つか、部屋」
 「はい?」
 「片付け、終わったのか」
 「はい、大体終わりました!細かい所は週末に徹底的にやっつけようと思っております。騒がしくしてすみません。今日はキッチンをすこし触ったら、もう終わりにしますから」

 「…???細かい所…?よくわかんねーな…つか別にココ、防音完璧だから騒がしくねーし、いちいち謝んな」
 「そうなんですね。わかりました。防音のこと、教えてくださってありがとうございます!」
 「…いちいち礼も要らねーし…」
 ぶっきらぼうに言って、そっぽを向いた美山さんの頬が、さっきから赤く見えるのは気の所為だろうか?

 どうしたんだろう。
 まさか、手のケガの所為で発熱?!
 調子が悪そうに見えないけれど、体調不良は見かけだけではわからないことがある。
 心配になって、余計なお世話かも知れないけれど、そもそも俺が原因だから口出しさせてもらおうと思っていたら。
 「……メシ…」
 「はい?」

 「メシ、どーすんだ」
 「あ、はい。夕食は手持ちの材料で簡単に作る予定です」
 「…は?作る…?」
 「はい!来たばっかりなので、お台所の勝手も電磁調理器のくせもわからないし…片付けでちょっと疲れてしまったんで、簡単に済ませるつもりです。あ…ちょっと炒めものを作ろうと思うんですが、煙とか匂いとか…美山さん、避難できますか?」
 「……避難……」

 「やっぱりご迷惑ですよね…?じゃあ、煮炊き系で…」 
 メニュー変更は致し方ない。
 えーと、アレがあるから、アレを組み合わせて、ちゃっちゃと湯がいてアレを入れたら…アレができるからそれでいいかな。
 あ!
 と言うか今後の、お互いの円滑な共同生活のためにも、リサーチしておかねば!
 美山さんが料理中の煙や匂いが気に触るようだったら、カセットコンロを持ちこんで、自分の部屋で作るのはどうだろうか?

 あれこれ、考えていたら。
 「つか、てめぇ…料理出来んのかよ…」
 美山さんの呟きが聞こえて。
 俺は思わず、力いっぱい、笑顔で頷いていた。


 「はい!!料理は俺の趣味と言うか、ライフワークなんです!!」
 

 美山さんは、俺の勢いに目を見張られている。
 しまった、力み過ぎた?!
 でも、後悔する前に、ふーんって気のない返事が返ってきた。
 「好きにしろ……煙だか匂いだか、別に気になんねー」
 「そうですか…?ありがとうございます!では、お言葉に甘えて、キッチン使わせていただきますね。料理を始めてからでも、もし何か気になることがありましたら、いつでもご遠慮なく仰ってください」

 お許しが出た!!
 それでは、早速…突撃しますか!



 2010-05-01 23:09筆


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