94.既に戦いは始まっている…!


 や〜…さっきは驚いちゃったなぁ!
 「あ、お母さんだー、オハヨー」
 「お母さん、Aチーム波乱っぽいね!ガンバレー」
 「敵同士で残念だなー」
 いつもの朝のごとく、道行く生徒さんに様々にお声をかけて頂き、おはようございますとお返事しつつ。
 そのお声の数々が、既に体育祭モードだということにヒヤヒヤした。

 今日からAチーム以外は、敵…!
 学校全体が当日まで戦闘モード…!

 その所為か、いつもならHRが始まるまで廊下のあちらこちらにいらっしゃる、クラス問わない顔見知りさん同士でのおしゃべり姿が、今朝は極減している。
 心なしか、学校中が緊張しているように感じる。
 十分警戒しつつ、A組付近でこそっと振り返ったら、廊下の片隅、壁に隠れたトンチンカンよしこちゃんたちが見えた。
 ちゃんとここまで付き添ってくれていたんだなぁ…

 ヒラヒラと控え目に手を振ってくれる4人に、じんわり心があったかくなった。
 こそっと手を振り返しながら、もう大丈夫だよ!っていう意味をこめて力強く頷いた。
 わかってくれたんだろう、4人共頷き返してくれてから去って行った。
 ふふ、忍者やスパイみたいに登校できたのは、ちょっと面白かったなぁ。 
 しかしながら…なんだか切ないねぇ…
 あの子たちが一生懸命教えてくれたこと、教室へ向かいながら反芻した。

 俺と武士道が仲良しさんなのは、もう学校の常識?として知られているらしい。
 だから大目に見て頂けるようだけど、体育祭が終わるまで、公衆の面前にて交流すること控えるべきのようだ。
 それだけ皆さん、本気だということ。
 これから各チームで優勝対策を練る中、僅かな情報の漏洩も許されないのだとか。
 体育祭が近づくにつれ、本格的な練習や作戦の擦り合わせが増えていくらしい。

 ほんとうに一大イベントだねぇ。
 特に武士道がいるF組、俺のいるA組は優勝争いの最有力チームらしい、今日から気をつけなくちゃいけない。 
 切ないねぇ…親御さん方がが子離れしなければならない時って、こんな気持ちなのかねぇ…
 お弁当シフトも今週で一時お休み、と言うことはもう木曜日で明日はフリーだし、実質今日が最後になる。

 ん、待てよ?
 体育祭が終わったら、すぐテスト期間へ突入してしまう、テストが終わったら夏休みだし…もしかして今日は1学期最後のお弁当シフト?
 あらまぁ、今気づいてしまった!
 いつも通りのお弁当にしちゃったけれど、よかっただろうか。
 オマケのミニどら焼きはあるけれども。 
 なんだか寂しいねぇ…

 クラスの皆さんとはもう何度かご一緒できるかな。
 武士道とも晩ごはんや休日ごはんで会えるだろうし、夏休み中は下界のホームで会おうね!って早くも約束している。
 でももう、たこウィンナーとにらめっこしてから一口で食べる日和佐先輩や、にこにこしながらたこウィンナーを召し上がる凌先輩、いつもきちんと接してくださるのに、たこウィンナー争奪戦を必ず繰り広げる風紀委員の皆さん方、超偏食家の問題児でたこウィンナーでさえ選り分けて食べたがるひーちゃん、たこウィンナーは必ず足からたべる派の優月さんと満月さん、たこウィンナー入りオムライスに大感動なさっておられた日景館先輩とは、2学期までご一緒できないのかぁ…

 って、たこウィンナーの想い出ばっかり強烈だなぁ!
 他のおかずも有り難いことに好評いただいているけれど、十八学園では群を抜いてたこさん人気が圧倒している。
 将来、お店でも出すべきメニューなのかしらん…
 などと取り留めのないことを考えながら、教室の扉を開いた。
 「おはようございまー…???」
 むむ?

 足を踏み入れかけて、想わず立ち止まってしまった。
 いつも明るく元気なA組なのに、異様なざわめきというか、空気がおかしい。
 なんだかコチンっと硬い。
 のんきに登校して来た俺は、明らかに場違いだ。
 一体なにごと…はっ、まさか、敵チームのトンチンカンよしこちゃんたちと一緒に登校している姿(しかも5人揃って怪しい忍び足だった!)、見られて…?!
 俺はチームの秘密は例えあの子たちと言えど、一切明かすつもりはありませんよ!
 
 「あっ!!はるとっ!!!」

 おや、このお声は九さん?
 振り返ったら、九さんのお姿はどこにもない。
 きょろきょろしても、どこにも見当たらない。

 「はるとっ!!」
 九さんのお声は聞こえるのに、お姿が見えないのはどういうことでしょう?
 あらら?
 パタパタっと近寄って来られたのは、見たことのない異国の少年さんみたいな御方…
 ………???
 この御方も無門さんのように拠ん所ない事情あって、今までクラスにいらっしゃらなかったのだろうか。

 事態がよく把握できないまま、取り敢えずはじめましてと挨拶しようとしたら。
 
 「はるとっ!!!皆、酷いんだ!!オレは何も悪くないのにっ!!このガッコ、やっぱ相当イカレてるよっ!!」

 急に抱き着かれて。
 バランスを崩して。
 ふらふらよろめきながら、目を見張った。 

 俺に抱き着いておられる異国の少年さん、九さんの声で喋った…!



 2011-11-06 23:52筆


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