91.副会長のまっ黒お腹の中身(7)


 「まぁ…凌も抑えて。先輩方も事の重大性は理解して居られる。一先ず、あらかじめ宇宙人と遭遇した時の対策を徹底しておいて良かった…かも知れないな、ゴホゴホッ」
 っげ。
 睨まれた…怖っ…
 危うく視線を逸らして咳払いで誤摩化した。
 キレた凌のメンチは半端ない。
 おいコラ、先輩方はとにかく、武士道で頭張ってやがるクセに仁も一成も沈黙守りやがって…!

 昴が居ないからってサボんな!
 一成はメンバー内1(いや、学園1か?)の低血圧だ、殆ど意識不明状態だから仕方ないとしても、仁!
 てめぇもどうにかしやがれ、この事態。
 最近の俺は何かこういう役割に陥ってないか…?
 どんだけ不運に付きまとわれるってんだ。
 これもそれも学園で1番最初に宇宙人に会ったからか。

 宇宙人に会ってからツイてないなんざ、笑い話にもならん。
 学園のプリンスと謳われたこの俺が、こんな不遇の身上へ追い込まれて良いのか。
 いかん、つい思考が下らない方向へ向かってしまう。
 各自に配られた号外に、嫌々ながら再び視線を落とした。
 何故なら、顔を上げていたら凌様の般若面が視界に入ってしまうからだ。
 このクソ宇宙人の所為で、何もかも滅茶苦茶じゃねーか。

 そもそも、今朝の目覚めから最悪だった。
 いつも俺の朝は、最も敬愛する邦人ピアニストが奏でる、サティのグノシェンヌ第1番で優雅に始まる。
 そして、よく冷えたグラスに1杯、ウィスラー社の酸素水を飲み干し、旬のフルーツとイングリッシュブレックファーストでゆっくり朝食を取る。
 各手順は僅かなりとも狂ってはならない。
 ならんのだ。

 何の邪魔なく、例え3大勢力の仕事に手を焼く時期だろうが、体育祭前だろうが宇宙人襲来だろうが何だろうが、時間の前後は良しとしても一連の流れに澱みは許されない。
 それを誰より理解している心太が、事もあろうに心太が、長い学園生活の中で遂に禁忌を破り、早朝集合が控えているにしろ未だ十分眠っていられる時間帯に電話して来やがった、これを最悪な朝と言わずして何と言おうか。
 いや、心太は悪くない。

 1億歩譲歩して、心太は悪くないにせよ、全てはこの存外フツーの面構えだったクソ宇宙人の所為、お陰で俺の1日が台無しだ!
 想わず拳に力が入り、号外を破る勢いで握り潰したら、凌様からお咎めが来た。
 「莉人、ゴミを散らかさない様に。此所まで美化委員の管轄じゃない」
 「はい、すみません…」
 …それにしても、凌の怒りは深いな。

 昴が事前に立てておいた、「未だ宇宙人と遭遇してないメンバー用・宇宙人の交わし方大作戦」が余程お気に召さなかったのか?

 『――九穂は詰まる所、ガキだ。精神年齢は幼等部以下に等しい。
 ガキが最も嫌がり益々手が負えなくなんのは、相手に無視された時だ。常に注目していて欲しい、丸ごと受け入れて貰えて当然だと、真っ当なガキなら誰もが想ってる。遭遇して目が合ったんなら、何より重要なのは無視すんなって事だ。ガキは敵意に敏感だ、てめえの敵じゃねえって想いっきり心から笑いかけてやれ。
 どんなに腹立っても、最後まで相槌だけ打って言い分を聞いてやれば良い。相手は初等部入る前のガキって考えたら、んなに腹も立たねえだろ。ガキってもんは自分をちゃんと見て貰えたって満足すりゃ、適当に引いて行く。ガキに言う事聞かせたいなら、先ずはこっちが大人になって折れるしかねえ』

 日頃の育児の賜物か、やけに重々しい言葉だっただけに、妙に納得したもんだが。
 これで宇宙人に遭遇してないのは、凌様だけになった。
 最早、凌様にこの作戦は当てはまらん気がするが…
 「ところで莉人、親衛隊はどうなっている?」
 横目でひっそり窺った所で、いきなり問われてビビった。
 「あ、あぁ…そもそも実はこの号外、優月と満月がリークした物らしい」 
 「「「「は…?」」」」

 「この現場に富田先輩も心太も居合わせたそうだ。双子が必死に写メってる後ろで観察していたとか」
 「「「「………」」」」
 「先ず混乱必至だろうと。日和佐先輩もですが、宮成先輩の隊はご自分でどうにかして下さいとの事ですよ。宇宙人の素顔が平凡だった事がマズい…親衛隊の怒りの矛先はそこへ集中するだろう」
 その時、ずっと柱に凭れて静けさを保っていた一成が、顔を上げた。

 「………ねぇ〜ゴチャゴチャややこしーのはも〜間に合ってるし〜手っ取り早く消そうよ〜俺がヤるし…?」

 お前はもう美山の1件で十分だ、これ以上動くなと誰もが想っただろう、しかし声にはならなかった。
 一成の目が本気だったからだ。
 「このコ、マジで邪魔。光モノ持ってるし、ちょっとイッてるっぽい。俺が何とかするしかないんじゃない〜?」
 号外を舐める様に見下している一成に、完全に空気が凍りついている。
 おいコラ、仁、止めろ!
 クソが…同棲中の前陽大の朝メシは武士道の金色を腑抜けにさせる程美味いのか?!
 

 「一成が動く必要は無え。九穂も親衛隊も俺が黙らせる」

 
 だからお前は何者なんだ…!
 俺はいつからツッコミ担当になったんだ…!
 「昴…まさか理事長室から直行して来たんじゃ…」
 流石の凌様も般若から人間へ戻り、目を見張っている。
 道理だ、涼しい顔して立ってるヤツが、昨夜どう過ごしたのか知らんが、此所に居る誰より過酷な状況だった事は想像だに容易い。
 しかし妙に機嫌良いな…すこぶる元気そうじゃないか。

 「おはよう皆さん、ご機嫌よう。つか、今何時か知らねえの?全体集合10分前ですけど〜」
 「「「「「「それを先に言え!!」」」」」」
 全体集合場所は、此所から走って10分ギリだ。
 自然、話は保留になり、我々が風紀を無視して各々のルートで全力疾走したのは言う迄もない。



 2011-11-03 22:59筆


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