90.凌のココロの処方箋(5)


 早朝6時丁度。
 1時間後、表3大勢力と実行委員、先生方を交えたミーティングが行われる為、いつもの隠れ家では移動が大変だ。
 やむなく未使用の音楽教室(と言う名の物置)を拝借し、昨夜の解散から8時間経過した今、再び全員集合を果たした。
 1名を除いて。
 「…ところで、昴は大丈夫かな…」
 「マジそれだよな、柾はちゃんと帰れたのか」

 気まずい空気が益々凍りつくであろうと、承知の上で俺は口を開いた。
 「日和佐先輩、宮成先輩、白々しい気遣いは昴にとっても無為です。まさか、時間稼ぎのおつもりですか」
 
 案の定、しーんと静まり返った。
 「「…すみませんでした」」
 図体ばかり立派な大の男2人揃って、しゅんと縮こまる姿は滑稽どころかいっそ哀れだ。
 けれど、俺は仮にも先輩とは言えど許す訳には行かない。
 努めて冷静になるべく、大きくため息を吐いたら、他の図体ばかりな面々までもびくっと肩を震わせた。
 何だ、この人達は…
 何が3大勢力!
 何が生徒会、何が風紀委員会、何が武士道!


 「さて、ではお察しの通り、きっちりハッキリ虚偽なくお伺いしたいと想います。本当は、本当は、本っ当は、こんな下らない事に時間を割く暇など皆無にも関わらず、この貴重な早朝集合という時間を使って、先ず真っ先に突き詰めねばならない問題が起こってしまった事、誠に遺憾に想います。
 しかし、致し方ありません。

 日和佐先輩も、宮成先輩も、たった8時間前の出来事の様ですから?ご記憶は新たかな事でしょう。直に活動し始める運動部向けに、第1便のコレが撒かれ始めております。無論、美化委員並びに用務員の皆さんは、まさか一夜の内に新たなスクープが発生したなど露知らず…因って、昨夜以上にコレは学園内を席巻する事でしょう。

 我々3大勢力としては、即刻!大事な体育祭よりも優先して対応策を練らねばなりません。知っての通り、我々を束ねる昴は体育祭期間中、その他の厄介事に興じる余裕など皆無の為、この1件は我々の内で処理せねばならないのです。
 日和佐先輩、宮成先輩、どうされました?何か申し開きたい事がお有りでしたら、何なりとどうぞ?」 


 ばさっと、拡大した号外を広げた。
 誰もが頭を抱えている。
 俺だって抱えたい。
 まだ始まったばかりの準備期間にこんな号外が出るなんて、幸先が悪いにも程がある。
 しかも、我々の中から、だ。
 一般生徒の号外なら未だしも、我々の中から厄介事が生み出されるとは!
 よりにも因って、あの1番問題視されている、悪い意味で最注目の編入生と!
 
 人間、誰だってミスはある。
 起こってしまった事を責めても仕方がないのはわかっている。
 …俺とて春先、初っ端から号外を出した。
 皆には温情で受け流して貰い、お咎め無しだった事には深く感謝している。
 こうしてまた朝広…宮成先輩と仕事している事は、本当に奇跡に等しい。
 けれど今回の問題は、如何様にも回避し得た事態だけに、「気にしないで!次は頑張りましょう!」と行きたいけど行けない。

 俺達3代勢力に、「疲れていたから」は許されない。
 疲れているからこそ油断禁物、それが当たり前の世界だ。
 それだけ危険な立ち位置に居るという事。
 それをまったくの油断も甚だしい、また何故、最上級生同士ながら、表向き敵対していると認知されている2人が仲良く帰路に着いてしまったのか!
 時間が遅かっただけにそれは良しとしても、寮付近で道を違えるとか、最低限の配慮は為されなかったのか。


 『深夜の密会!君にこの謎は解けるか!?

 ●風紀委員長×元・生徒会長?!
 学園中、誰もが知っている「犬猿の仲」は嘘!?
 宮成氏が渡久山氏と別れたのは、日和佐氏の命令?
 捻れたトライアングルを解明せよ!

 ●学園で見た事のない「微」少年の正体!?
 見た事ない=そんなの転校生の九氏に決まってるよね!
 誰が見ても酷い悪装の下は、ある意味予想外、普通の少年でした!

 ●風紀委員長×元・生徒会長→←「微」少年?!
 目撃者の情報に因ると、夜分憚らず泣き喚いていた九氏に対し、日和佐氏と宮成氏が異常に優しく接していたとの事!
 まさかのトライアングル成立か!

 日和佐氏と宮成氏は最上級生、十八学園の恵まれた美形環境に慣れ過ぎ、物珍しい「微」少年にウッカリ絆されたか!
 正体が九氏だと気づいての事なのか!
 目を覚ませ、日和佐氏、宮成氏!
 渡久山氏を交えたトライアングルの方が、見た目にも我々的にも美味しいぞ!』


 品のない記事は毎回の事だけど、中でもこの記事の下らなさには目を疑う。
 何だこれは…人を馬鹿にするのも大概にしてくれないか…!
 ただでさえ苦手な早起き、ただでさえ始まったばかりの体育祭、そこで起きたこの一騒動に、俺は普段以上に神経質になっていた。
 奇妙な程、腹立たしいのは…
 項垂れたままの、きっとろくに眠れていないだろう宮成先輩の顔を、横目で見上げてすぐに視線を逸らした。

 こうも腹立たしいのは、それは、仕方がないと。
 ぎりと拳を握り締め、どうにか怒りをやり過ごそうと想う。
 まだ、陽大君と噂されていた方が余程マシだった…!
 陽大君の事を好きになったと言われた方が、遥かに良かった。
 いや、陽大君はレベル高ぎる、他に朝広好みの子は沢山居るだろう、朝広の親衛隊の子だって居るじゃないか…! 

 趣味が随分変わったんですねと、嫌味が飛び出さない様に、俺は冷徹な風紀副委員長の顔を保ち続けていた。



 2011-11-02 23:43筆


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