85.化粧オバケの本音 by 心太(3)
「風紀委員長と前・生徒会長と謎の微少年の3ショット、あわや夜の密会か?!…という場面を写メりまくっている双子猫ちゃんの様子を、じっと見守っている親衛隊総括隊長こと麗しの白薔薇様と、副隊長こと可憐な紅薔薇様でした。とさ!」
「………一平先輩、もう少しお静かに………」
頭が、痛い。
まさに目の前の双子の目の前にいる(ああ、クソややこしいな畜生!)、風紀委員長・日和佐先輩の持病の如く。
嫌だ、まさか「持病の頭痛」という名の伝染病じゃあるまいな。
空気感染するのか、もしかして。
だが、俺の隣で朗らかに笑っている、一平先輩with化粧オバケモード様が元気そのものなので、要らん杞憂だろう。
しかし、こんな時間まで体育祭云々の為に打ち合わせ…先ずは全親衛隊に許容された範囲で隊員召集して最早殆どミュージカル状態の打ち合わせ、解散後は我々2人のみで裏の話…後なのに、一平先輩はまだエネルギッシュだ。
あれだけ嘆き歌い踊り、全身全霊込めて演じ切っていたのに、この人の底力には毎回マジで驚かされる。
この人の上に君臨する、柾昴が更に怪物じみているのも道理だ。
謎の一族…触らぬ神に祟りなし、彼等に関しては流石の俺もガチでそう想う。
俺はもう帰るのすら億劫な程、疲れ果てているというのに。
そんな状況で、益々疲れを増進させられる3ショットを盗撮する2ショットを見せられるとは。
十八学園には、神不在。
この山、絶対呪われているに違いない…!!
「心太、心太」
「………はい?」
急に嬉々としてウィンクして来た一平先輩に、俺は遠慮なく投げやりな返事をした。
どうでも良いけど、メイク崩れとんでもないっス、先輩…恐らく俺もどギツイ事になってんだろーけど…ああ、帰っても鏡だけは見たくない。
「ツッコミ、ツッコミ!」
「はぁ…?」
「忘れてるゾ!心太はツッコミ担当でしょ。この珍奇で稀なる光景を目にした冒頭の俺のセリフ!想い出してごらん」
俺はツッコミ担当なんですか?!
想わず目を剥いたら。一平先輩は更に愉し気に目を細め、ツッコミカモン!とばかりにウィンクとジェスチャーを繰り返した。
もう…この人には敵わない…
「わかりましたよ…いえ、わかってましたよ…」
「でも面倒臭くてスルーしたんだろう?いけないねぇ、心太。おっと、前君風に言うなら、いけません!かな?ちゃんと手順通りに進行しないと、『今夜は帰さないぜ…?』」
「………わかりましたから…バカ道化(柾昴)のモノマネなんか要りませんから…」
「む?!確かにヤツはバカの中のバカ道化だけど、他人に言われると何っか心外〜!だってワタシ、カレの親衛隊長だもぉん〜カレの悪口は聞きたくなぁい!キャピ!」
何でこんなに元気でいつもと変わらずハイなんだ!
わざと赤らめた頬を抑えてクネクネしている、一平先輩を呆然と見つめた。
疲労から来る高揚だったなら可愛気があるものを、これが日常のテンションなんだから困る。
困りつつ、クネクネしながら上目遣いの無言でツッコミを要求してくる先輩から、とにかくさっさと解放されたくて、棒読みでツッコんだ。
「白薔薇さまが仰った〜、謎の『び』少年ってお言葉なんですけどぉ〜、『び』は美しいって書くんじゃなくてぇ〜、微妙の微で発音していらっしゃいませんでしたぁ〜?」
パチンっと指が鳴った。
「うーん、心太にしては甘いツッコミ…キレがないなぁ!」
「………俺、御宅の道化様と違って、芸人目指してないんで………」
「じゃ、仕方ないねー!うん、そうそう。やっぱりわかっちゃった?だってアレは誰が見たってビミョーだよねー」
「ねー…」
「此所に集まる人間が美形過ぎるんだろーけどねー。こんな言い方は失礼ながら、一般の学校だったらそれなりに目立って可愛がられたかも知れないねー」
「ああ、成る程。此所の常識や日常と照会するから、何だありゃって見てしまうんですね」
「あはは、何だありゃ!か…言い得て妙だなぁ。バカ道化を凌駕するバカ変装の下がフツーの容姿でした!チャンチャン!なんて、ある意味予想外だよね。しっかし、我が親衛隊の子犬&子猫達がどんだけ可愛いか、その辺ブラブラ歩いてる生徒がどんだけ美形か、我々の日常が如何に非現実下にあるかを実感させられるねー」
まったくだ。
あの特徴ある喚き声、その声が主張する手前勝手な内容だけですぐに誰かわかる、変装の意味ねーし。
九穂、どこまでも十八学園で浮き上がる存在、異分子だ。
「心太のがよっぽど可愛いぜ…?」
「………だから、モノマネ要りませんって………止めて下さい、その下手な低音ボイス…」
「テへ!しかしまた厄介事のネタが増えたね。あのイタズラ子猫ちゃん共、間違いなく新聞部にリークするだろう。明日の朝はまた号外が出て大騒ぎ、だ」
困る。
異分子の変装が暴かれた所で、あのレベルじゃ「そっち方面」の騒ぎはないだろうが、宮成の隊がまた荒れるんじゃないか。
更に、風紀委員長にも熱狂的な信者が居る。
いや、待てよ。
変装の下が存外フツーだった=その分際で尚且つ、前陽大の様に特別な技能も優れた人格も有していないのに、学園のアイドル達を追っ掛け回している騒音公害、と認識されたら…
学園が、荒れる。
折よく開催される体育祭をキッカケに、これから本番に至るまで荒れ狂ってしまう。
アイドル達に付いている、今まで黙っていた狂信者達も起こして。
荒れ狂った嵐はやがて、「そもそも部外者共が大きな顔をしている」と、前陽大をも道連れに呑み込み、学園全てを崩壊させるに至るのではないか。
ぞっとした所で、ポン!っと軽快に肩を叩かれた。
「大丈夫さ!」
一平先輩のふざけたウィンクが、悪い未来の想像をかき消す程、心強く「大丈夫にする為に、やはり今夜は心太を帰す訳には行かないね!ようし、今夜は俺んチで徹夜合宿だー!」見えなかったぜ、こんちくしょう黒モジャ異分子めが!!
明日なんて来なくて良いさ、と俺はぼんやりと、星々が光る夜空を見上げた。
どうでも良いけど、3ショットも2ショットもさっさと茶番を終わらせて帰れよ…お前等の居る場所通らないと寮に入れないんだっつの!
2011-10-26 22:48筆[ 423/761 ][*prev] [next#]
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