83.天使バルサンが奏でる狂想曲(9)


 もうイヤだ!
 もうイヤだ!!
 もうイヤだ――!!!!!
 こんなガッコ…白馬のほうがずっとマシだ!!
 十八さんだって元々そんな仲良くないしっ、もう十八学園なんて知るもんか!!
 善かれ悪かれ白馬のが、皆オレの意見を聞いてくれたっ、オレをちゃんと見てくれてた!!
 生徒会も風紀も…不良共も、皆、皆、白馬のが優しかった!!
 親衛隊や先生達、クラスのヤツらだって、もっと付き合い易かったのにっ!!
 
 十八学園なんて、どいつもこいつもサイテーサイアクだっ!!!!!

 オレが、このままいなくなったら………
 はるとは、心配してくれるかな…?
 そりゃそーだよなっ、大親友だもん、オレ達!!
 つか、大親友のクセに、オレが今こんなに泣いてんのに、何で飛んで来てくんないのっ?!
 後になって慌てたって遅いんだからな!!
 そうだ、はるとなんかうんと困れば良い!!

 オレを出し抜いて、コウと同じ競技に出るなんて…それも2人3脚とか、超!み、密着するじゃんっ!!
 いくら学園のアイドルでお母さんで、オレの大親友でも、コウの隣なんかはるとには荷が重すぎんだろ。
 はるとがかわいそうだ!!
 そう思って、ヒトが親切に代わってやるって言ってんのに!!
 コウに言われるがまま、イヤイヤ受けましたー困ってますーって顔作ったりして、卑怯だっ。

 そんなのちっとも男らしくないしっ、許せない!!
 大体、コウもコウだ!!
 クラスに入って来た時から、オレが居んのに、はるとやそーすけばっか優先して!!
 コウのカッコいー友達も、皆はるとに注目してさぁ。
 はるとははるとで、ずうっと困ってますーって表情作って、そうしたら構って貰えるってわかってんだろ、すげー見苦しかった。
 やっぱり、ヒロの言う通り、はるとは性格悪いんだ!!

 コウとかそーすけとか、他の生徒会の連中にも色目使って、ううん、風紀にも武士道にもイイ顔してチョーシ乗ってんだ!!
 そうやって十八学園を自分のモノにしようとして…いや、もう自分のモノ気取りなのか?!
 そんなの許せないっ!!
 それなのに…
 折角オレが正直に話してんのに!!
 ミキには一緒に戦って欲しかったのに…
 あんな暴力振るって、ミキも何かおかしくなってるとしか思えない!!
  
 皆、皆、おかしいよ!!
 十八学園って、マジ腐ってる!!
 オレがどうにかしてやろうって、頑張ってやろうと思ってたけど………
 ミキが味方してくんないんだったらもう良い!!
 ミキだって、すっげー困ったら良いんだ!!
 武士道の銀にヤラれてから、ますますオレにくっつき回ってたクセにっ…!!
 部屋にいる時は「寒いから」とか言って、オレの背中に引っついてばっかだった。
 夜だって、「穂が側にいないと眠れない」とか言って、一緒のベッドで寝てた。

 オレがいなくなって困るのは、ミキのクセに!!
 オレには仲間がいるんだから、ミキなんかいなくったって平気なんだからな!!
 ミキなんか誰からも相手されてない、武士道から目ぇ付けられてる、ひとりぼっちのヤバいヤツのクセに。
 オレがいないと、全然ダメなクセに。
 ふん!!
 ふんっだ!!

 …時々、捨て猫みてーな遠い目で、ぼーっとしてるクセに。
 オレがいないと眠れないって言いながら、あんまり寝てないクセに。
 ため息ばっかり、吐いてるミキ。
 あれ?
 オレは、こんなガッコ、もうどうでも良いのに。
 十八学園なんか、わからずやばっかで優しくない、こんな変で狂ってる場所に未練も何もない。
 はるともミキも、コウ達生徒会もダイスケもヒロも、皆、もう知らねー、どうにでもなれって思ってんのに。

 何で、涙が止まんないんだろ?
 何でこんなに、モヤモヤして、心臓の辺りが痛いんだろ。
 オレは病気には気をつけてるから、体に異常はないハズなのに。
 何で???
 ヤツらの事なんか、もう忘れちゃいたいのに、皆の顔が消えない。

 消してしまいたくて、全力疾走で寮から飛び出した。
 確かこっちの方角だった、外へ抜け出るヒミツの道がある所…ミキに、教えて貰って、手を繋いで出入りした場所。
 もう良いんだ、オレはこんなガッコ、大っ………
 「ふえっ?!」
 こんな時間に誰も歩いてるワケないって、思ったから。
 急に外灯に照らされて浮かび上がった、2人の男の姿に心底ビックリした。

 何だよっ、危ないじゃん!!
 オレは、大変な目に遭って忙しいのにって、でも、ウサ晴らしにひと暴れしてからガッコを辞めんのも良いなって。
 相手の2人を改めて見て、ますます目が丸くなった。
 こんなヤツら、このガッコに居たっけ…?!
 コウには劣るけど、すっげーカッコいー!!
 思わずまじまじ見てたら、2人揃って、驚いた顔してる。
 何でだ、と思って我に返った。

 オレ…!!!!!
 今、変装してない…!!
 つか、変装しないまま、部屋から飛び出して来ちまった!!
 ミキとオレの名前が書いてある部屋から、そのまま、この格好で。
 やべー…!!
 誰にも知られたらダメなのにっ!!
 十八の生徒は殆ど全員、ずっと持ち上がって行くから、自然とお互い認識するらしい。
 オレみたいな珍しい顔だったら余計に目立っちゃうし、日頃変装してるだけに、見た事ない知らねー顔のヤツだってすぐバレんだろう。

 今、オレ、明らか不審者だ!!
 こうなったらコイツらには悪いけど…ちょっと痛い目見せて、忘れて貰うしかない。
 十八はどこよりもお坊ちゃんの集まりだ、武士道っぽい気配もしねーし、コイツらも背が高いだけで中身はヒョロいだろ。
 ちょっと脅せば、すぐに言う事聞くだろ…
 ポケットの中の「お護り」に手を触れた時。

 「どうしたの…?大丈夫…?」

 にっこり、黒髪で品のある優しそうな男が、オレに白いハンカチを差し出してくれた。
 久しぶりに聞いた、オレへ向けられる穏やかで優しい声。
 全然声の質が違うのに、何でか「あの人」に似ている声。
 いかにも親切そうな雰囲気、表情。
 あれ?
 何で?
 どんどん、目が熱くなって。
 こんなつもりじゃなかったのに…
 オレは、わんわん泣いてしまった。



 2011-10-23 22:58筆


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