82.宮成朝広の一進一退(5)


 人間やっぱり珍しい事はするもんじゃねーな。
 ソレを目にした直後、俺が最初に想った事だった。

 実行委員と先生方を交えての打ち合わせ後、柾だけ本部に居残り、「3大勢力」は隠れ家へ移動した。
 今の段階で打つべき手段、出来得る限りの雑事を話し合う為だ。
 デカいイベントがある度に、裏の「3大勢力」は苦労する。
 それこそ表の3大勢力も含めた一般生徒共が、想像に及ばない膨大な雑事に忙殺される。
 考えるべき事は幾らでもある。
 この普通じゃない生徒達を抱え込んだ、巨大な学園運営の為に。

 中等部でも同じ仕事内容だが、何せ高等部は桁外れだ。
 何故この俺が貴重な青春を投げ打ってまで、同い年のガキ共の為、学園の為に奔走せねばならないのか。
 中高と続けて来た生徒会、3大勢力に、いい加減飽き飽きしていた俺は、誰にも止められないのを良い事に会長職の権威に胡座をかき、それは奔放に逃げ仰せて来た。
 現在の書記、天谷の比ではない程に。
 凌すら止めなかった、それだけ俺は優遇されるべき存在なのだと悦に入って居たかったが…

 今になって想えば、単に俺が必要とされて居なかった、それだけだろう。
 現実は、いつだって単純だ。

 こんな時間まで拘束され、加賀野井と成勢、日景館から胡乱な目で見られるのは、言う迄もなく愉快な事ではなかったけど。
 俺の中に浮かんだのは、後悔、ただそれだけだった。
 後悔ばかりの、学園生活だった………
 もっと奴らに歩み寄っていれば良かった。
 どうでも良いちいさなプライドを掲げて、鉄壁を築いて、どれだけ無駄な時を過ごして来たのか。

 雑事等つまらない事をトップがやる必要はないと、高をくくっていた、バカにしてきた些末な仕事は、今向き合えばどれも重要な事ばかりだった。
 十八学園の運営に、3大勢力は必要不可欠。
 今更、事実を噛み締めた。
 その、表で踊らされる幾人かの犠牲(一概に犠牲だとばかりは言えない、俺達は可能な限り学園に優遇されては居る)を、無くそうと。
 完全に消し去るには、この制度は歴史が重過ぎる。
 学園の隅々まで馴染み、生徒1人1人の意識に浸透し過ぎている。

 今すぐとは行かない、けれど全ては流転する、ならば変えて行かねばならない事があると。
 1つの新しい歴史を生まんと1方向を揃って見つめながら、仕事に励む奴らの姿は、やっと現状を理解した俺の目には眩かった。 
 マジで、今更だ。
 だが奴らを手伝いたいと想った。
 大きな力に成れずとも、ささやかでも一助に成れた、奴等の負担が僅かでも減るならば。
 そうして、やりたい放題し尽くして来た俺も、この学園で生きた事を遠い未来、懐かしく温かい記憶として誇れたならば。

 結局、突き詰めれば自分の為だ。
 想い出が欲しいとかそういうワケじゃない、俺が此所に居た証をひっそりと刻みたいだけだ。
 逃げてばかり居た弱い俺を、社会に放り込む為に。 
 自尊心を捨てて、その様に正直に手伝いを申し出たら、表でも裏でも実質の最高責任者、柾はただ笑って言った。
 『こき使いますよ?』
 望む所だと、俺も自然に笑えた。

 日和佐と肩を並べて歩くのは、どれ位ぶりの事か。
 隠れ家から解散してから、何となくいつの間にか、コイツと帰路を共にして居た。
 絶対に相容れない意味わかんねー存在だと、対外的だけではなく、実際に歪み合って来たものだが。
 体育祭を前にした、同学年の俺達の胸中はそう変わらないだろう。
 最後、だ。
 これから順次開催されるイベント、全てに「最後の」冠言葉が付く。
 下らない、おぞましいとすら想って来たイベント全てが、今になって感慨深い。
 
 日和佐の家は厳しく、宮成より余程由緒正しい家柄だ。
 恐らく俺達が全力で挑めるのは、この体育祭まで。
 秋の学園祭の折りにはもう、自由の終わりを告げるタイムリミットが稼動して、想うが侭には動けなくなっているだろう。 
 それだけに、互いにどこか感傷的になるのは否めない。
 学園祭の主役は2年と1年、3年は客に過ぎない。
 まだ先だと想っていた、確かに時間は残っているが、もう後がない。
 最後の夏、コイツと同チームになった事は幸運だろう。

 と、俺らしくない行動を取り、気怠い憂鬱に酔って日和佐と帰って来た事、それ自体がクソ珍しいハプニングと言えよう。
 そこへ乱入して来た、明らか不審な金髪のガキに、俺は俺らしく作り上げたキャラクターを大人しく演じておくべき事態だなと、うんざり想った。
 わかり易いトラブル。
 間違いねー。
 十八で長年培って来た、己を守ろうとする本能、直感が最大警報を打ち鳴らしている。

 横目で日和佐を確認した所、案の定、奴の目は生気を失っていた。
 加えて舌打ちまで聞こえた…様な気がする。
 この夜更け、一般生徒の外出は禁じられている時間帯に、泣きながら寮から飛び出して来た小柄な生徒。
 とくれば、なかなかオイシイ設定の様だが。
 ガキくさい泣き方、先ずその時点で無い。
 誰かに構って貰いたいが為の妙にデカい泣き声、夜だという現実を弁えないその無作法さ!

 妙に目がデカい、クォーター辺りだろうか、己の血統や容姿に自信満々の体が窺える、甘え切った表情がありありと浮かんでいる。
 ナルシストが基本の学園内で、最もナルシシズムを極めた親衛隊でも、もっとてめーのレベルは弁えてんぞ。
 つか、親衛隊はマジで可愛い奴揃いだからなー…
 思考が現実逃避したくなる、それ程、嫌な予感でいっぱいだった。 
 凌………
 と、つい元恋人(この代名詞、マジ傷付くな…)の、それは端正な顔が浮かんだ。

 浮かんだ顔が、怒り顔だったのは、何の因果か。



 2011-10-22 23:41筆


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