80.孤独な狼ちゃんの心の中(11)


 ムカつく。

 「あ―――もうっ、どうなってんだよっ!!何ではるととコウが?!それは良いとしてもっ、はるとにコスプレとかっ似合うワケないじゃんっ!!コウも皆もどうかしてるしっ、はるとだって断れば良いのにっ!!似合わないのに…カワイそーじゃんか!!なぁ、ミキ?!」
 俺だってワケわかんねー事態に面食らってる。
 穂はあれからずっとこの調子だ。
 メシ食ってる時もこの話題ばっかで。
 お前だけじゃねーんだ。
 こんなワケわかんねー展開、誰だって妙に感じてるだろ。
 俺が何度諭しても聞き入れやしねー。

 さっき食堂から戻って来る途中、既にバラ撒かれ始めてた下らねー校内新聞の号外を拾った。
 ムカつく。


 『十八学園第80回体育祭速報!!
 ●全部見せます!遂にアノ人気者達の出場競技決定!!
 ●皆の予測を比較検討!!
 ●優勝はどのチームに?!例の投票は既に始まっているぜ!! 

 ○で、出たぁ〜!!柾昴(16)×前陽大(15)!!
 1番の注目株、我等が生徒会長・柾昴のお相手を務めるは、な、なんと我等がお母さん・前陽大!!
 しかも障害物2人3脚走に出場!!
 世紀の異色大カップル誕生か?!
 揺れるAチーム、戦々恐々とする他チームの行方は如何に?!
 そして、今年の柾のコスプレは何だ!!

 気になる情報も入っている。
 最終調整時の事だ。
 柾がいたいけな後輩・前の何が気に入らないのか、それとも嗜虐心を呷られたのか、酷くいたぶって嘲笑し、出場を無理矢理承諾させたと言うものだ。
 本性はかなりの鬼畜どSと噂の絶えない柾だけに、お母さんの今後の安否が危ぶまれる。
 最有力優勝候補のAチーム、難攻不落の柾だが…
 今年は遂に膝を折ってしまうのか?!
 
 若しくはそれは演技だったとの見方も考えられる。
 お母さんと言えば、3大勢力相手の「弁当シフト」が先ず連想されるだろう。
 今迄に何度か実施されている「弁当シフト」を通し、柾と前が人知れず親交を温めていても何ら不思議はない。 
 最終調整を押し進める為にも、柾が一芝居打ったのではないか…
 (しかし、極度の面倒臭がりと名高い柾が、たかが体育祭如きの為に、わざわざ込み入った真似をするものだろうか?ヤツの精神構造が謎過ぎて真実が見えない!更なる情報求む!) 

 いずれにせよ、先日の新歓では無傷を誇り、俊足で名を馳せて居る柾と前だ。
 2人の活躍に嫌が応にも期待が高まる体育祭である。』
 

 どっかでリークしてるヤツが存在するんだろう。
 新聞部の情報収集は異常に早い。
 気味が悪い事に、誰が部員なのかわからねー。
 それにしても、いつでもその場で見ていた様なクソ記事を書きやがる。
 各クラスに1人…いや、数人は居ると見なすべきか。
 穂の機嫌は、コレを見た事で更に悪化した。
 「『柾昴×前陽大』って…!!!!!有り得ないっつーのっ!!絵的に無いっつーの!!」

 変装を解いた穂の怒りは、止まる所を知らない。
 穂は余程、あの胡散臭いカイチョーに心酔してんのか…
 前の相手がカイチョーじゃなかったら、ここまで過剰反応しなかったんじゃねーか。
 コイツにも実際、てめーの気持ちはよくわかってねーんだろう。
 前に異常に固執して、アイツの周辺をやたら気にしてる。
 弁当シフトには必ず付いて行くし、前がちょっとでも動こうものなら即反応してる。
 いちいち前に拘るかと想ったら、カイチョーにも固執してるみてーだ。

 お前は一体何がしたい。
 傍で見ていると、コイツの気持ちが四方八方へ落ち着きなく飛び回っているのがよくわかる。

 そして、そんな穂の側で、ぼけっと突っ立ってるしかない俺に、俺の気持ちが1番見えずに、すげームカつく。

 仁サン…達の事だ、こんな事態はとっくに把握してんだろ。
 俺がどうこう動く必要はない。
 動く事、すらできねー。
 穂を抑える事もできねー。
 そういう「願い事」を受けたから。
 けど、その制約だけじゃねー。
 消えない、初めて味わったアノ恐怖より、てめーの気持ちまで穂に引き摺られて、四方八方に飛び散ってく様でムカつく。

 全てに味も色も何も感じねー、それが当然の日々だった。
 けど、こんなにも味気ないものだったか?

 「なぁっ、ミキっ!!お前も、」
 「うるっせえな…!!ちょっと黙ってろっ!!!」
 腕に絡みついて来た穂を、咄嗟に燃え上がった暴力的な衝動のまま、勢い良く振り解いた。
 加減できなかった。
 穂も油断してたんだろう、そのまま壁に追突して呆然としている。
 「ミ、ミキっ…今、オレの事っ」
 見る間にデカい目が潤み、赤い頬はすぐに濡れそぼった。

 「ヒドいっ!!親友のオレに暴力振るうなんてっ、サイテーだっ!!!!!」
 うわあああんっとガキの泣き叫ぶ声が、部屋の外へ消えてった。
 「クソっ…!!」
 衝動は止まらず、力任せに壁を殴り付けた所で、メールが入った。
 教えたつもりはねー、音成からの短いメールだった。
 
 『件名:ヤッホー
 
 号外、見ただろ?
 美山も穂も、絶対3大勢力に関わんじゃねーぞ。
 前にも関わんな、絶対だ。

 大介(^^)♪』

 
 言われなくてもわかってる内容に、更にムカつき、続けて壁を殴り携帯を投げた。



 2011-10-20 23:59筆


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